第101回から第120回までの開催記録

●2009年4月8日  第101回
テーマ:コミュニケーションの姿勢について
話題提供:東北労災病院心療内科兼勤労者メンタルヘルスセンター 心理判定員 高橋宏明さん
コミュニケーションとは双方が意識的につくっていく対話(やりとり)のこと。
カウンセリングにおけるコミュニケーションもまた人と人との普段のやりとりの延長であるが、臨床心理学的な視点や枠組みを踏まえてクライアントの話を聞き、観察し、かかわっていく。
カウンセリングを構成する3つの枠組み……1)時間、2)空間、3)費用。
自由な時間設定やプライバシーの守られない空間では、クライアントは安心感を感じられない。
一定の制限や枠組みを設けることが効果的なことが多い。
ただし、その時・その場面でコミュニケーションの取り方や枠組みは変わってくる。
机や椅子の配置や座席の位置取りが異なることによって、安心して話せる雰囲気になったり逆に不安を感じてしまったりする。
クライアントとの会話を続ける際に留意したいこと……
 1)一方的に話していないか?
 2)相手と議論になってしまっていないか?
 3)すぐに説明しようとしたり答えを話そうとして結果的に相手の発言を遮っていないか?
 4)「人間は明るく前向きに生きるべき」と考え過ぎていないか?

●2009年5月13日  第102回
テーマ:多様になってきた拡大読書器 ―据え置き型モデルの比較検討―
話題提供:トラストメディカル   小泉 大介 さん
1.たいていの拡大読書器が持っている基本的な機能
 1)対象物を拡大する:ルーペ類よりも高い倍率でモニターに映る
 2)色の切り替え:カラー(対象物をそのまま)⇔白黒⇔白黒反転
 3)オートフォーカス:焦点を自動で合わせる
2.機種を選ぶ際のポイント――できれば実物を試用・比較し、ニーズと照らし合わせたうえで選びたい
1)モニターの種類と大きさ:
ブラウン管型か、液晶型か。なお今回の勉強会で比較検討した6機種はすべて液晶型。ブラウン管型モニターの入手が難しくなってきている。また従来は14~15インチが主流だったが、液晶型モニターが使われるようになって17~19インチが登場するようになった。
2)画面の高さや角度調整ができるかどうか:
標準でついている機種もあれば、オプションで調整アームを取り付けることができる機種もあり。
3)外部接続ができるかどうか:
パソコンのモニターに接続し、パソコンとの画面分割表示が可能な機種も複数あり。
4)左右ライトのスイッチが独立しているか:
書く作業をする時に生じるペン先の影をコントロールする。
5)コントラスト調整ができるか:
図(文字や記入枠など)と地(背景)をより鮮明に映すことで見やすくする。
6)その他:
ラインの表示、マスキングの表示、色の切り替えの選択肢の多さ、対象物を置くX/Yテーブルの有無や操作方法、遠近両用カメラ など。

●2009年6月11日  第103回
テーマ:宮城県視覚障害者情報センター 新体制となって
話題提供:宮城県視覚障害者情報センター 所長  伊藤 甲一 さん

1.情報センターのこと、知られていない!!
 宮城県視覚障害者情報センターは身体障害者福祉法に基づいて設置されている 県内唯一の視覚障害者への情報提供施設。目の不自由な方(障害者手帳の交付を 受けている方)の情報獲得を多角的にサポートすることを目的に、点字図書や朗 読録音図書の郵送貸出し、声の情報誌の提供(情報センターからのお知らせ、生 活情報、趣味、教養、健康に関することなど)、プライベートサービス、音声パ ソコンの体験利用などさまざまなことをおこなってきた。
 しかし、その存在が視覚障害の方々にあまり知られていない。情報センターに 利用登録しているのは宮城県内の視覚障害者の18%(=5.5人に1人)。さらには 県内各市町村の障害者福祉担当の職員の方々にもほとんど知られていないのが実情。
2.より多くの方々に利用してもらうために
 情報センターは今年4月より指定管理者制度が導入され、宮城県視覚障害者福 祉協会が実際の運営にあたるようになった。運営の基本はこれまでと変わらな い。
 目の不自由な方に活発に利用していただくためにも視覚障害者支援にかか わっている人たちと連携しながら、まずはPRに力を入れていきたい。
朗読録音図書の利用方法など、小さな疑問でもお気軽にお問い合わせください。
宮城県視覚障害者情報センター
 電話:022-234-4047
 ※開館時間は平日および第1・第3日曜日の午前9時から午後5時までです。

