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消費者はそんなに悪いのか

 いつか見た靴選びに関する新聞記事には「女性は足を小さく見せたいためか、小さめのサイズを履いている人が多い」という指摘があった。また、ある靴選びの本の表紙を見ると「外反母趾をはじめ足のトラブルの多くはあなたの無知と誤解が原因!!必ず快適な靴が見つかります」と書いてある。

 しかし、足を小さく見せたいために小さめの靴を選んでいる人は実際どれだけいるのだろうか。ほとんどいるとは思えない。ほとんどは、『日本人の足は本当に幅広?』で書いたようなメカニズムで無意識に、あるいは私のように知っていても小さいサイズを選ばざるを得ない状況に追い込まれて選んでいるのではないだろうか。

 無知と誤解が原因というのも間違いではない。コラム《売れる幅と多い幅》で書いたように、売る側と買う側のニーズが合わないために起こることでもあるので、一つの原因ではあると思う。しかし、消費者の立場から言わせてもらうと、素人が無知なのは当たり前だし、実際の日本人の標準サイズ(D幅とかE幅とか)を置いているお店の方が少なく、欲しくても簡単に手に入らない状況。また、靴屋に行ったって、正しい選び方を知っている店員の方が圧倒的に少ない。一番の原因はそれではないだろうか。

 こういった靴の記事などを見ると、どれを見ても選ぶ側だけの問題のように書かれていることに憤りを感じる。消費者はそんなに悪いのか、そんなにバカなのか。

'07/03/27


トウシューズが一人で立つこと

 トウシューズを選ぶ基準で、トウシューズが一人で立てるということをあげる人がいますが、私はトウシューズが一人で立つことはそんなに重要であるとは思いません。なぜならトウシューズが一人で踊るわけではないからです。一人で立つトウシューズは少なくとも安定が悪くないことは間違いがないでしょう。しかし、ダンサーがトウシューズを履き、ダンサーもトウシューズも一体となったひとつのかたまりというか人形であると考えたとき、トウシューズはその人形のパーツにすぎません。パーツが一人で立てるかどうかは、人形が一人で立てるかどうかとあまり関係がありません。トウシューズはダンサーに履かれたとき、バランスの位置が変わってしまいます。

 もしトウシューズが一人で立つことが重要なのであれば、ドンカクなトウシューズは全部ペケということになります。ドンカクなトウシューズを一人で立たせようとしても、底側が重くて立ちません。しかし、ドンカクなトウシューズを履いた時ベストなバランスになるダンサーもいるのです。

 同じシューズでも、履く人によってバランスの感じ方というのは違います。ダンサーが元々持っているバランスというものが一人一人違うからです。ダンサーのパーツであるトウシューズがダンサーの足先にはまったとき、元々持っているバランスに上手く合致するものがそのダンサーにとって安定の良いトウシューズといえるでしょう。

'05/06/05


子供達の足はどうなるの?

 今の日本人は足の細い人が増えているが、特に小学生などは、かなり細いようだ。たまに子供達のレッスンに入ることがあるが、細なが〜いウサギ足の子がゴロゴロいる。でも、トウシューズはというと、メーカーの意識は“幅広志向”に変わってきていて、どんどん幅広化している。

 国産メーカーはここ数年の間に発売されたものは、普通幅と幅広しか無かったりする。中にはC幅やB幅があるものもあるが、どういうわけかカタログに載せず、隠してあって出し惜しみしたりするのだ。私がバレエを始めた頃は、某国産メーカーの本店に行けば、注文しなくてもC幅も少し並んでいたと記憶している。それなのに今は、注文しようとしても、渋られてなかなか売ってくれないのだ。ひどい場合「木型が無いので出来ません。」とまで言われることがある。しかし、その幅があることは知っていたので、「自分の責任で選び、絶対に返品しない」とまで言ってやっと注文することができた。

 また、幅広化しているのは、日本に限ったことではないようだ。アメリカの某メーカーは昔からあるものは、A幅か、B幅からあったのに、数年前に発売になったものは、ミディアムとワイドの2種類しかなか無い。細くて気に入っていた、ロシアの某メーカーもマイナーチェンジをしているようで、注文するたびに広くなっていく・・・・。別のロシアのメーカーは、一番細いものでも大して細くない。フランスの某メーカーは、なかなか細幅を作ってくれなくなった。このフランスメーカーに吸収されたイギリスの某メーカーも、最近細幅が手に入りにくくなったと聞いた。

