聖封神儀伝 2.砂 剣
第5章 親愛なる君へ
◆ 1 ◆
初めての子供が誕生した時の感動を、今でもまだついさっきのことのようによく覚えている。十数時間呻き苦しんだ末にサヨリが産み落としてくれた命。サヨリが死んでしまうんじゃないかと思うほど難産で、自分が代わってやれないのが歯がゆくて仕方なかった。何事も分かち合おうと言い交したのに、こればかりはサヨリに任せるしかなくて、俺様はおろおろとサヨリの手を握っていてやることしかできなかった。
「女の子でございます!」
産声が上がり、産婆が叫ぶ。汗まみれで疲弊しきったサヨリはそれでも誇らしげに微笑んだ。
「わたくし、やり遂げましたわ」
掠れた声で囁かれても、俺様はいまだ狼狽えていて情けないことに声が出ない。
「よく……よくがんばったな……!」
何とか振り絞った声は男泣きに震えていた。
産湯をつかった赤ん坊は触れただけで壊れてしまいそうなほどもろく思えた。
「そんなにおっかなびっくり触らなくても、案外赤ちゃんは丈夫なもんです。なにせお母さんの力を借りながらとはいえ自分でお母さんのお腹から出てくるんですもの」
熟練の産婆は恰幅よく笑いながら新米の父親をからかう。
そうは言われても腕の中の赤ん坊は初雪のごとく柔らかく、触れれば溶けてしまいそうだった。
目はまだ開いていない。小さな口ばかりを大きく開けて泣くので精一杯だ。
ペチャっとした小さな鼻。ぱやぱやと頭に生えた黒っぽい産毛。心ばかり五本に分かれたぽっちゃりとした指を小さいくせにぎゅっと握って、顔を赤くして生きているぞと高らかに主張する。
かわいい。
どんなに大きな声で泣いていても、かわいい。かわいすぎる。
かつてこれまでこんなにかわいいものに出会ったことがあっただろうか。いや、ない。
宝だ。
この子は宝だ!
「サヨリ、ほら」
頬ずりしたくなるのを何とか堪えて、わが子との対面を待ちわびているサヨリの横に寝かせてやる。
と、サヨリの表情は今までに見たこともないほど和らいだ。ただ和らいだんじゃない。目にはしっかりとこの子を守るのだという決意が宿っていた。とても強い、これが母親の表情というものなんだろう。
ぐったりしていたはずなのに、サヨリは人差し指で赤ん坊の指に触れる。赤ん坊はギュッとそれを握る。
ああ、なんてかわいいんだ。俺様も混ぜてくれ。
「あら、冷え込むと思ったら珍しい。雪だわ」
いろいろと後片付けをしてくれていた産婆がふと窓の外を覗いて呟く。
暗い窓の向こう、窓明かりに照らされてひらりひらりと砂漠ではめったに降らない雪が舞い降りていた。
「メル……メルーチェ」
「メルーチェ?」
「砂漠の雪。珍しいもの、貴いもの。出会い難いもの。得難いもの。故に、出会えれば幸運。宝物だよ。大事にしよう」
「素敵ですわね。メルーチェ」
十二月も半ばに差し掛かった十二日。砂漠に囲まれた鉱土宮に珍しく雪が舞った夜、俺様たちは初めて赤ちゃんの誕生というこの上ない僥倖に身も心も満たされていた。
大事にしよう。
その心を忘れたことはない。
なのに、どうしてこうなってしまったのか。
「メル、メルはどこだ?」
あの時初雪のようにこの手の中で溶けてしまいそうだと思った赤ん坊は、大きな病気をすることもなくすくすくと成長して、本当にあっという間に十三歳の少女になっていた。
人であるサヨリの血を引いているから成長が早いのかといえば、同年に生まれたほかの子たちよりは二、三歳ほど身体の成長は遅いらしい。しかしながら頭の方は早熟で、六歳にしてすでに俺様の書棚を漁って文学、政治学から草木学、地層学まで読みふけっていたんだからかなわない。家庭教師をつけても家庭教師の方が教え諭される場面が多いらしく、教えに行くというよりも教えられに行くことを楽しみにするような奇特な学者ばかりが残ってしまった。
