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「タイザン! 牛丼、買ってきたぜ」
見ればガシンがビニール袋片手に息を弾ませて入ってくるところだった。
「ガシンではないか、おぬしも来たのか」
ショウカクが言い、それとほぼ同時に
「珍しいなショウカク、タイザンのマンションに来てるなんて」
ガシンは手の包みをテーブルに置いた。
「地流の者どもの、で、でぶ……を見ていたのだ」
「DVD、だ」
訂正し、映像が流れ続けるテレビを指さす。
「ガシンも覚えておけ。これが白虎のランゲツ使いの、飛鳥ユーマだ」
「へーえ、こいつがねえ。まだお子様じゃないか」
「腕も、それほどではないな。我らの敵ではない」
本部での模擬戦闘の様子を眺め、二人は余裕を見せる。確かに同感ではあるのだが、このところの成長の著しさは、タイザンには少々気がかりだった。
「それより牛丼食べようぜ牛丼! ショウカクが来るって知ってたらもう一人前買ってきたんだけどな。仕方ないか。3人で分けて食べようぜ」
「私は要らぬ。二人で食べろ」
そっけなく言って、タイザンはふと違和感を覚えた。ここは私の部屋……か。さっきまで、まるで伏魔殿でショウカクと話しているような気がしていた。ガシンの言うとおり、ショウカクがこの部屋にくることなど珍しいからそんな錯覚にとらわれたのだろう。
ガシンはさっさとキッチンへ立ち、レンジで暖め直した牛丼二つを手に戻ってきた。あくまでいらないと通したので、ショウカクと1つずつ分け合って食べ始める。
「そういえば、ショウカク」
「食べながら喋るな、ガシン」
横から注意してやったのに見向きもせず、
「あの話はタイザンにしたのか?」
あの話?とタイザンが首を傾けると、ショウカクはとたんにそわそわし、
「うむ……タイザン、頼む、これを届けてはもらえぬか」
たたんだ書状をふところからおずおずと差し出してきた。
「手紙か? 届けろと、誰に」
何気なく表書きを見て、
『さんたくろうす殿』
その意味を把握するのに2秒、そのまま机に突っ伏すところだった。
「この時代にはさんた殿というものがいて、大雪の間に欲しいものを伝えておけば、冬至の3日に1つだけくれるというではないか。以前食したほっとけいきなるものがどうしてももう一度食べたくてな……。それにはタイザンを通じてさんた殿に頼むのが一番よいと言うから」
「それは誰に聞いた」
「ガシンだ」
「俺のほしい物も中に書いてあるから、サンタさんによろしく!」
ガシンがやたらとはしゃいだ声で言う。
「……ガシン、ちょっと台所まで来い。……いやショウカク、すまぬが少しあちらの部屋まで行ってくれ」
「? まあよいが」
ショウカクがすたすたと出て行き、ドアがばたんと閉まる。
「……貴様ショウカクにいいかげんなことを教えるなと何度言ったら分かる!!」
「いや、俺はこの時代のメルヘンを教えてやっただけさ。夢があるっていいよな」
「何が夢だ、ショウカクをダシに自分の欲しいものを買わせようとしているのだろうが」
「だってさー、ほしいんだよ原付〜。あの中古のでいいからさー、頼むよタイザンー」
「黙れ、誰が買ってやるか」
「ふーん。がっかりするだろうなーショウカク。あいつ変なとこ純真だから」
ぐっとつまりかけたが、
「ホットケーキの10枚や20枚は買ってやる。おまえは自分で小遣いを貯めろ」
「またまた〜。ショウカクだけに買ってやって、可愛い弟にはないなんてご冗談を」
「可愛い弟など生まれてこのかた持ったことがないわ!」
怒鳴りつけたところで背後のドアが開いた。
「おぬしらまた兄弟げんかか」
キッチンで突っ立っているのに飽きたらしかった。
「仲間内で口論などしても何の役にも立たぬぞ。その分の力は天地打倒のためにとっておけ」
年中契約式神と口論しているおまえに言われたくないと心底思った。
「それがなショウカク。タイザンは機嫌が悪いからサンタさんに手紙を届けてくれないんだってよ」
ガシン貴様そういう卑怯な真似をするなと思ったが、ショウカクの耳を気にして口に出すのを戸惑ってしまった。その一瞬にショウカクは眉根を寄せ、
「むむ……。タイザン、このとおり、頼む。おぬしの多忙は重々承知だが……」
頭を下げる。ガシンの言うとおり、妙なところで純真な平安生まれの夢を壊すのもはばかられ、かといってそのままガシンの策に乗るのも業腹だし、しかしホットケーキだけは請け負うからというのをどう説明していいものか、タイザンはこのところオーバーヒート気味の思考回路をまた全速にして考えた。
「ショウカク、いい考えがあるぜ」
横から口を出したのはガシンだ。
「サンタさんはな、よい子のところにだけくるんだ。年末も近いことだし、ここは一つ、このタイザンのマンションを大掃除して俺たちの心がけのよさをサンタさんに見てもらおうじゃないか」
「おお、そのくらいならばお安い御用。雑巾はどこだ?」
「おい待て、ショウカク!」
「まーまー、サンタさんはあっちで休んでいましょう」
勝手に掃除を始めてしまう二人にため息をつき、タイザンはその場を離れて窓を開けベランダに出た。
雪はまだ降りつづけている。タイザンは左手を伸ばし、その一片を手のひらに受けた。右手に持っている唐傘を無意識にくるくると回し、
07.12.19