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車両が減速し、進行方向に向かって押されるような力がかかる。タイザンは右手をついて倒れそうになるのをこらえた。
電車は人もまばらな駅に停まる。ドアが開くと左肩に冷たい空気が押し寄せてきた。雪が降っている。深夜の最終列車の中、横長の座席で一人、半分眠りかけていたらしかった。妙な夢を見た気もする。
「どこだ、ここは」
『次の次が降りる駅ですぜ』
乗り過ごすことだけは避けられたようだった。
「車内保温のため、一旦ドア閉めます」
アナウンスとともにドアが寒風をさえぎると、タイザンほっと息をついた。車両の中には自分ひとりだ。
『ダンナ、見て下せェ』
オニシバが霊体のまま、神操機から出てきた。ホームのほうを指差す。
『雪だるまですぜ』
「雪だるま? どこだ。見当たらんぞ」
『ほら、あそこにちっちぇェのが見えるでしょう』
ベンチの上だった。誰が作ったのか、手のひらに乗るほどの小さな雪だるまが置いてある。松葉のようなもので手がつけてあったが、適当なものが見つからなかったか目鼻はまだつけられていなかった。
『誰もいねェ夜の駅に雪だるまが一つってのも、粋なもんですねェ』
「ああ……」
返事が適当になったのは、今さっき雪が降りだしたばかりなのに、どうやって小さいとはいえ雪だるまを作れるほどの量を集めたのだろうと不思議に思ったからだ。
「ドア開きます。ご注意ください」
アナウンスが入った。しばしの時間の後発車のベルが鳴る。
「お待たせいたしました。発車いたします。ドア閉まります」
車両が動き出す。降車駅まであと5分程度か。座席の背にもたれると、頭が窓について冷たさが伝わってきた。雪はまだちらついている。少し量が増えたような気がした。
「これは積もるか?」
『さァ、積もるんじゃありやせんかい』
「いいかげんな返事だな。おまえの節季だというのに、はっきりと言えぬのか」
『あっしァ司ってるだけで、おてんとさんをまわしてるわけじゃァありやせんからね』
「不甲斐ない。ダイヤが乱れぬよう雪を止めますくらいのことを言ってみせろ」
『無茶言わねェで下せェよ、ダンナ』
オニシバが笑っている。タイザンも深く息を吐いて窓を見た。雪と夜のむこうに街の光がうっすらと映っている。
じき年末か、とタイザンは仕事のことを頭に浮かべた。ボーナスが出ると一気に部下どもの気が緩むから喝を入れねばならぬ。それから年末の事務処理を徹底させなくては。まったくあやつらは神操機を振ることはできても、そういった社会人としての義務はまったく抜けているのだから困ったものだ。他の部の者はもっときちんとしているらしいのに。
まあ、扱いづらい部下の管理も天流討伐部長としての仕事のうちか……。そこまで考えて、自分は一体何をしているのだろうと思った。そういえば誰かに笑われた覚えがあるような気がする。そんなことは闘神士のする仕事じゃなさそうだ、と。
すっかり物思いにふけっていたところに、威厳ある声がかけられた。
07.12.15