+ 2 新社長 +
「あ! タイザン!」
デスクから、見知らぬ子ども歓声を上げる。そう、一瞬ではわからなかったのだ。その、椅子にふんぞり返った、やたら悪趣味なスーツを着た子どもが、自分のかつての部下だとは。
「あ……飛鳥ソーマ?」
上から下までなんども見直し、記憶のうちの雷火使いと照合しているうちに、ソーマは笑顔で雅臣に語りかけた。
「やっぱりマサオミに頼むのが一番だったね。ありがとうマサオミ」
「いえいえ、これくらいお安い御用です。で、ソーマ、約束の報酬は……」
「わかってるよ。はい」
分厚い紙の束が手渡される。
「やった! じゃ、牛丼食べてくるから俺はこれで」
「待て」
スキップせんばかりの勢いで社長室を出ようとした雅臣の首根っこをつかんでねじりあげる。
「雅臣。貴様、私を売ったな?」
「おいおい、誤解するなよ。俺はただ、タイザンを連れてくれば牛丼タダ券100枚くれるって言うからそうしただけだぜ?」
「それを売ったというんだ!」
雅臣をどなりつけ、そのまま奥のデスクに視線を移した。
「飛鳥ソーマ……だな?」
いまいち自信がなかったので疑問形で呼びかけると、ソーマはにやりと傲慢な笑みを浮かべた。こんな顔で笑う子どもだったろうか。タイザンはますます疑念を深める。
「確かにボクは飛鳥ソーマだけど……今は飛鳥社長と呼んでほしいな。今のボクは、このミカヅチグループの社長なんだから」
「……はあ?!」
絶句したタイザンに、ソーマはさらに唇を吊り上げる。そして左手にあごをしゃくって見せた。一歩進み出たのはあの秘書だった。いつもミカヅチの横に控えていた、金髪の彼女だ。……髪型が妙な形に変わっているが。
「昨年3月、飛鳥社長は正式にわがミカヅチ社の代表取締役社長に就任されました」
手元の資料に目を落としながら、淡々と読み上げる。その間にちらちらこちらに視線をよこすのは、どうやら今の質素な小袖姿がよほど珍しく思えるかららしい。
「また、飛鳥社長は現在ミカヅチ社の株の57%を保有しておられます」
ミカヅチ社の株を57%。タイザンは愕然とする思いだった。この世界的大企業の株の過半数をだと?!
……やりかねんな、こやつなら。3秒ほどで、ごく自然にその結論に達する。
「そう、ボクがミカヅチ社の二代目社長なのさ」
椅子にますますふんぞりかえり、ソーマはいかにも金の亡者といった、歪んだ笑みを顔面にはりつかせた。本当にこれは私の知る飛鳥ソーマか? 握ったこぶしがじっとりと汗ばむのを感じつた。
「……その二代目社長が私に何の用だ。……いまさら」
問われて、ソーマはまた秘書にまたあごをしゃくった。音もなく歩み寄ってきた秘書は「タイザン部長、これを」と何かを差し出してきた。
「あ、ああ」
受け取った赤いそれは、紛れもなくかつて自分が着ていた地流幹部服だった。
「タイザン、今日付けで君を本社の部長職に任命する!!」
ソーマの張り切った声が響いた。
08.12.8
ずっと書きたかった、ED後のタイザン再スカウト話です。
元部長は現部長に返り咲くか否か。
たぶん、シリアスの入り込む余地がないです。
|