天空のロエラ


幕 間 4


 マリィ、僕はまたロエラを創ることにしたよ。
 君のお腹に残されていた小さな小さな命の萌芽を元にね。
 今度は君だけじゃない。
 僕も一緒だ。
 いつかこの子達が世界に旅立ち、そして再び出会うとき、この世に女神ロエラは降臨するだろう。
 僕と君は彼らの遺伝子の中で永遠に生きつづけ、そしてまた出会い愛しあう。
 どうだい?
 素敵な話だろう?
 そして世界に、今度こそこの世界に、侵されることなき永久とこしえの平和を与えよう。
 そう。
 君と僕の二人で。
「本当によろしいのですか?」
 カプセルに身を横たえた僕に、コルダは尋ねた。
 君そっくりのコルダ。性格は僕似だなんて、世が世なら嫁に行きそびれてたかもしれないね。
「女の子はもっと笑った方がいい。無邪気に微笑む方がいい」
「エア様。何をおっしゃいます。私は人間ではありません。身体の性別だって、女性の方が何かと頑丈だからとエア様が……」
「君は女の子だったよ」
 僕とマリィの初めての子。まだ人の形もしていないそれのDNAを紐解き、ガイノイドだったコルダの身体に移植して造ったのが彼女だった。
「僕とマリィの世界を頼んだよ、コルダ」
「わかっております。必ずや、マリィ様がお目覚めになり、エア様と再会される日まで、この世界は私がお守りいたします」
 ヒトの脳神経を用いても、身体が人工物だと感情は抑制されてしまうものなのだろうか。コルダには可哀そうなことをしてしまったかもしれない。無事に産まれていれば、君は今頃僕とマリィと一緒に笑っているはずだったのに。結局、僕は何一つ守れなかった。壊すばかりで、愛するものさえも傷つけ、何も手に入れられなかった。
 マリィが目覚めるのはいつになるか分からない。あるいは、もう二度と目覚めないかもしれない。身体だけは、あの時以上に完璧に再生したけれど、もはや彼女の魂はあの身体に残っていないようだった。
 どこに行ってしまったんだろうね、マリィ。
 君が帰ってくるまで、僕はいつまで待てばいいのだろう。
 もう、目を開けてみる夢は見飽きてしまった。
 カプセルのカバーが下りてくる。楕円に歪んだ透明なカバーの向こう、マリィが微笑んでいるように見えた。
 わかっている。あれはコルダだ。コルダが一生懸命笑おうとしているのだ。僕の言うことには忠実な子だったから。
 でも、ああ、なんてそっくりなんだろう。
 眠気と全身の倦怠感が増す中で、僕は彼女に手を伸ばした。
 地下一〇〇階。
 僕が閉ざしてしまった青空は、あの銀色の天井の遥か彼方にある。
「次に見る青空は、マリィ、君と一緒がいい」
 できれば、本物の青空を、君とともに。
 





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