光の大地 空の海

6.大団円……て、何?


 敷島しきしま小柚香さゆか、あと何時間で二十歳が終っちゃうのかなんてもう知らないっ。
 そんなわたしは、日々激動する世界を的確に把握し分析するために経済学を学ぶ超現実派(のつもり)だったのだが、ゴキブリほいっ☆に捕まるがごとく異世界につれてこられ、囚人ナンバー666号という大方の日本人には痛くもかゆくもない番号とともに刑務所にぶち込まれ、いつの間にか貴重な二十歳最後の時間をデスキッスと呼ばれて恐れられ、調子に乗って世界滅亡を企ててしまった孤独なテロリスト。その成果が出たのかどうかはいまだ知らず。
 何せ滅亡の瞬間を見ることなく意識を失ってしまったのだから。
「起きなさい、小柚香お嬢様」
 起こすときまで女王様口調というのはどうかと思う。
 急激に意識を釣り上げられてくらつく頭を抱えながら、わたしはとりあえず声の主を目に力をこめて威嚇した。
「なんなのよ。何か用? 死んだ後までくっついてくるなんて、よっぽどあんた、執念深いわね。もう、ほっといてよ」
 寝たい。
 寝ちゃえばさっきの意味不明な悪夢は覚ますことが出来る。もう一度起きられればの話だけど。
霧島玲亮きりしまりょうすけ、あんたんちの元使用人の息子。幼いころは一緒に遊んだんだって? 会社が倒産してからは解雇された両親とともにどこか遠くにいってしまって、それっきり」
 覚めない悪夢の元凶、ディユ。
 彼女はどうやら表面的な履歴を持ち出して人の古傷をえぐるのが好きらしい。
「だから?」
「その後、どこで何をしてたか知りたくない?」
 持ち掛けてきた問いが、わたしの頭から眠気を取り払う。
 これは、どうやら今わたしの人生の現実そのものらしい。それも現在進行形。まだ、ピリオドは打たれていない、ということか。
「その前に、ここはどこ? さっきの地震はどうなったの?」
 殺風景な銀色の金属性の壁が四方天地を取り囲んでいた。広さは高校の教室一つ分ほど。そこに、ディユのほかに新たな影が現れる。
「ここはサイレス研究所の地下シェルターです。あ、お初にお目にかかります。僕はククルと申します。お初にといってもあなたはもうルヴァシュが僕に化けていた時に僕にお会いしているということですが」
 金髪碧眼の美麗な青年が優雅に首をちょっと傾げてわたしに挨拶をした。
 見た目はわたしがこの世界に来てからはじめてあったククルと同じだ。だけど、中身からにじみ出る優しさというか、ちょっと頼りなさげなオーラは前よりも強い。
 やっぱりどんなに上手く神様が化けていたって、本人の心まではトレースできないということだろうか。
「と、そうだった。とりあえず、全部説明してくれない? わたし、全っ然わかんないんだけど。神様とかルヴァシュとか、滅亡とかデスキッスとか」
 建物が崩れかけているあの場面で置き去りにしなかったのだ。そもそもさしたる害を加えるつもりもなかったのだろうと踏んで、わたしは逃げも隠れもせずに(そんな場所などどこにも見当たらなかったが)ディユと本物のククルとの顔を視線で往復してやった。
 彼らはそれを厳粛な表情で受け止める。
「つまり、簡単に言うとね」
 受け止めておきながら、さらりと視線をはずしてディユはまとめから入ってしまった。
「ちょっと待って。まだ何も話す前からつまりって何よ。まるでわたしが物分り悪いみたいにはじめっから省略しないでくれる?」
「ほんと、いちいちつっかかる子ねぇ。ルヴァシュもこんな子のどこがいいんだか。ククル、説明しておあげなさい」
「はい、主任。小柚香さん、ですからつまりですね……あ……」
 ニコニコと説明しようとしたククルは、「つまり」といってしまってから口を抑えてわたしを窺い見た。