●2009年7月8日  第104回
テーマ:見えにくい状態で夜の一番町を歩いてみよう ~体験してみて改めて気がつくこと~
話題提供:日本盲導犬協会仙台訓練センター 歩行訓練士  原田 敦史 さん

ロービジョン(LV)のシミュレーションゴーグル(視野狭窄、網膜剥離、硝子体出血などの条件)を用いて、夜の一番町・広瀬通・中央通界隈を歩いてみました。
参加者は眼科の視能訓練士、福祉用具販売店のスタッフ、理学療法士など22名でした。体験終了後に参加者から出された感想の一部を紹介します。
◎誰かの後ろをついて歩くことはできたが、歩くことで精一杯でほかのことを考える余裕がなかった。
◎今回は地理がわかっている所なので良かったが、知らない所は今回のようには動けないだろうと思った。
◎街路灯、ネオン、信号などいろいろな明かりが視界に入ってくるが色による区別がつかず、何の明かりなのかの判断がつかなかった(硝子体出血条件)。
◎光の乱反射がけっこうたいへんだと思った。夜は昼とは違ったまぶしさがあって困ると思った。
◎見えないところからいきなり声がかかるのは怖かった。人とすれ違う時、怖かった。
◎周りの人からの声がけが重要だと感じた。
◎最初は白杖の使い方がわからなかった。途中で使い方を簡単に教えてもらったら、ちょっと助かった。
◎明るいアーケード街を歩くのに比べて暗い路地は怖かった。
◎援助者として歩く側からすると体験中の人の行動は危なっかしいと思った。しかし、体験者としての気づきから考えるとLVの人は「見えているから大丈夫」と思って行動しているのではないかと思った。
◎見えにくいなりに見えているものを如何に利用して歩くかという手がかりやコツをつかめたら、怖さは少なくなるのではないかと思った。見ることだけでなく触覚(白杖)から得られる情報も大事だと思った。
◎LVの人の立場になって考えた時、どんな場面で何に困るかについて周りの人にわかってもらっていないと怖いと思った。他方、周りの人は、その人が何に困るのかがわからないとどんな時にどのような援助をしたらよいかわからないだろうと思った。

●2009年8月19日  第105回
テーマ:音声を使った便利な機器紹介
話題提供:バイスリープロジェクツ  野沢 亮介さん

音声を使った機器として今回は次の3つを紹介していただきました。
(1)音声・拡大読書器「よむべえ」
印刷された活字情報をスキャナーで読み取り、音声で読み上げたり画面に大きく表示したりすることができる機械。サイズは幅26センチ×奥行き42センチ×高さ10センチ。組み込まれているソフトのバージョンがこれまでに数回改定されており、2009年バージョンでは新聞や通帳にも対応。新聞を読み上げさせたい時は読みたい記事の部分だけを切り取るなどしてからスキャナーにセットするとよい。文庫本は比較的容易に読み取ってくれるようである。
(2)パソコンの音声読み上げソフト
現在日本で発売されている視覚障害者向け音声読み上げソフトはXpReader、JAWS、PCTalker、FocusTalk。このうち、利用している人が最も多いのはPCTalkerのようである。ホームページを閲覧する場合は、InternetExplorerを用いる方法と、音声読み上げ機能に長けた専用ブラウザー(NetReaderなど)を用いる方法がある。
(3)録音図書(デイジー図書)再生機「プレクストーク」シリーズ
デジタルデータ版の録音図書であるデイジー図書を聞くための機械として日本では現在、再生専用の簡単操作タイプ、録音・再生ができる多機能タイプ、小型軽量タイプの3種が発売されている。

●2009年9月9日  第106回
テーマ:私がいま、目指しているもの  ―視覚障害を通して学んだ障害者の自立とは―
話題提供:東北大学大学院先進漢方治療医学講座  泉 正之さん

 泉さんが網膜色素変性症の病名の告知を受けたのは電気通信関係の会社に技術 職として勤めていた20代前半の頃でした。それから今日に至るまでの10年間の歩 みを、葛藤や悩み、出会いや学びを中心にお話ししていただきました。
 仕事や日常生活での不自由にはさほど直面していないなかで、網膜色素変性症 という病気を告げられた自分の将来像を予測できない自分に対して不安や恐怖を 感じたこと。そんな時期に、通院していた眼科の視能訓練士が紹介してくれた人 たちにじっくり話を聞いてもらったこと。筑波技術大学に入学してさまざまな背 景を持って入学してきた視覚障害者と接したことで感じた率直な問題意識や違和 感、つまづきをバネにして「自分には何ができるのか」を常に模索しながら目標 を定めて研究職を目指し始めたこと――。 
 そんな軌跡を振り返ったうえで、(視覚)障害を持ちながら育ち、大人になっ て社会の一人として自立していく上では「周りの人にやってもらうのが当たり 前」なのではなく、自ら動いて欲しいものを探していく姿勢が重要であり、社会 の中で力を発揮して役割を果たしていくための機会や経験をより多く積むような 働きかけや環境づくりが大切なことなどについても問題提起していただきました。