 細幅の人が多いのに細幅が普及しない原因はいろいろあるが、大きな原因のひとつに「お店に売っていない」ということがある。自称幅広の人が、細幅を試さないのは仕方がないとしても、売っていないのでは、自分は細いという自覚がある人でも、お店に無いので試しようにないのだ。たいていの場合、取り寄せることは出来るが、数ヶ月も待たなくてはならない。数ヶ月待って注文したものが合わなくても「特殊なサイズなので返品は出来ません」と言われたりする。でも、幅のゆるいトウシューズで、予想をつけて細幅を注文するというのは想像以上に難しく、返品も出来ないとなると非常に勇気が要る。誰も無駄な買い物はしたくないから、諦めてしまう人も多いだろう。

 お店に「細い幅を常時入れて下さい」と要望を言うと、「履く人がほとんどいないから」とか「特殊なサイズだから」と言われることが多い。今や細幅は決して特殊なサイズではない。それどころか、各メーカーの一番細い幅でもゆるすぎる位細い人もかなりいる。履く人がほとんどいないのは、細い人がほとんどいないからではない。「売っていないがために、細いものを履いてみたことが無いがために、細いことに気づけない人」もたくさんいるだろう。店員のフィッティング能力が無いのも大きな原因だ。また、気付いている人でも、「合うか分からないものを取り寄せる勇気の無い人」、「取り寄せを待っている暇が無いという理由で、妥協している人」も大勢いるだろう。「売っていれば試してみたい」と思っている人はたくさんいるはずだ。

 私のように大人で趣味でやっている人はまだいい。長時間履くわけでは無いから、多少合わなくてもトラブルも少なくて済む。痛ければ脱げばいいし、消費もそんなに激しくないから、取り寄せも3ヶ月でも半年でも、気長にのんびり待てばいいわけだ。しかし、本格的にやっている子供達はそうはいかない。どんどん成長するから3ヶ月も半年も待っているのは、失敗の方が多くてやっていられないだろう。

 今売っているトウシューズと子供達の平均的な足を見ると、大半の子が合わないトウシューズを履いていると思われる。当然皮がむけたり、爪が黒くなったり痛いだろう。それでも痛くても履かないわけにはいかない。このまま子供達の足が細くなって、トウシューズが幅広化していったら、今の子供達の足はいったいどうなってしまうのだろう。トウシューズに限らず、子供用のスニーカーなども、幅広化が進んでいる。今の子供達に外反母趾が多いのは、運動不足などが指摘されているが、合わない靴なら、運動すればするほど足が壊れていくというものだ。

 ある雑誌のお便りコーナーの10歳か11歳くらいの子のお便りで、「トウシューズを履くと、タコやマメや水ぶくれが出来て足がボロボロになるけど、バレエが好きだから頑張ります。」という健気なものがあった。足に合っていればそんなに痛い思いをしなくて済むのに・・・かわいそうでならない。

'03/10/11

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「売れる幅」と「多い幅」

 今の日本人には足幅の狭い人が増えているということは、このサイトの至る所に書いた。実際に自分の周りを見渡しても、結構細い人が多いことに気付く。しかし細い人の中にそれを自覚している人は少なく、本当はB幅やC幅でも「自称EE」、「自称EEE」という人がいっぱいいる。だから細い人が多いのに依然として靴売り場に細い靴が増えない。それどころかどんどん幅広化している。「EEEと表示しないと売れない」という現象も起こっているらしい。

 「売れる幅」と「実際に多い幅」にはギャップがあるのだ。トウシューズの世界でも同じ事が起こっている。(それでもトウシューズは幅展開があるだけ、水やりなどの加工が出来る分だけだいぶマシだが)

 幅広靴が売れる原因は自称幅広の人だけではない。もうひとつ、「ゆったり靴信仰」だ。多くの人が「ゆったりの靴が楽」「ゆるい靴ならトラブルが起こらない」と信じているのだ。「ゆったり靴信仰」がEEEの靴の売上に拍車をかけているのだ。