「いいわよ。つまりなんなのよ。ルヴァシュってのは玲亮お兄ちゃんで? この世界の神様の呼び名なわけ? で? わたしがデスキッスでこの世界を滅ぼす者、と」
「おぉー、ピンポンですっ」
 いやぁ、さすがだなぁと手をぱちぱち間抜けにたたいているククルを視界からはずして、わたしはディユに挑むような視線を投げかけてやった。
「私の研究によると、そもそもこの世界はあなたの世界のとある大学の研究室のパソコンの中に造られた、未来をシュミレーションするための模造世界なのよ」
 ようやくディユは赤い唇から神妙に真実らしきことをこぼした。
「模造世界?」
「そ。パソコンにカタカタプログラムを打ち込んで造った電子世界」
「……えー、つまり、わたしは今たとえるならゲームの世界に召還されて閉じ込められている、と。もっと想像の翼を羽ばたかせるなら、その大学の人間がパソコンの電源抜いちゃったり、雷が落ちて停電しちゃったらこの世界はおじゃん。わたしもジ・エンド……ってこと?」
 なんか今ものっすごく悪い妄想が頭の中で繰り広げられてるんですけど。
「前半はその通りね。あなたからすればここはゲームの世界ってとこでしょう。いいえ、あなたの世界の人間からすれば、どんな人間だってそう思うでしょうね。ルヴァシュだって、あなたの世界の人間なんだから」
 ディユは恋敵でも見るようにわたしを見つめた。
「ルヴァシュが神の呼称かって聞いたらそうだって言ったわよね? だとしたら、つまりお兄ちゃんがこの世界をプログラミングした大学の人間ってこと?」
「冴えてるわねぇ、小柚香お嬢様。大体その通りよ」
「前半はあってるだの、大体そのとおりとかって何よ。もうっ」
「まあ、いいからお聞きなさいな。全部話せといったのはあなたでしょう、小柚香お嬢様。ほんと我儘なんだから」
 ディユが呆れてため息をついた。ククルも同様に苦笑している。
 わたしは思わず唇を尖らせて、それからうんともすんとも外の音がしてこない銀色の天井を見上げた。
「あの男はこの世界の創造者プログラマーの一人。上には教授やら他にも何人かの人間が関わっているみたいだけど、霧島玲亮はその教授の助手だった。近未来研究所の教授の、ね。彼らの研究内容は電子世界に現実と同様に設定した世界を基礎構築し、その後どのように発展し、場合によってはどのような結末を迎えるかをシュミュレートすること。勿論現実の何十倍もの速さで時を進めることによってね。彼らは予め未来をシュミレートすることで、これから起こりうるさまざまな問題を予測し、対処する方法を見つけようとしたのよ。例えばいち早く進化した私達が自ら考え出した方法を盗み取ることによって。だけど、この世界は所詮人間が一定の基礎の上に構築したある意味とても偏った世界。方向性としては最悪の未来へと導かれるようになっていたのよ」
「あなたも昨日、今日と体験しましたでしょう? 詐欺を働かなきゃ生きていけない福祉の保障がないおばあちゃんや、効率化の名の元に戸籍のない人間をさくっと死刑にしちゃう法務大臣。そりゃ、募金してくれた人もいたとは思いますが、大多数はかわいそうなあなたにその場限りの愛の手を差し伸べることによって己の虚栄心を満たすためです。あなたが叫んでいた通りなんですよ。効率化を追求し、資本主義を極めるようにプログラミングされたこの世界は、いくら外の景色が自然と技術の調和を目指した近未来都市を模したものだとしても、どんなに空が青くて海が美しい光を湛えていても、生きる人間たちの心はすっかり腐り果ててしまったんです」
 改めてそう解説されると、たった一日かそこらに詰め込まれたたくさんの出会いのシーンが頭の中によみがえる。どことなく無機質に思えた人々が、実は0と1で出来ているんですといわれれば、そうなのかもしれないと納得してしまいそうになる。