●2009年10月14日  第107回
テーマ:視覚障害者へのガイド技術について
話題提供:NPO法人視覚障がい者支援しろがめ 村上 琢磨さん

1.ガイドヘルプを利用する視覚障害者の実態
高齢の視覚障害者が多い⇒加齢に伴う身体的な症状を複数持っている方が多い。
中年期あるいは高齢期にいたってから中途視覚障害となった方が多い⇒視覚障害者生活 訓練プログラムを利用するなどして歩行に関する訓練や指導を受けた方は多くない。訓練 や指導を受けたくても体力その他の事情で受けられない方が少なくない。
白杖あるいは盲導犬を使用して単独歩行をしている方も、例えば初めて行く場所を安全か つ効率的に移動する時などにガイドヘルプを利用することが有効な場合がある。単独歩行 時に比べて精神的なストレスが軽減される事例もある。
2.これから求められるガイド技術
何らかの事情のため白杖を持てない視覚障害者にも確実に対応することができるガイド技 術を身につけ、実践することができるガイドヘルパーが求められている。いかにして移動に必 要な情報をガイドヘルパーが動作で伝え、本人の動きをガイドヘルパーが観察し、結果的 に視覚障害者を危険な目に合わせることなく安心感を与えるガイドができるかがポイント。
そのようなガイド技術を体系的に整理したものが「基本姿勢+7つの基本技術(止まる、足 元を見る、手を導く、声がけ、水平移動、上下移動、対象物を支える)」。詳しくは村上琢 磨、関田巖共著『目の不自由な方を誘導するガイドヘルプの基本 第2版』文光堂 参照。
※今回の勉強会では、椅子への案内と狭い所の通過におけるガイド技術を体験しました。
※しろがめ主催の仙台でのガイド技術研修(3日間)は来年も10月に開催の予定です。
※参考  「NPO法人視覚障がい者支援しろがめ」 ホームページ

●2009年11月11日  第108回
テーマ:視覚障害者の就労と雇用継続に関する問題
話題提供:大阪体育大学健康福祉学部  辰巳 佳寿恵さん

■講演の概要
視覚障害者の職域を取り巻く状況は変化している。まず、あんま・マッサージ・ 指圧師の従事者に占める視覚障害者と晴眼者の割合をみると、1970年代半ばまで は視覚障害者の方が晴眼者を上回っていたが 1978年を境に逆転し、その傾向は 年々顕著になっている。また、電話交換業務や情報処理業務等への就労を想定し た職業訓練をおこなっている施設でも、課程修了者の就職率の低さが課題になっ ている。
他方、障害者の就労支援をおこなう障害者職業センターでは、こと視覚障害者の 支援となると対応件数が他の障害種別に比べてかなり少ないこともあり、ノウハ ウの蓄積が少なく、結果的に十分に支援できていないのが全国的な実態のようで ある。
労働関係法規を知り、労働者に認められている権利を必要に応じて活用していく ことが重要である。
労働組合の人たちに「視覚障害があっても働ける」という情報を知ってもらう必 要もある。
就労で困っている視覚障害者にも行動を起こすことと論理的に考えて発言してい くことが求められる。

■意見交換の時間に出された質問や意見
従業員数が少ない小規模の事業所で働く人が加入できる労働組合はあるのか? ⇒誰でも加入できる労働組合がある。組織によって交渉力に違いがあるので、加 入する前に情報収集することが賢明である。

パソコンスキルなど資格や技術を習得しただけでは職場定着には十分ではない。 障害を持ちつつも自己肯定感をコントロールし、人間関係をうまく取り持ってい くことが重要。そういう意味で盲学校卒業者は社会にもまれる経験が乏しく、社 会への適応という点で「もろい」人が多いと言わざるを得ないと思う。

「自分にはどういう障害があって何に困るのか?」を整理しないまま、ただ「働 きたい」と考えているだけでは就職に結びつかないだろう。また、経営者、人事 担当、直属の上司、本人、職場外の支援者が同じテーブルにつく機会をいかにつ くっていくかも大事。「困難事例をいかに解決していったか?」の情報がほしい。

職場復帰や就労継続を目指す中途視覚障害者とこれから働く経験を積んでいこう とする若い視覚障害者とでは抱える課題が異なることも踏まえたうえで問題を分 析し、解決策を考えていく必要がある。