もちろん本を読み漁るばかりの子ではなかった。外で遊ぶのも大好きな子で……いや、遊ぶというか冒険というか。中庭の噴水の周りで花を観察していたかと思って安心すれば、ふと目を離した瞬間にいなくなっているのだ。大概は森の中でキノコの観察をしていたり、倒れた木の根元をしげしげと見つめながら年輪を数えたりしているのだが、森にも飽きると今度は砂漠に出ていくようになってしまった。
「鉱山は危ないから入っちゃだめだぞ」
小さいころからそう言い聞かせてきたから、裏のキルヒース鉱山には入って行っていないようだが、広大な砂漠に出られると見つけにくくなるため余計にまずい。
「姫なのに……どうしてああもお転婆になってしまったのか……」
うっかりそう呟いてサヨリを見ようものなら、「わたくしがお転婆だったせいですわね。ええ、分かっていますとも」と一気に機嫌を損ねてしまうことになる。
「別にサヨリのせいだなんて言ってないだろう。知性も好奇心も君譲りで素晴らしいと言いたいんだ」
こっちの期限も悪いとつい売り言葉に買い言葉になってしまう。
いや、別に悪い意味で言ってるわけじゃないんだけどさ。そう聞こえちまうことだってあるだろう?
「父上、母上、けんかしちゃだめ」
それに引き換え、錬、お前ってやつは……
「錬はお利口さんだなぁ。今日はどこまでお勉強が進んだんだ?」
「はい、父上、今日は鉱土の国の地理についてラフマン先生からご講義をいただきました。鉱土の国はすごいんですよ。一見砂漠に囲まれていて、オアシスでしかお野菜などの食べ物は取れませんが、何もなさそうに見える峻厳な鉱山の中にはたくさんの宝石のもととなる原石が眠っているのです。鉱土の国はその原石を宝石に加工して、他国に商い、たくさんの食料を得ているのです」
「おお、よく勉強してるな」
頭を撫でてやると錬は嬉しそうに目を細める。
錬は十一歳になるが、メルと比べるまでもなく男の子としてもおっとりしていて、家庭教師につけた学者たちをできすぎで困らせることもできなくて困らせることもない。剣や体術の方も人並み以上にこなしてみせる。問題は……いや、これを問題というのもおかしい気もするが、錬は大人しすぎるのだ。何でもできる。でも、自分で好んであれやこれやに手を出そうとしないというか、どちらかというとこっちの方が深窓の令嬢に向いているというか……まあ、純朴そうに見えて生まれも育ちもたくさんの人が出入りする鉱土宮だ。人の顔色をうかがうことに一番心を砕いている様が見ていて何とも痛ましい。その辺り、メルとは違った方面でできすぎな子だった。
そして、何よりの問題は。
「鉱様、メルーチェ様なのですが、いまだにどの魔法もお使いになれる気配がないのです。錬様はすでに鉱土法王の嫡男らしく私たちでも使えないような発破の魔法もお使いになれますのに。この間もキルヒース鉱山で難航していた岩盤を崩して新たな坑道を開いてくださったのですよ」
魔法学の教師は、この間錬をキルヒース鉱山に連れて行って魔法の使い方や意義を実習してきたときの報告を兼ねて付け加える。
俺様は眉をしかめる。
「二人を比べるな。魔法が使えないくらいなんだというんだ」
「はっ、申し訳……」
教師の謝罪を最後まで聞かないまま、俺様はその場を歩き去る。
サヨリだって魔法を使えないが立派に俺様の妻をやっているじゃないか。魔法が使えない人だって最近はたくさんいる。うちのメルーチェだけが魔法を使えないからと言って責められるいわれはないはずだ。
なのに。
「魔法が使えないなんて、ほんと役立たずのお姫様よねぇ」