「でも、ちょっと待ってよ。わたしは? わたしはどうなのよ? この世界であなたたちと話してるってことは、わたしも今0と1にされちゃってるってこと?」
「それを今から話してあげるわよ」
 話の腰を折られた怒りでディユは冷たくわたしを一瞥した。
「心らしきものがなくなっていくのと引き換えに、私たちは驚くほどの速さで技術を開発していった。その技術力は世界の観測精度を高め、ついに私たちはこの世界に秘密に気づいてしまった。この世界はあなたたちの世界の人間によって作られたただの箱庭だったことに。そして私は見つけたの。あなたたちとの世界との接点――この世界に意識を01化されて送り込まれた管理者、ルヴァシュの存在を。私はすぐに彼にコンタクトをとったわ。そして、直接この世界のあらましを尋ねた。彼は、私だけに教えてくれたわ。口外しないことを約束させて」
 ほんのりディユの頬が赤くなったのは見なかったことにしよう。うん、絶対気のせいに違いない。
 見たくない現実から目をそらし、わたしはさらにディユの声だけに耳をそばだてる。
「サイレス研究所はこの世界で最も研究開発が進んでいるところでね。高度な技術は全てこの研究所から生まれたといっても過言じゃなかった。この世界を作った人間たちが別次元にいると知った後は、私が何も発表しなくなったもんだから、何とかその世界にコンタクトを取りたいとさまざまな試作機を生み出したわ。その技術の粋を集めたのが異次元間転送機。あなたを向こうの世界から引っ張り込んだ厄介な機械」
「あのはた迷惑な片道通行しか出来ない欠陥品」
「そう。でも、ほんとは向こうに行くこともできるはずよ。まだ何も実験してないだけで」
「……それは完成しているとは言わないわよね?」
「言わないわね。でも、向こうの世界の複雑に暗号化されたものを0と1に単純化して再構成し、引っ張り込むことには成功している」
「つまり、わたしは今0と1の塊……」
 うわぁ。今体中総毛立ったんですけど。
「そう。そしてね、ほら、気づかない? 小柚香お嬢様。私たちはついに神様の世界への梯子を手に入れてしまったことになるのよ。それも神とは今となっては名ばかり。技術も知能も劣った古代の人間たちから見れば、むしろ私たちのほうがすべてにおいて勝っている。だって、私たちはあなたを攫ってきたように、いくらでも向こうの世界に干渉する術を持っているんだもの。だけどあなたたちの世界の人間は、近未来研究所の未来シュミレーション研究に携わる極少数の者しか私たちの存在を知らない。干渉できるのも、ただ一つのパソコンを通してだけ。ね。鋭い小柚香お嬢様なら分かるでしょ? 心ない人間が自由のために何をするか」
 一方的にどこにでも干渉できる異次元間転送機。効率と自由とを旨とし、人間らしい道徳やら倫理やらを忘れ果てた人々。彼らはつまり、いつでもあの現実の世界を自分たちのものにできる。何も知らないわたしたちにとっては、大いなる身近な危機。
「それは、勿論この世界を造った近未来研究所の面々も予想するところだった。だから、この世界に直接干渉できる管理者・ルヴァシュを置き、そしてこの世界をデリートするためのキーとして、デスキッス、あなたを置いた」
 神妙にディユとククルはわたしの様子を窺っていた。
 わたしはぽかんとするしかない。
 だってそうでしょ。わたしの何も知らないところで異次元世界の削除キーに指定されていただなんて。少なからず、わたしは見てしまったのよ? この世界に生きている人間がいるってところを。ただの0と1の塊なんかじゃなく、ちゃんと生身の人間が、それこそ偏っているのかもしれないけれど感情を持ってそれぞれ暮らしていることを知ってるのよ?
