+  バレンタインですから  +

   ※ホワイトデーですから(去年の話)を先に読んでもらったほうがわかりやすいかもです。


「わかったぞ、オニシバ」
 勢いよく顔を上げて、タイザンが言いました。
 時は2月上旬、立春のころ。場所はといえば高い高いミカヅチビルの最上階近く、天流討伐部長室の中でした。
『へい? 何がわかったんですかい?』
 首をかしげたオニシバに、契約者は「もらわなければいいのだ」と何か高揚した口調で言いました。
『へい。何を』
「チョコレートだ。そうだ、もらわなければよいのだ! 喜べオニシバ、今年は3倍返しに悩まされずともすむぞ!」
 椅子の背もたれにそっくりかえり、長い付き合いでも初めて見る高笑いなど披露するタイザンの姿に、こんな寒々しい夜に残業までして、何を考えているのかと思えばそんなことですかい―――オニシバはそんな風に思ったのでした。
 ―――あと、あっしァ別に3倍返しに悩まされちゃァいないんですがね。


『ダンナ、聞かせちゃくれませんかい。もらわなきゃいいって、どうやってもらわねェで済むようにするんで?』
 地流での地位が上がるたびに増えていった大量の義理チョコと、そのたびにホワイトデーのお返しに四苦八苦する契約者の顔を思い出しつつ、オニシバは尋ねます。
「決まっている。当日有給を取ればよいのだ」
 自信たっぷりに言うタイザンに、オニシバは小首を傾げました。
『ダンナ、自分がどうするか考えてみなせェよ。今日休みなら明日渡そうってェ考えになりやせんかい。今日渡せねェなら捨てちまえってな人はいないでしょうよ』
 タイザンの自信たっぷりの顔がひきつりました。
「……なら、次の日も休んでやる。いや、いっそ一週間ほど連休にしてやるか」
『そいつァ剛毅だ。でもダンナ、休みの次の日ってのは、机の上はどうなってやすかい』
「……………………前日持ち寄られた書類が山積みだ……」
『その書類がちょこれーとに変わるだけじゃねェかって気がするんでさァ』
 タイザンは苦虫を噛み潰したような顔で黙りました。
「……貴様私を苦しめて楽しいか」
『とんでもねェ』
 ほどほどに困ってる顔を見てるのは嫌いじゃありやせんがね、とオニシバは心の中で付け足しました。
『ちゃんと考えておかねェと、後で泣くのはダンナですぜ。違いやすかい』
 返事がなかったところを見ると、タイザンもそうは思ったようです。思ったようですが、素直にそう認めるのも癪に障るようでした。
「チョコレートアレルギーになった。とでも宣伝しておくか」
『ちょこれーと以外のもんをくれるんじゃありやせんか』
「……天流討伐部ではバレンタイン禁止!とでも……」
『それを素直に聞いてもらえるくれェならお返しで悩むこともないでしょうよ』
「バレンタイン前にウツホを復活させるとか」
『月食がそれまでにありゃァ良かったんですがね』
 タイザンは喉の奥でうなりました。
「やっぱり私を苦しめて楽しんでるだろう」
『だから後で泣くのはダンナですぜって。それに苦しんでるダンナなんざ見たかァありやせんや』
 ちょいと困った顔なら見てて楽しいんですがね、とオニシバは心の中で付け足しました。
『ガシンさんにでも任せちゃァどうですかい。去年もうまいことやってくれたんでしょう』
「………………」
 デスクに肩肘をついていたのをやめ、チェアに軽くもたなおし、それからタイザンは言いました。
「確かにうまくやったがな……。あやつめ、渡した金のあまりを全部牛丼に変えたようだからな。不摂生はよせと言ってあるのに。……なんだオニシバ」
『いや、別になんにも』
 神流の計画に、地流の仕事。おまけにガシンさんの心配もこっそりしなきゃならねェんだから、うちのダンナは大変だ。
 オニシバはそんな風に思ったので、ちょっと真剣に考えてみることにしました。今まで考えていなかったわけではないのですが、所詮は人間社会のこと、式神の自分にできることはないと思っていたのです。
『ダンナはちょいと考えすぎなんじゃありやせんかい』
 いい案が見つかったわけではありませんでしたが、とりあえず言ってみました。
『この時代なら、物はいくらでもあるでしょう。店に入って最初に目についたモンを人数分買って撒けばいい、その程度に考えりゃァいいんじゃありやせんか』
「ちょうどいいものが最初に目につくとは限らぬだろうが」
 軽く論点がずれています。
『いや、いいモンわるいモンと考えずにですねェ、』
と続けようとして、納得するよう説明できる自信がだんだんなくなったオニシバはやめました。
「まったく面倒な時代だ……。大体なんだ、バレンタインだのなんだのと。そろって商業主義におどらされおって」
『まあ昔っから商売ってのはそういうもんじゃありやせんかい』
 タイザンはいまいましそうに舌打ちしました。
「われわれは闘神士であって商人ではないぞ。踊らされる必要性が、」
 ふと、何かに気づいたようにタイザンは目を見開きました。
「……そうか、われわれは闘神士だ。闘神士ではないか。わかったぞオニシバ!」
『へい』
「もらわねばいいのだ。バレンタインにチョコレートを」
『そいつァ確かさっき』
 オニシバをさえぎり、タイザンは自信満々に言い放ちました。
「われわれは闘神士だ。私にチョコレートを渡したかったら、闘神士らしく戦って勝て! さもなくばもらってやらぬ! これだ! これでいける!」
『ダンナ、それは無茶ってもんじゃ……』
「ヒラ闘神士たちが私にかなうと思うか! 片っ端から記憶喪失にしてくれる! オオスミめがまた何か妙なものを渡してこようとするだろうが、今度こそ返り討ちだ!」
『オオスミの姐さんと戦う気ですかい?』
「本気ならば五分五分以上の戦いができるはずだ。いざとなったら相打ち覚悟で大降神でもなんでもしてやる!」
 そんなつまらねェことでお別れは嫌ですぜ。と言ってはみたのですが、高笑いする契約者に届いた様子もなく、オニシバは1人、やれやれと肩をすくめるのでした。


 今年も天流討伐部長がお返しに悩まされるのは確定事項のようです。

08.2.14



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蛇足的おまけつきです