●2009年12月9日  第109回
テーマ:知っておきたい福祉制度(3) 生活保護制度
話題提供:阿部 直子さん(アイサポート仙台 社会福祉士)

生活保護法は、日本国憲法第25条(国民の生存権、国の保障義務)を受けて昭和25年に制定された法律で、「最低限度の生活の保障」と「自立の助長」を目的としている。
補足性の原理に基いて、「資産・稼働能力等あらゆるものを活用してもなお生活に困窮する者」を対象に 金銭または現物で給付される。原則として世帯単位で支給される。
生活保護の種類として次の8つがある。
(1)生活扶助:飲食物費、被服費、光熱費といった一般生活を送るのに必要な費用を支給する。妊産婦や障害者などがいる世帯に対しては加算がある。
(2)教育扶助:義務教育を受けることに伴って必要となる費用を支給する。
(3)住宅扶助:アパートや借家の家賃、補修その他住宅の維持のために必要な費用を支給する。
(4)医療扶助:医療を受けるために必要な費用(通院にかかる移動の費用も含めて)を支給する。
(5)介護扶助:介護保険サービスを利用するのに必要な費用を支給する。
(6)出産扶助:分娩にかかわる費用を支給する。
(7)生業扶助:生業に必要な費用、生業のための技能習得に必要な費用を支給する。
(8)葬祭扶助:葬儀と埋葬にかかる費用を支給する。

最低生活基準が定められており、保護を必要する世帯全体の収入(年金、給料、仕送りなど)と最低生  活基準とを比較して収入が最低生活基準よりも少ない場合、その不足分が保護費として支給される。
生活保護を福祉事務所に申請すると、資産(預貯金、不動産、保険等)の調査、扶養義務者の扶養の可否の調査、収入(年金・手当て、就労による給与など)についての調査、就労の可能性の調査がおこなわれ、保護の要否が決定される。その結果、保護の適用となった場合、保護費の支給が開始される。保護費受給中は、担当ケースワーカーによる年数回の訪問調査、収入・資産等の届出の義務などがある。
生活保護は国の責任においておこなうことという位置づけから、国が4分の3、地方自治体が4分の1という費用負担割合になっている。

●2010年1月13日  第110回
テーマ:白杖の選択と使い方について
話題提供:内田 まり子さん(日本盲導犬協会)、善積 有子さん(アイサポート仙台)

【第1部:講義】
「白い色の長い棒」である白杖(はくじょう)には次の3つの役割がある。
①安全性の確保(白杖が身体よりも先に障害物に接触することで安全を確保できる。)
②情報の入手(白杖にモノや地面が接触することによって、それが何なのか、どんな材質のものなのか、どういう状況なのかを知ることができる。)
③シンボル(歩行者や自動車の運転手に注意を喚起する、道に迷った時に周囲から援助を得られる。)
白杖の種類は、直杖(ちょくじょう)、折りたたみ、スライド式に大別される。
シンボルとして持つことを主たる目的に作られた白杖もある。一般的な白杖よりも細いため、衝撃に対しては弱いが、折りたたんだ時にコンパクトになる。
石突き(白杖が地面に触れる部分。チップとも呼ぶ)の形にもいくつかの種類がある。
白杖の長さは使う人の身長や歩く時の特徴などを考慮して決める。「白杖を立てた状態で脇の下に入る程度の長さ」というのが一般的な目安になっている。体を支える杖を選ぶ時のポイントとは異なる。
白杖を使用していると石突きがすり減ってくる。その場合は石突きのみを交換する。

【第2部:実習】
「使う人にあった白杖を選んでみよう」ということで、「直杖がいいか?折りたたみがいいか?」を聞き取ったうえで身長に合わせて長さを選ぶことを参加者どうしで体験した。

白杖の持ち方、振り方、リズム歩行、障害物の避け方、階段昇降時の白杖の使い方についても実技を交えながら学んだ。

●2010年2月10日  第111回
テーマ:服薬管理支援について
話題提供:財団法人シルバーリハビリテーション協会 加齢研究所  鈴木 亮二さん

1.患者は毎日決まった時間に服薬するのが大変であり、特に高齢の独居者や認知症患者においては本人の管理が難しいと考えられる。
2.また、薬剤の4週間処方が増え、薬剤の種類、数、回数が多いために服薬管理がますます困難になってきていると考えられる。
3.薬を飲み忘れないためには、薬剤の一包化あるいは薬箱や服薬カレンダーの利用が考えられる。服薬時間を知らせてくれる製品は、薬箱にタイマーが付いているものがある。100円ショップで手に入る薬箱の現物を紹介した。
4.福祉工学研究者という立場から、患者に決められた時間に決められた量の薬を取り出すことができ、飲み忘れた場合に家族やヘルパーが服薬を促す服薬管理システムを現在検討中であり、その概要について説明した。
5.話題提供後のディスカッションで、薬を継続して飲む、点眼するということが難しいといった意見が多く聞かれた。また、目薬やコンタクトレンズのケースは見えないことを前提に作られていないのではないかといった意見も聞かれ、目薬のボトルとキャップを一体化する、コンタクトレンズケースの形状を左右で異なったものにするといった具体的なアイデアも出された。

