朝もやがゆっくりと消え去り、晴れ渡ったすがすがしい春の一日の始まりで、木々も芽吹き始めた。
ここでは、雪が消えた3月下旬から木々の芽吹きが終わってしまう4月下旬の、この春の1ケ月が、私は一年中で一番好きだ。日光は夏のように、折り重なった木の葉に遮られることがなく、木々の枝の間から地面に満遍なく降り注ぎ、林の中を歩くと乾いた落葉が足元でカサコソと音を立てる。同じ落葉の林でも、秋と違って春は生命が再び輝こうとしている気配を、体中で感じることができる。
毎年冬の大雪で、幾つかの木々が傷ついたり倒れたりする。この林には樹齢何百年もある大樹もあるけれど、多くの木々はそのような樹齢に達することなく、動物たちと同じように、木々たちも自分の命を幾つかの種子に託し、その生を終える。ケヤキ、モミジ、カエデ、ミズナラ、ホウ、ブナ、コシアブラ、アオハダ―落葉広葉樹が50数種類を数える半径100メートルにも満たないこの林で、私は無数の種子が親木の遺伝子を引き継ぎ土から新しい芽を出し、命が受け渡され循環していることに出会う。 |