＋　６　部長たち　＋


　社長室ドアの目の前で衝突しあった２人は、一人はのけぞって踏みとどまり、もう一人はしりもちをついて何とか起き上がった。
「いつつつ……なんじゃ、食堂の勤労少年ではないか。建物の中で走るもんではないぞ」
「いった〜……。はい、すいません」
　『食堂の勤労少年』扱いでいいのか。天流宗家ではないのか。という突っ込みはタイザンの口からは出なかった。リクにぶつかられたあごをさすって痛そうにしている幹部服の老人に、実に見覚えがあったからだ。
「な……ナンカイ部長……なのですか？　本当に？」
「おお？　そこにいるのはタイザンではないか！」
　老人のほうも気がついて声を上げた。他人の空似ということはないらしかった。
「タイザン？　今タイザンとおっしゃいましたかナンカイ部長！」
　ナンカイの後ろからクレヤマまで顔をのぞかせる。ソーマは手を打って、
「ちょうどよかった。今、タイザンと、部長職復帰の相談をしてたところなんだ。いろいろゴネててさ。２人からも説得してやってよ」
と促した。
「おおーそうか。戻ってくるかタイザン。ワシは嬉しいぞ」
　ナンカイは無邪気にタイザンの手を取ってぶんぶん振った。
「いや、戻るわけでは……。ナンカイ部長こそ、職務に復帰されたのですか。四国のご家族のもとに帰られたのでは」
「おう、今も毎週末帰っとるぞ。ずいぶん仕事を減らしたんじゃ」
　そう言って豪快に笑う。逆に、クレヤマは複雑な顔をしていた。
「社長……タイザンは他流派の闘神士では……」
「いいじゃんそんなこと。一般部門の担当になってもらってもいいんだしさ」
　ソーマは屈託なく応じる。クレヤマは眉間のしわを深めた。
「しかし……そうは言っても、先の大戦で我らを……」
「そう言うなクレヤマ」
　止めたのはナンカイだった。
「あれも元はといえば、我ら地流の責もある。それに、今ミカヅチ社にとって何より必要なのは優秀な人材じゃ。あやつは生え抜きの若手ではないか」
「……確かにこの１年、タイザンが戻ってきてくれればと思ったこともありましたが……」
「そうじゃろうそうじゃろう。
　のう、タイザンよ」
「は、はい」
　昔の癖で素直に返事をしたタイザンに、ナンカイはあの、悪巧みをするような、しかし楽しげな笑顔を見せた。
「一から出直して、新しいよいものを作るというのは楽しいぞ。タイザンよ、またわしらと共に夢を追わんか」
「あ…………」
　タイザンは言葉に詰まった。「そうだな」とクレヤマもつぶやく。
「お前にとっては敵地でのつらい日々だったかもしれんが、今思えば実に楽しかった。ミカヅチ様と、われわれと、皆で地流を大きくしていったあの日々はな。トップは変わったが、タイザン、また部長４人でやろう。俺は歓迎するぞ」
「クレヤマ部長……」
　こみ上げてくる思いに、震える声でそれだけ言うのがやっとだった。胸に手を当てて言葉を捜し、
「……ん？」
　あることに気づいた。

08.12.18