錬自身は魔法を使えることを言いふらしているわけじゃない。魔法で人の役に立ったという話も、家族団欒の時間に口にしたこともない。魔法学の教師だって周りに言いふらしているわけではないのだ。おそらく。
鉱土法王の娘だというだけで、嫌でも周囲の注目を集めることになる。魔法を使っているところを見たことがない。そんな侍女たちの他愛もないおしゃべりがいつの間にかあの娘は鉱土法王の娘なのに魔法が使えない、という話になっている。もっとひどいのは……メルが俺様の子じゃないんじゃないかとまで……
「んなわけあるかっ!」
メルだけじゃない。サヨリまで侮辱した奴は、たとえ噂話でも面白半分でも、即刻捕えて処罰した。
自分でも敏感すぎるかもしれないと思うこともあるが、そこまでしたって人の口に戸は建てられない。噂話はどんどん拡大し、メルは一向に魔法が使えるようにならなくて真実味を帯びてくる。
いつでもどこでも堂々として俺様とラブラブなサヨリを侮辱する奴はすぐにいなくなったが、メルは、その、姫にしてはというか、その辺の普通の女の子に比べると、というか、いや、人と比べるなと言っといてあれだが、やっぱりちょっと変わっている向きがなくもなくて……いや、かわいいんだ。かわいいんだよ? かわいいんだけど……だから心配なんだ。そうやって「普通」から逸脱している様を見るたび聞くたび、この先どこに行ってしまうのか、と。魔法が使えないことを、本人が一番気にしているんじゃないか、と。だからどんどん一人で奇行、じゃなくて好奇心の赴くままに行動していってしまうんじゃないかと。
「わたくし、魔法が使えないことなど気にしていませんわ。魔法など使えなくても、わたくしには知識があります。知恵があります。行動力があります。それらを駆使して、必ずや鉱土の国の人々のお役にたって見せますわ」
にっこりと笑顔でメルは言う。
「お、おう、頼もしいな、メルは」
そう言って頭を撫でていたのはもうずっと昔の話。今はさすがに父親に頭を撫でられて喜ぶような年でもないが、それでも俺様たちには掛け値なしの笑顔を見せてくれる。それに、女の子っぽいことが嫌いというわけでもないんだ。この間はサヨリと一緒にクッキーを作ったといって俺様にもおすそ分けをしてくれた。小さい頃から嫉妬もせずよく錬と遊んで面倒も見てくれていて、錬が家庭教師でも答えられないような敏い質問をしたときには、教師に代わってメルが教えてやることだってあった。
「僕はメル姉上をこの世で一番尊敬しています」
だから、錬はメルが大好きだった。父である俺様やサヨリを差し置いて尊敬していると公言しちまうくらいに。
メルも錬のことを本当に大事にしてくれているようだった。錬にかける言葉の端々に愛情がうかがえるし、草木の観察のために森に錬がついてくることは許しても、砂漠に出るときには必ず錬は置いて行った。
「また姉上に置いて行かれました」
半泣きでがっかりした風体で、何度錬が愚痴りに来たことか。
メルは決して悪い子ではない。できすぎているから、周りからは嫉妬と相まってちょっと理解されにくいだけなんだ。
サヨリは何があっても飄々としていた。
「メルは大丈夫ですわ。鉱様とわたくしの子ですもの。強い子です。信じてあげましょうよ」
強いのはお前だ、サヨリ。
無条件で信じてあげられるサヨリが、きっとこの世で一番強く、おそらく、この世で一番メルのことを理解している。
「あの子はわたくしの若いころにそっくりです。いいえ、むしろ憧れるくらい。うらやましいわ」
そう言いながら、サヨリはメルを上手に誉め、甘えてくれば甘えきるまで甘えさせてやる。そうだな、メルはサヨリには人が変わったかと思うほど甘えん坊だった。特に錬や俺様がいないときなんかは、猫のようにサヨリに甘えていた。