「だって、でも、消そうと思えばコンピューターの中の世界なんでしょ? 電源抜けばおじゃんじゃない」
「そうよ。だから、電源が抜けてしまっても、雷が落ちてしまっても、自家発電でこの世界が残るようにプログラムが組まれているのよ。この世界はあなたのいる世界の全てから保護されているの。外的な衝撃が加わってしまったら、正しいシュミレーションにはならないから。ただし、現実に害が及ぶような域にまで進化が進んだ場合は、すべからくデリートすることになっていた。それを見定め、場合によっては強制終了をかける仕事を仰せつかったのがルヴァシュなのよ」
「全ては彼の一存にかかっていたんです。だから、僕たちはデスキッスと呼ばれるこの世を滅亡させる削除キーを躍起になって見つけ出し、この世界に連れ込んだ。よもやルヴァシュでも愛しい恋人の存在する世界には手は出せないだろうと踏んで」
「い、愛しい恋人!?」
 顔色一つ変えずに言い切ったククルの胸倉を、わたしは思わず掴んで叫んでいた。
 さぁぁっと音を立ててククルの顔色が青ざめていく。
「ぼ、僕、何かまずいこと言いました?」
 助けを求める視線を注がれたディユは、手を出そうともせずにただ首を横に振った。
「異次元間転送機は、私がルヴァシュたちの意図を知って、これ以上資金が下りないように圧力かけて開発をやめさせたの。でも、それでもあなたたちの世界ではこの世界は消去すべき危険な世界になったと判断されてしまった。すぐにでも削除キーを打ち込もうとしたところで、ルヴァシュは最後のチャンスをくれないかと向こうで掛け合った。それがつい一昨日のこと。だけど、私は自分たちの身は自分たちで守らなきゃと思ったから……ルヴァシュの言葉が信じられなくなっていたから、ククルに命じて削除キーであるあなたをこの世界につれてこさせた。不完全な異次元間転送機の封印を解いてね。でも、それもルヴァシュには見透かされていたってわけ。ルヴァシュはククルを研究所の掃除用具箱に押し込んで自分がククルになりすまし、だけど、私の意図通りに小柚香お嬢様、あなたをこの世界に連れ込んだ。その後のことは、あなたも知ってる通りよ。デスキッスの存在はとうに知られていたから、あなたが刑務官のおばさんをデリートしたのを見て、拘置所の人たちはみんな一発であなたがデスキッスなのだと悟った。それも、どうやら削除キーはその名の通りあなたの唇であるらしいと」
 ディユがどういう経緯でルヴァシュと親しくなったのかとか、どうしてルヴァシュの言葉を信じられなくなったのかとか、そういうおそらくとってもプライベートなことはそれ以上自ら言及はせず、ディユは紅い唇を閉ざした。
 ふくよかで形のいい引き締まった唇。
 お兄ちゃんは……ルヴァシュはあの唇に触れたんだろうか。
「って、ちがうちがう。私が気になっているのはそんなことじゃなくて!!」
 膨らみそうになった妄想をかき消して、わたしはディユを正面から見つめた。
「それで? ディユ。あなたがさっき落ちてくる瓦礫からわたしをかばったのはどうして? それこそ、デスキッスが手に入ったならさっくり殺してしまえばいいじゃない。その方が絶対的に安全でしょう?」
 ディユとククルは目だけで相談しあうように見つめあい、それとなしに頷きあった。
「小柚香お嬢様のことは、ただの人質として預かるつもりだったんです。危害を加えるなんてとんでもありません。だって、ルヴァシュの想い人ですよ? 安易に殺してしまったら、それこそ本当にあの人は心置きなくこの世界を削除してしまうことでしょう。そもそも削除キーに生きているも死んでいるも関係ありません。要は、あなたの唇の紋様がこの世界を構築する全てのプログラムを解いてしまうのですから」
「だからあなたをこの世界に引き入れるのは一か八かだった。下手するとあなたが主体的にこの世界を滅ぼしてまわりかねなかったから。だから、最後の手段として現実に置き去りにされたままの霧島玲亮の身体もこっちに取り寄せておいたのよ」