 「トウシューズが痛いのだけど、どうしたらいいか。」「(普段の靴で)外反母趾になってしまったのだがどうしたらいいか」などと先生や医者や靴屋に相談して「大きめの靴を履きましょう」「ゆったりの靴を履きましょう」とアドバイスされたことのある人は多いのではないだろうか。また、靴売り場や通販の靴のキャッチコピーなどを見ると「ゆったりラクラク」「指先にゆとりのある木型で外反母趾予防」等という言葉を目にする人は多いのではないだろうか。ゆったり靴がいかに楽であるかがまことしやかに語られているのを目にし、且つぴったりとフィットする靴の快適さを経験したことの無い人なら誰でも「ゆったり靴は楽なのだ」と信じてしまうのは無理のないことだろう。私も昔はその一人だった。

そうだ、日本人は二重に洗脳されているのだ!だから厄介なのだ。

 細い人が靴を選ぼうとすると、大抵は小さいものを選んでしまう。そのメカニズムについては『日本人の足は本当に幅広?』を参照されたい。小さい靴を履くと指は握ってしまうし、踵は強く圧迫されて痛い。痛いからと大きめの靴を選ぶと、今度は歩くたびに前後に動いて外反母趾が痛くなったり、小指にマメが出来たり、歩くたびに爪が前にぶつかって痛くなったりする。でも、痛いのはゆったりの靴で解消すると思っている人は更に広いものを選ぼうとしてしまう。

 このような状況で消費者に「どんな靴が欲しいか」とアンケートをとると、「ゆったりで楽な靴が欲しい」という意見が多く集まるだろう。そしてメーカーはゆったりの靴を作る。消費者はそれを履く。ますます足のトラブルが増える。メーカーにまた「ゆったりな靴を」と意見が届く。という悪循環ではないだろうか。この悪循環で、ますます「売れる幅」と「多い幅」のギャップは大きくなっていく・・・。

 最近、外反母趾治療グッズや足のケアグッズが増えた。これは逆の見方をすると、足に合わない靴を履いている人が増えたと考えてもいいのではないだろうか。

 「売れる幅」と「多い幅」、両者を一致させるには、作る側が認識しているだけでは不十分で、消費者も正しく認識する必要がある。今は靴の選び方への関心が高まってきたようで、テレビや雑誌で靴の選び方の特集が組まれることが多くなったが、私がそういうものを見ていつも感じることは「説明不足」ということだ。そういうものを見て、

「捨て寸というものがあるんだ!」
「サイズだけでなく幅が合っていることも必要なんだ」
「広い人は広い靴、細い人は細い靴を履かなければいけないんだ」

ということが分かっても、なかなか自分の足が細いということに気付くに至らないと思う。「細い人は細い靴」といっていても、細い人の多くが自称幅広なので、「私は幅広だから関係ない」と思ってしまう場合が多いだろう。「日本人は幅広だ」と洗脳されているに等しい「自称EE」、「自称EEE」の人に、正しい選び方を知っただけで、実はC幅や、D幅だということを気付かせるのは大変なことだ。まさか自分が「細い足」だとは夢にも思わないという場合が非常に多いと思う。(実際私のリサーチでもB幅やC幅の人の中に「広めだと思っていた」という人が多い。)

 また、こういった靴特集では、きつい靴の害ばかりで、ゆるい場合の害が説明されていないことがほとんどだ。また、「なぜきつい靴を選んでしまうのか」というメカニズムを説明されているのは1つの記事を除いては見たことがない。
だからああいった特集で、
(*)「日本人の足は平たいので細い人でも広めに見えますよ」
   「広く見えても、もしかしたら細いかもしれませんよ」
   「今の日本には細い人が非常に増えている」
   「きついだけでなくゆるい場合もトラブルが多いですよ」
   「幅だけでなくタテのサイズを見直す必要も絶対にありますよ」

ということを強調する必要があるのだ。また、メーカーや販売員も「正しい選び方」を説明するだけでなく、このようなことを強調していく必要があると思う。

 最近、靴メーカーの方から「消費者の方も足に興味を持って研究して欲しい」という言葉を聞いた。しかし、興味を持って研究すればすぐに細いということや、ゆったりでなくピッタリフィットするものがいいということに気がつけるのだろうか?