「不安なんですわ。敏い子ですもの。周りが自分のことをどう思っているのか、どう言っているのか、あの子はちゃんと気づいています。魔法が使えないことを気にしていない風を装っていますけど、本当は貴方以上に、あの子は気にしているのですわ。だから、少しでも努力で補王としているだけなのです」
メルがサヨリから離れていった後、こっそり部屋に戻った俺様にサヨリは言った。
サヨリは、俺様がメルが魔法を使えないことを気にしているってことも、ちゃんと気づいていた。
「法王の娘なのに。なんて、思うつもりもないのに、そんな話が聞こえてくると……気になりだしてしまうものなんだな。信じてやろうと思うのに……こんなに自分の気持ちが思うままにならないなんてな」
「シャルゼスに聞いたんですって? どうしてメルが魔法を使えないのか、と」
咎めるでもなくサヨリは俺様を抱きしめる。
「なんておっしゃってました?」
「メルには必要ないから、と」
必要ないわけがない。あれほどまでに城中、いや、国中の者から後ろ指差されるように言われて、欲しないわけがない。それとも、そんな歪んだ考えじゃ精霊たちは力を貸してくれないっていうのか。
『俺様はもういいからメルについてやってくれってのもなしな。俺はお前に使えるためにここにいるんだから』
シャルゼスには先を見越してしっかり釘を刺されていた。
「確かにあの子には必要ありませんわね」
俺様にとっては死の宣告とも等しかったシャルゼスの言葉を、サヨリは意にも介さず笑い飛ばした。
「鉱様、よろしくて? わたくしも魔法を使えませんけれど、ちゃんと幸せですわよ? 魔法が全てではないのです。魔法は幸せになるための手段でしかありません。単なる道具なのです。あの子はその分を自分の知識で、知恵で、行動力で補うと言っている。逞しいじゃありませんか。この先、神界人のもっとたくさんの人が魔法を使えなくなっていくかもしれません。それでも幸せに生きていける世の中を、きっとあの子は作ってくれますわ」
それは……そんな世界は……。
神界じゃない、なんて言えなかった。人界や闇獄界と同様の世界。いや、それよりももっと不便な段階でこの世界は留まらざるを得ないのだ。
統仲王に魔法を与えられる代わりに、技術革新を意図的に禁じられているから。
ある日、メルーチェは行方不明になった。
いつものことだ。二、三日するとケロッとした顔で、いや、顔に一つや二つの切り傷がついていたりすることはあるが、何事もなかったかのように帰ってくる。今回も砂漠にでも出て迷子になったのだろうと思って、とりあえず秀稟に場所だけでも把握しておくために探しに行かせた。だが、どれほどくまなく秀稟が砂漠を見て回っても、メルーチェの姿はどこにもなかったというのだ。
「メルーチェ様の足で行けそうな範囲にはどこにも。それよりもさらに範囲を拡大してみましたが、やはりどこにもいた形跡がないのです。通りかかった商隊も見かけなかったと申しておりました。どうしましょう、親方様、奥方様。もしかして蟻地獄に落ちてしまったとか……」
「それはこの間のことだろう? 中心に何があるか知りたさにわざと落ちたといっていたではないか。たまたま秀稟が見つけてくれたからよかったものの、蟻地獄には二度と近づくなとよく言い聞かせておいたんだぞ?」
「ですよね。ですが、親方様、今回は、その、砂漠にいる気がしないのです。勘と言われてしまえばそれまでですけど、砂漠にはメルーチェ様の気配がしないのです」
うーん、と考え込んだ時だった。
すでに鉱夫たちが帰った後のはずのキルヒース鉱山から派手な爆発音が轟き、大地のみならず鉱土宮をも揺らした。
「秀稟、行くぞ」