●2010年3月10日  第112回
テーマ:「読みやすさ」「わかりやすさ」ってなんだろう? ―出版UD研究会の活動を通して考える―
話題提供:読書工房  成松 一郎さん(出版UD研究会 座長)

○読みやすさについて考える
 ロービジョンの人が直面している見えにくさにはさまざまな状態がある。その人の見え方に合わせて拡大、白黒反転、コントラストの調整などが有効である。2008年の「教科書バリアフリー法」によって小中学校の認定教科書では拡大教科書の製作が義務付けられた。
 書籍は現在、パソコンで編集されるものが殆どで、それを紙に印刷して出版している。そこで電子データをもとにパソコンなどで一人一人の読みやすい環境に換える(拡大、白黒反転など)は技術的には可能となっている。電子書籍のますますの普及が望まれる。これは、ロービジョンの方だけでなく、読字障害(ディ スクレシア)の人、色の見え方が異なる人への配慮にもつながる。
 著作権法の改正により障害者の情報利用の機会の確保がなされた。例えば、視覚障害者向け録音図書作成が可能な施設を公共図書館等にも拡大された、聴覚障害者のために映画や放送番組へ字幕や手話つけることが可能になった、著作権者の許諾を得なくても障害ゆえの配慮に必要な加工ができる範囲が広がった、など。
○わかりやすさについて考える
 音声解説つき映画の上映、手話と文章を同時に表示できるソフトの開発、絵や写真も取り入れた伝達など、いわゆる書物の読みやすさへの取り組みに加えて、広い意味での「わかりやすくするための配慮」が少しずつ始まっている。

【出版UD研究会】
毎月1回テーマを決めて、研究会を開催している。
出版UD研究会ブログ

●2010年4月7日  第113回
テーマ:仙台・宮城版スマートサイト構想について
話題提供:佐渡 一成 さん(さど眼科)

 視覚障害者の支援には、福祉、教育、医療などさまざまな方面からサポートが必要ですが、これらのすべてに熟知することは容易ではありません。仙台・宮城は、視覚障害者を支援するリソースに恵まれていますが、それぞれが多忙であることに加え、縦割り行政などのために専門分野以外についてはよくわからないこともあり、十分な支援が受けられていない場合が多く見受けられます。
 そこで、豊富なリソースを連携させ、それぞれの専門性を互いに持ち寄ることで協力して充実な支援を行う体制のアイデアについて相談しました。

 その結果――、
①兵庫県版スマートサイト「つばさ」のようなパンフレットはあったほうが良いので作成する。
②簡単なパンフレットも必要だが同時に情報量の豊富な資料も必要だという意見が大勢を占めた。また、既存のものもあるので周知の方法を工夫すべきだという意見にも同意が得られた。
③レベル1だけでなく、いわばレベル1.5の体制(★)についても準備することになった。そのコーディネーター役としてアイサポート仙台、日本盲導犬協会仙台訓練センターがすでに役割を果たしているという共通認識を確認した。
④レベル1.5で、コーディネーターにつなぐ際には、当事者の個人情報保護に関する注意が必要であると同時に当事者に安心感を持っていただける連絡方法を考慮すべきという点でも共通認識が得られた。
⑤いずれにしても眼科医の協力が必要なので、「集談会」(宮城県の眼科医およびスタッフが集まる勉強会)などで演題を発表するなど眼科医への周知方法も工夫することとなった。

== ★レベル1.5のスマートサイトとは・・・ ==
「支援が必要」な当事者の了解をいただいた上で、コーディネーターに連絡する。⇒⇒コーディネーターが、①面接、②ニーズを確認、③支援プランの作成、④プラン実現のために必要な支援をそれぞれの専門家に依頼する。

●2010年5月12日  第114回
テーマ:仙台市の就労支援について ―仙台市障害者就労支援センターの取り組み―
話題提供:仙台市障害者就労支援センター 所長 諸橋 悟 さん