 私の靴の研究はトウシューズの研究と同時にスタートした。きっかけは最初に履いたトウシューズのシャンクが全く足についてこなくて不快だったことと、同時期に、ある雑誌の特集を読んだことだ。その雑誌には「捨て寸」と「細い人は小さい靴を選び間違いやすいこと」と「外反母趾はゆるい靴を履いている人がなりやすいこと」が書かれてあった。
 その記事をきっかけに、もしかして私の足は細いのでは?と疑い始めた。「どうやら細いらしい」ということは割と早く気付いたが、トウシューズの場合、細幅は細幅でもどの程度細いものが合うのかと大体分かるのに6〜7年くらいはかかってしまった。(詳しくは『コラム』《堂々巡りの日々》参照)普段の靴は、研究を始めてから、15年近く経ち、これだけ強い感心を持って研究していても未だに完璧に満足できるものに出会っていない。その原因が「売ってない」ということはもちろん、それ以前に「合う幅が無いという事実に気付くまでに年月がかかった」ということと、プロの説明が不十分なので自分でゼロに近い状態から試行錯誤するしかなかったということだ。シューフィッターがいる靴屋がやたらとあるわけでもないし、買ったものが合わなかったからといってすぐに買い替えたり、数万円するオーダー靴を気軽にオーダーしたり、気軽にイタリアに行ったり出来るほど、私はリッチではないということも付け加えておく。

 今考えるとその記事はかなり優秀な方だったと思う。(残念ながら記事を無くしてしまった)その後のいろいろな雑誌などで選び方を説明しているものはたくさん見たが、「ゆるい靴を履いている人が外反母趾になりやすい」と書いてあるのは見たことが無い。また、「日本人の足は目の錯覚で広く見える」と書いてある記事は皆無だ。

 自分の周りの人に靴のことを説明するのに、「思いこみの壁」というのはものすごいものがあり、正しい選び方を知っただけでは、全く不十分だと実感する。だから、雑誌やテレビの特集を見ただけでは全く不十分なのだ。だから私はこのサイトでは思い込みの壁を打ち破るべく、しつこいくらいに(*)のようなことを入れたのだ。

 今は靴への感心は高まっているが、間違った情報の方が多く氾濫しているように思える。だから「消費者の方も足に興味を持って研究して欲しい」と言われても、ちょっと感心を持って研究したくらいでは、たちまち間違った情報に騙されてしまうことの方が多いように思う。私の靴への感心は家族でも呆れるくらいで、夜な夜な2時間くらい自分が持っているいろいろなトウシューズや靴をとっかえひっかえ履き替えて「あーでもない、こーでもない」と考えたりしていた。そんなことをする人はほとんどいないだろうし、そういうことを何年も続けてもなかなか答えが出るものではなかった。また、私はものの形を観察する事がすっかり習慣になっており、観察力も普通の人より少しあるようだ。それでも「正しい情報が少ない」「ほとんど売ってない」状況の中でぴったりを見つけるのは難しいのだ。

 靴メーカーの中にも、今までの既成概念やイメージだけで商品展開していたり、捨て寸や靴の履き方を知らないとしか思えないようなとんでもないメーカーもあるが、ちゃんと研究して今の状況を把握しているメーカーもある。でもそういうメーカーでも「売れるサイズ」と「多いサイズ」のギャップという壁にぶち当たる。商売を考えれば売れるのを作るしかないという状況もたしかにあるだろう。しかしながら、「EEEと表示しないと売れない」と嘆くのではなく、「正しい靴を買ってもらうにはどうしたらいいか」、「なぜ正しい幅が売れないのか」ということをもっと消費者の視点で考えて欲しい。
 靴メーカーは「正しい選び方」を示しただけでは全く不十分だということと、選び方だけでなく、今は「細い人が増えているという事実」と「ゆったりではなく“ぴったり”したものが足のためにいいという事実」を、消費者に広く知らしめる努力をする必要あるのだということを認識して欲しい。

'03/04/23


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