「あなた、行ってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくる」
急ぎ、宝亀に姿を変えた秀稟の背に飛び乗って、シャルゼスとともにキルヒース鉱山を山肌沿いに上っていく。
キルヒース鉱山の西側、まだ坑道など開けていないはずの場所から煙が上がっている。
「噴火か?」
「いや、そんなはずはない。俺がいる限り、鉱土宮をそんな危険なことに晒すか」
「だよな」
煙を噴いていたのは山の六合目程度のところからだった。とりあえず硫黄臭もしないし、危険なガスも発生しているわけではないらしい。近づいてみると、風に吹きさらわれていった煙の中から一人の人影が見えた。
「父上―! シャルゼスー! 秀稟ー! わたくしはここでございますー!」
精一杯両手を振っていたのは、行方不明になっていたメルーチェだった。
「メル!」
もちろん俺様は許可なくキルヒース鉱山に入ったメルーチェを叱ることも忘れてメルを抱きしめた。散々抱きしめた末に、ようやくメルを叱らなければならないことを思い出す。
「メル、鉱山には入ってはいけないとあれほど言っていただろう? なぜ一人で鉱山になんか入ったんだ」
「ごめんなさい、父上。でもわたくし、昔父上がお小さい頃に一人でこのキルヒース鉱山に入られて、シャルゼスと出会ったというお話を聞いたら、どうしても入ってみたくなってしまいましたの」
健気にメルーチェは言い募る。
どうしたんだ、と思うほど素直に、それらしき理由を口に乗せている。
「わたくしも……わたくしと契約してくれる精霊に出会えるんじゃないかと思って。ごめんなさい。本当にごめんなさい。わたくしが浅はかでございました!」
でも俺様には目の前のメルーチェがどうしても何かを隠そうとしているようにしか見えなかった。真実を隠すために、人々が口に乗せていた噂話を利用して煙に巻こうとしているような……いや、神界人が人を、それも娘を疑うようなことがあってはいけないんだけど、何かが引っ掛かった。
メルが立っていた穴からはまだ白い煙が立ち上っている。
「この煙は?」
問うてもメルは泣きじゃくって首を振るばかりだった。
「わたくしが外に出られなくて泣きじゃくっていたら、突然爆発が……」
「怪我はないのか?」
「はい」
ようやくしゃくりを上げながらメルは答えたが、俺様は何かが気になって仕方なかった。
メルが泣いていた? 外に出られなくて?
今だってそうだ。メルが泣いているところを見るのなんて、赤ん坊の時以来だ。鉱山の暗闇が怖くて泣くくらい繊細なら、森やら砂漠やらに出て行った時点で二度とそんなことしなくなるだろう。
俺様はそれとなくシャルゼスと視線を交わす。
「あの、父上、この爆発はもしかしてわたくしのことを土の精霊が守ってくれた証なのでしょうか?」
「え、あ……」
「わたくしにもようやく精霊の守護がいただけたのでしょうか?」
シャルゼスは首を振る。
違うといっている。この爆発も、メルに何かの精霊がついた気配もないと。
それなら一体どうやってこんな大きな爆発を起こしたんだ?
「父上、わたくしもう疲れました。わがまま言ってごめんなさい。早く帰りたいですわ」
泣いてすがる娘に逆らえなくて、俺様はメルを鉱土宮に連れ帰った。
それからしばらく、メルは別人のようにおとなしくなっていた。ずっと部屋にこもったきり、食事の時くらいしか出てこなくなった。部屋に侍女も入れようとしない。ただ、扉の隙間から異臭がするとか、異音がするとかそんな話が聞こえてきて俺様とサヨリも様子を見にはいったが、メルは出てこなかった。
メルが外に出かけて行ったと聞いたのは三か月余りたったころだった。
外に出るようになったんならいいんじゃないか?