 平成13年にオープンした仙台市障害者就労支援センター(設置者は仙台市、実際の業務は民間に委託)は、泉区役所東庁舎の5階にあります。平成22年度より運営管理者が替わり、仙台市身体障害者福祉協会が業務を担うことになりました。新体制でスタートするに当たり、「視覚に障害をもつ人の就労支援」も重点的に取り組むべきテーマの一つとして掲げているとのことです。そこで今回の勉強会では、これからの仙台市障害者就労支援センターが目指すこと、取り組もうとしていることをお話ししていただきました。

1.仙台市障害者就労支援センターの基本方針
(1)福祉、労働、教育医療など関係機関とのネットワークで総合的な就労支援システムを確立
(2)就労支援事業所との連携で仙台市障害保健福祉計画の数値目標を達成
(3)生活支援機関との連携で、就労支援~生活支援の体制
(4)職場定着のためのフォローアップや余暇活動
(5)多様な就労ニーズに応え、多様な働き方の推進と職場・職域の開拓

2.仙台市障害者就労支援センターの機能
(1)障害者就労支援を推進するネットワークづくり(連絡会議、運営会議など)
(2)総合相談支援機関
(3)就労移行支援事業所との連携による援助
(4)職場開拓の推進

3.視覚障害者への就労支援
(1)就労の現状と課題の把握(就労率が低い、三療業中心など)
(2)視覚障害に特化した医療、教育、労働、福祉のネットワークを構築し、個々のニーズに沿えるよう多面的、重層的で包括的な就労支援を行えるようにする

 後半の意見交換では、「三療以外の職に従事する視覚障害者は首都圏や関西圏に比べると仙台はまだまだ少なく、様々な点で遅れている。」「ロービジョン者は疾患があることを周囲から気づかれにくい。そのため、どのように職場に伝えるかで苦労した。」「『まず体制ありき』ではなく、個々の事例の実情に応じた援助プログラムを組み立てて実践していくという姿勢が大事である。」といった話題が出ました。

●2010年6月9日  第115回
テーマ:夜間における横断歩道への点滅鋲の設置について
話題提供:東北福祉大学 総合マネジメント学部産業福祉マネジメント学科  岡 正彦 さん

 ロービジョン者が夜間に外出する際、横断歩道や歩車道境界を認知できないために危険にさらされる場合が少なくない。そこで、「危ない」「恐い」という不安要素を少しでも減らすにはどのような道路環境が望ましいかを研究してきた。歩道と車道の境界を明確にするとともに横断歩道を渡る際の目的地(到達点)への視線誘導の助けとなることを目的に開発したのが自発光型点滅鋲である。
○自発光型点滅鋲のしくみ
 発光ダイオードの電球が6つついている。太陽電池で充電して電気を供給する。周囲の明るさを感知する機能を持ち、暗くなれば電球の点滅が始まり、明るくなれば消灯する。地面に埋め込んで使用する。
○実験と実用化の過程
 盲学校に在学、在籍するロービジョン者に協力していただいて実施した実験の結果から、白色の発光ダイオードを点滅周期3Hzで呈示するのがもっとも視認性が高いことがわかった。
 この結果を踏まえて、横断歩道がある交差点に実際に点滅鋲を敷設し、点滅鋲がない状況とある状況での歩行の安全性を検討した。
 現在、仙台市宮城野区にある陸前原ノ町駅前交差点の歩道にこの点滅鋲がつけられている。
※今回の勉強会では、暗い部屋の床に点滅鋲を置き、最長で約8メートル離れたところからの明かりのわかやりやすさなどをシミュレーションゴーグルを用いながら参加者みなさんで体験しました。

●2010年7月14日  第116回
テーマ:立体コピー どう作る? 何に使える?  ~立体コピーシステムの紹介と活用方法大研究~
話題提供:コニカミノルタビジネスソリューションズ 東北支店  加藤 雅生 さん

1.立体コピーシステムの概要(加藤さんより)
立体コピーとは、カプセルペーパーという乳白色をした特殊な紙に膨らみをつけることによってできる「触ってわかる資料」のこと。
作り方はまず、低音モード機能がついたコピー機を用いて浮き立たせたい原稿(文字、図、絵など)をカプセルペーパーにモノクロコピーする。その上でそのカプセルペーパーを「立体コピー現像機」に通す。この立体コピー現像機にはハロゲンランプが内蔵されており、カプセルペーパーに熱を加える役割をしている。カプセルペーパーに黒色でコピーした部分が熱をより多く吸収して膨らみができる。
約30年前に開発された機械で、視覚障害児教育の現場では児童生徒への教材を作成するために多用されている。しかしながら、実はコニカミノルタの社内でもあまり知られていない機械だった。ただ、カプセルペーパーの品質向上やデジタルプリントへの対応(パソコンで作成した原稿をそのままカプセルペーパーに印刷できるようになった)、膨らみの10段階調節機能の開発などの改良がおこなわれてきた。
2.仙台でこの立体コピーをもっと使ってもらいやすくするには? (参加者から出た意見の一部)
200枚単位で販売しているカプセルペーパーを1枚ずつないしは10枚程度単位で入手できるようにすると、少量使いたい時に助かるのではないか。
すでにこの機械を置いている仙台市内の公共の情報施設を活用させてもらえるようになれば、一般の視覚障害者および支援で携わっている人が立体コピーの資料を作成したい時に役立つのではないか?