 ディユがため息混じりにそういったときだった。
「結局君たちも同じだったわけだ。切り札を俺の身体にするなんて。普通なら逆だよ。向こうの世界で美徳とされるのは自分よりも大切なものを守ることだからね。切り札を小柚香お嬢様にするべきだった」
 静かに、もう一つの気配が無機質な銀色い空間に入り込んできた。
「ルヴァシュ! お願いよ。もう一度考え直して。私たちはまだやり直せる。だってそうでしょう? あなたたちの世界に神様はいて? 道を踏み外せば簡単にデリートできる神様がいて?」
 少し離れたところに佇んで語りかけた玲亮お兄ちゃん――ルヴァシュに、ディユは立ち上がって叫んだ。わたしはそんな二人の姿をやっぱり蚊帳の外に置かれたようにククルと二人、ぼんやり見つめる。
「俺は君には期待してたのに。残念だよ、ディユ。君なら、間違った道を突き進むこの世界を糺せると信じてたのに。だから、この世界の全てを教えたのに。君のしたことは非常に安易なことだった」
 ルヴァシュはかっこをつけて片手で指を鳴らした。
 ぱちん。
 その音とともに四方天地を囲む銀色の壁は、暗闇に白く発光する0と1の羅列に置き換えられていく。
「王手だよ、ディユ。君がプロテクトをかけたこの空間以外は、さっき小柚香お嬢様が俺の手にキスした時に全て消えてしまった」
 辺りを見回し、ディユはふらりと倒れた。
 あわててククルが支えようと腕を伸ばし駆け寄る。
「小柚香お嬢様」
 ルヴァシュは――お兄ちゃんはちょっと困ったように首を傾げてわたしの名を呼んだ。
「ご迷惑をかけてすみませんでした。帰りましょう、元の世界に」
 わたしはその声に引き寄せられるようにディユとククルたちの横をすり抜け、お兄ちゃんの手の届くところへと歩み寄る。
 伸ばされたお兄ちゃんの大きな手は、そっとわたしの左頬にあてがわれた。
「小柚香お嬢様! お願いよ! そいつから逃げて! そいつにキスされちゃだめっ! ほんとに私たちの世界がなくなっちゃう!!!」
 苦いものを丸呑みしたようなつくり笑顔で、お兄ちゃんはわたしを引き寄せた。
 ディユのこれ以上ないくらい絶望的な悲鳴が聞こえているはずなのに。
 わたしだって、そりゃ帰りたい。帰りたいよ、元の世界。帰れないって思ってたけど、この世界の管理者が「帰りましょう」と言ってくれたもの。帰れるんだわ、わたし。
 でも、それはおそらくこの世界の滅亡と引き換えだ。
「お兄ちゃん」
 わたしはすっかり大人の顔になってしまった初恋の人を見上げた。
「お兄ちゃんの身体もこっちにあるんでしょう? いいの? お兄ちゃんも無事に向こうに帰れるの?」
「それは……」
 何か、何かあるはずだ。
 だってこれは物語だもの。
 ちゃんと、全部丸く収まる方法があるはずだ。
 わたしも帰れて、お兄ちゃんもちゃんと帰れて、この世界も――この世界も持続されていく方法が。
「ごめん、お兄ちゃんっ」
 わたしは、ルヴァシュを思い切り張り倒した。
 何もいい方法なんて思いつかなかった。
 ただ、そう、お兄ちゃんとキスさえしなければ、ディユたちはまだ存在できる。
 それしか考えつかなかった。
 わたしを世界のいざこざに巻き込んでくれたはた迷惑な人たちー―ディユとククル。友達になれるくらい長く一緒にいたわけでも、お互いをよく知り合ったわけでもない。
 だけど、お兄ちゃん。
 この世界が生きているところを昨日と今日の半日かけて見せたのは、ククルのふりしたお兄ちゃんでしょう? お兄ちゃんだって、長い間見守ってきた世界を、ほんとは削除なんかしたくないはずだ。
 だから、わたしはこの一瞬だけ。ほんの一瞬だけ、自分の正義を行使した。






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