そんな甘い考えで好きにさせておけ、と言ったのだが、メルはどうやら性懲りもなく鉱山に出入りを始めたようだった。鉱山で何をしているのかと言えば、硫黄と硝石と木の欠片を集めて帰って行くというのだ。
それをサヨリにも伝えると、さすがのサヨリも真っ青になった。
「それって……」
「火薬の原料だ」
バルドの悲劇を思い出す。
「止めなくちゃ」
俺様より先に駈け出して行ったのはサヨリだった。俺様も後に続く。
だが。
「鉱様、サヨリ様、統仲王様がお成りです」
メルや錬が小さい頃は孫見たさに日参していた親父だったが、最近ではめったに来ることもなくなっていたっていうのに。それも予定も確認せず突然来るなんて。
「いやぁ、よぉ、鉱。息災だったか?」
「息災だったか、じゃねぇ、クソ親父! なんで今来んだよ!」
「鉱様、言葉遣い」
サヨリにたしなめられて、うっかり自分が昔の息子の鉱に戻っていたことに気が付く。
にしたって、人んちにずかずか上り込んできた挙句、「お成りです」の言葉とともに居間に入ってくる奴なんて聞いたこともねぇよ。
「息災なようだな。サヨリ殿もお元気そうで」
「親父、今取り込み中なんだよ、また今度にしてくれるか?」
「そんなめんどくさい用事じゃないよ」
「めんどくさかろうが、めんどくさくなかろうが、だ」
「そんな。ちょっと孫の顔を見に来ただけなのに」
「それこそ今度にしてくれ!」
怒鳴ると同時に、じぃじが来たと知らされたんだろう。錬がドアを開けてパタパタと中に入ってきた。
「おじい様!」
「錬、また大きくなったな」
好々爺ぶってんじゃねぇよ。
「メルはいないのか? ん? そういえばなんかこの宮殿に来た時から思っていたが、なんかきな臭いような……」
ドッキリするようなことを言って、統仲王は鼻をスンスンとさせながら辺りを見まわす。
「あ、あの、わたくし先ほどちょっとお料理を焦がしてしまいまして。それでですわ、きっと」
珍しくサヨリが嘘をついて取り繕う。
そりゃそうだ。
まさかメルが火薬作りに夢中になっているなんて知られたら、バルドの一件の手前、大変なことになる。
すまん、サヨリ。君の料理はいつでも天下一品だよ。
心の中でフォローして、俺様は統仲王から錬を引きはがす。
「この通り、今日はいろいろと立て込んでいるので、今度ゆっくり、家族揃って天宮にお会いしに行きますから」
俺様は嫌がる統仲王を玄関の扉までずるずると押しやる。
「ああそうだ、鉱。メルに見合い話を持ってきたんだが……」
「見合い?! まだそんな年じゃありませんっ!」
「東方将軍、藍鐘和。どうだ? 冷静で知的で将軍のくせに武よりも文を好むあの男ならメルーチェの相手としても遜色はないんじゃないか?」
「だから話を勝手に進めないでくださいっ」
「私はメルのために言ってるんだぞ?」
正面から金色の瞳で目を見据えられて、俺様は思わず怯む。
こいつ、気づいてやがんな。
「メルには自分で相手を選ばせます。そういうことで、遠路はるばるいらっしゃったところ申し訳ございませんが、今日はお帰りください」
俺様は統仲王を扉の外に無理やり押し出し、ばたりと重いドアを思いっきり閉めた。
その勢いでメルの部屋まで駆け上がる。
「メルーチェ!」
予想通り部屋の扉は固く閉じられ、中からの返事はない。かわりに黙々と灰色い煙が漏れ出ている。
「メルーチェ!」
扉を蹴破って中に入ると、中ではメルーチェが暖炉を前に薪を抜き差ししたりしながら火の調子を整えているところだった。
「まぁ、何事ですの?」
「何事はこっちのセリフだ! この煙はなんだ!」
「ああ、ちょっと暖炉の調子が悪くて」
「この暑いのに暖炉なんて使う必要ないだろう?」
「いやですわ、お父様。夏の間にちゃんと煙突を掃除しておかないと、冬になった時にお掃除するのは大変ですもの」
よどみなく答えるメルに、あろうことか俺様は言葉を失う。
「そんなこと、他の者にやらせればいいだろう」
「お父様、暖炉というのもなかなか興味深いものなのですよ。煙突にこびりついた煤ひとつとっても……」
ああ、もう。開いた口が塞がらない。
そんな俺様を押しのけて、ずいっと部屋に入って行ったのはサヨリだった。
「メルーチェ! まさかとは思いますが火薬など、作ってはいませんわよね?」
「火薬? ああ、バルド擾乱のきっかけになったっていうあれですか。そんな、作り方も何も残っていないのに、どうやって作るというのです。お父様とお母様が全てバルドに残っていた関連書物は燃やしてしまわれたのでしょう?」
勿体ないことをなさる、とは口にしなかったが、そんなの表情を見ていればわかった。
「メルは人の役に立ちたいのです」
しょげた表情になったメルの言葉に、俺様の胸がはっと衝かれる。が、次の言葉にすぐにそれも消えてなくなった。
「煙突の煤の研究もその一つですわ」
「いい加減にしろっ! 今度こんな騒ぎを起こしたらただじゃおかないからなっ!」
ああいやだ。俺様今ただの頑固おやじになっちまってるじゃねぇか。
「騒ぎだなんて。勝手に騒いでいたのは父上たちの方ですわ」
「なっ!」
この反抗期娘がっ!