●2010年8月11日  第117回
テーマ:音声コード(SPコード)の作り方 ~作成、印刷から音声読み取りの確認まで~
話題提供:トラストメディカル  小泉 大介さん

1.コード作成の概要
 コードを作成するソフトとして現在のところ、活字文書読上げ装置のメーカー(2社)がそれぞれ無償版と有償版(7,560円)を提供している。いずれもMS Wordのアドインソフトで、「Wordで作成した文書にワンクリックでコードをつけられる」というしくみを基本としている。
 有償版には、活字文書読上げ装置がなくてもパソコン上で音声読み上げを確認することができる機能など、無償版にはないいくつかの高度な機能が付いている。
2.知っておきたいコード作成のコツ
(1)コードを作成した後、読み間違いがないかを確認することが望ましい。
   例)「裕子さん」を「ひろこさん」と読み上げるか、「ゆうこさん」と読み上げるか?
(2)読み間違いがある場合、以下のような手順で正しく読むコードを作成する。
①コード作成用の仮データとして読み間違い部分をひらがなで表記するようにした原稿を作る。
②コード作成ボタンをワンクリックする。
③できあがったコードを元のデータに貼り付ける。
(3)表形式のデータは「左から右へ、上から下へ」の順で読むようになっている。
表の表記によっては、コード作成ボタンをワンクリックしてできたコードを聞いても内容がうまく伝わらない場合がある。その場合は音声で聞いてわかりやすいように表原稿を文章に加工してからコードを作成するようにする。
(4)印刷位置(余白)、印刷精度についても規定があるため、それに沿って紙に出力する必要がある。
3.最後に……
 音声コードと活字文書読上げ装置という組み合わせも、視覚障害者が情報を得る方法の1つと考えられる。一人ひとりの特性や情報収集のニーズに応じて使う機械を選んでいくことがますます必要になってきている。
 様々な機械や技術の開発が進むことで、今は「そんな方法ありえない……」と思われている方法がそのうち当たり前になったりもするのだろう。

●2010年9月8日  第118回
テーマ:障害に対する心理的適応への支援 ~研究からわかったこと~
話題提供:東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻 鈴鴨 よしみさん

1.はじめに
 障害(疾患や事故による機能低下)に対してその人がどのように認識しているかをあらわす言葉として「障害受容」という表現があり、時間(年月)の経過にしたがってショック期、否認期、混乱期、解決への努力期を経て受容期(克服期)に至るという障害受容の段階モデルが提唱されている。しかし「これって本当なの?」という問題意識を持ったのが研究の始まりだった。そこで「障害への心理的適応」という視点で研究した。
 障害への心理的適応とは次のような状態を指す。
①不安やうつがない
②自分を大事な存在と認識している
③自分には必要なことをする力があると感じている
④自分の障害を受け入れ、他の障害者にも肯定的な態度を持つ
⑤リハビリテーションを進めるのは自分自身であると認識している。
2.いくつかの調査から見えてきたこと
 視覚障害者と晴眼者を比較すると、心理的適応に差があり、視覚障害者のほうが晴眼者に比べて心理的適応に不安定さがみられた。しかし視力別の比較では全盲者とロービジョン者に大きな差はなかった。
 障害への心理的適応を構成している様々な要素間のつながりや影響関係を分析した結果、次のようなことがわかった。
①「まず受容ありき」ではない。障害受容ができていなくても社会参加を促進することは可能。
②自分の状況について何らかの行動をし、自己効力感などの行動の統御感が高まることによって自分の内的価値が高まり、心理的適応が進む。
③社会参加には視力が良いか悪いかということ以上に心理的適応がどうであるかが大きく影響している。
3.障害への心理的適応を促進するために支援者は何をすべきか?~研究を踏まえての提言~
 スモールステップで具体的なゴールを設定することや改善目標を具体的な行動に置き換えること(いつ・どこで・何をしてみる、など)を通して成功体験を積むようにかかわっていくことが自己効力感の向上につながる。
 非適応行動がみられる場合はそれらの行動を起こす要因を明確にし、こまめにかかわっていくことが大事。
 他の障害者の成功体験(失敗や戸惑いからの学びの体験も含めて)に触れることも有効。

●2010年10月13日  第119回
テーマ:視覚障害のある仲間同士の雇用継続支援について ~NPO法人タートルの活動から~
話題提供:NPO法人タートル  金子 光宏さん

1.タートルの歴史
 原職復帰を目標にPCの活用方法の習得などに励んでいた国家公務員のAさん(全盲)を支援することを目的に発足した「視覚障害国家公務員の会」がそもそもの始まり。1995年に「中途視覚障害者の復職を考える会(通称タートルの会)」が発足。「視覚障害者の雇用の促進を図るには雇用主の理解と協力はもとより広く一般社会の理解を得ることが不可欠」との認識から2007年にNPO法人化した。
2.タートルの活動内容
相談支援:相談の窓口は全国8都府県にあり、各地区の代表が初期対応している。
情報提供:情報誌「タートル」の発行(バックナンバーをホームページから入手できる)、啓発セミナーの開催、体験記録集の刊行 など。
調査研究:アンケートの実施、実用マニュアルの作成 など。
3.仙台における視覚障害者の就労の実態
身障者手帳の交付を受けている人約3万人のうち視覚障害者は2,104人(7%)。
視覚障害者のうち65歳以上の人は1,154人(約55%)。15~64歳のいわゆる生産年齢人口にあたる人は921人。
 ⇒障害者の中で視覚障害者は少数派である上に就労が生活課題となる視覚障害者はさらに限られる。
 ハローワーク仙台の就職者データ(平成20年度、21年度)によると、新規に就職した視覚障害者の約6割はあんまマッサージ指圧師関連の職に就いた。
 ⇒職域の拡大が引き続き課題。
4.視覚障害者雇用継続支援チェックリストの活用を!!
就労(の継続)を希望する視覚障害者へ:自分の状況を認識し、活用できる制度を知ろう。
支援者へ:今日の視覚障害者の雇用の状況や就労に役立つ補助機器の動向、制度についての知識を正しく理解し、連携の重要性を認識しながら役割を果たすことが求められる。
※今回金子さんが紹介したチェックリストは、厚生労働省のホームページから入手することができます。厚生労働省「視覚障害者の就労支援」ホームページのURLは次の通りです。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha/06b.html

※NPO法人タートルのホームページは次の通りです。
http://www.turtle.gr.jp/

●2010年11月10日  第120回
テーマ:多様なニーズにこたえる教科書・教材の提供に向けて
話題提供:教育出版株式会社 金子 純朗さん

1.拡大教科書をめぐる社会の動き
拡大教科書とは……小中学校の通常の検定教科書では見えにくいロービジョンの子供たちを対象に、文字を大きくしたり図表や絵・写真などを見やすく変えたりした教科書のこと。
  ※教育出版のホームページから小学校用拡大教科書のサンプルをダウンロードすることができます。
ロービジョンの子供を持つ親御さんの「わが子に少しでも学習しやすい環境を整えてあげたい」という願いに協力することが端緒となって結成された地域のボランティアグループが拡大教科書作りを長い間担ってきた。しかしボランティアグループの力だけでは拡大教科書を希望する子供のうちの約3分の1にしか提供できなかった。さらにそのようなグループがある地域とない地域の格差も大きかった。
著作権法の改正、拡大教科書の無償給与化、そして「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」(通称:教科書バリアフリー法)の施行を経て状況は変わりつつある。
2011年度から小学校で使用される検定教科書のほぼすべてに出版社がつくった拡大教科書が準備されるようになった。見えにくさに個人差があるため、出版社が提供する拡大教科書によってすべてのロービジョンの子供たちの需要を満たすことができるわけではない。しかし7~8割の子供たちに応えられるようになるのではないか。
  ※親御さんや一般の教員が拡大教科書があることを知り、その入手方法を知ることも大事。
2.教育出版での拡大教科書づくり
教育出版では2008年に初めて拡大教科書を作成した。最初は何をどう拡大し、どのような点に配慮してつくったらいいのかわからなかった。しかし、大活字図書に詳しい出版社に助言をもらったり、ロービジョンの人から意見を聞いて改良したりする経験を重ねることによって読みやすさ、見やすさのノウハウがわかってきた。
3.教科書とカラーユニバーサルデザイン
「多くの人とは異なる色覚特性を持つ子供にもわかる教科書づくり」も教科書出版の世界では重要なポイントとなってきた。「いかに中身(内容)を児童・生徒に届けるか」という教科書における合理的な配慮のあり方が問われるようになってきている。