怒りに拳が震えた瞬間、サヨリが威勢よくメルの頬をはたいていた。
「先ほど統仲王様がいらっしゃいました。統仲王様は気づいていらっしゃいます。いいえ、すべてお見通しなのですわ。父上がどんな思いをして貴女を庇ったか、分かっていますか、メルーチェ!」
「お言葉ですが、母上。わたくしは魔法が使えずとも、必ずや人々のお役に立って見せますわ。魔法が全てのこの世界はもはや成立しなくなっています。魔法が使えずとも生きていく手段を見つけなければならない段階になっているのです」
左頬を抑えたメルーチェは怯むことなくそう言い放った。
「メルーチェ、お前はどうすれば大人しくしていてくれるんだ……」
「おとなしく? わたくしにそこらの深窓の令嬢と同じように暮らせという方が無理ですわ。この湧き上がる好奇心はとても編み物やお菓子作りだけでは解消できませんもの。この世は不思議だらけ。魔法の仕組みも、原理も、この世の理もはじまりも、誰も知らないことをわたくしは知りたいのです。統仲王が魔法に頼り最新技術を認めない理由も!」
この娘は誰も口にしないことを口にした。暗黙の了解のうちに口にしてはいけないと皆が理解していることでも、口にしてしまった。
俺様はメルーチェの腕を引っ張って立たせると、部屋から引きずり出した。そして、窓も暖炉も何もない、物すら一つも入っていない納戸の中にメルーチェを押し込み、鍵をかけた。
「しばらくそこで反省しろ!」
こんなこと、したくはなかったのに。
こんな親父になるつもり、なかったのに。
どうしてこうなるんだよ。
どうして。
俺様の後悔と苦悩とは裏腹に、メルーチェが食事を運んできた侍女を弾き飛ばして外に飛び出していったのはそれから三日後だった。
「探せ! 探すんだっ!」
砂漠に出たきりメルーチェの足取りは途絶えた。秀稟に探させても、気配はある気がするけど姿が見えません、という答えが返ってくるばかりだった。
憔悴したのはサヨリの方だった。見たことのないくらいがりがりに痩せたサヨリは、ついに床に臥せってしまった。自分で探しに行きたいというサヨリを宥めすかし、各地の町や通りがかりの商隊から情報を集めさせ、ようやく一つ、手掛かりを得たのは半年もたった時だった。
永遠を生きる俺様が、たった数日や数か月を長く感じるなんておかしいかもしれない。だけど、日々の毎日は人と同じように人と同じ濃さで進んでいた。飛び出していったメルを早く見つけてやりたい。そしてもっとよく話し合わなかったことを詫びなければ。
その一心でサヨリを錬に預けて、俺様はシャルゼスとともに秀稟に乗ってレジェス砂漠を越え、鉱土の国北部にリドニア鉱山があるトロプアに向かった。
どうしてそこが怪しいと思ったのかって?
リドニア鉱山は上質の金と銀と鉄が採れるいい鉱山なんだが、地盤が固く掘ろうとしてもなかなか掘り進められない工夫泣かせの鉱山なのだ。生産量は鉱土の国では一番少ないくらいだが、上質さとその希少さで値は高くつけられる。そのリドニア鉱山の生産量が最近目に見えてうなぎ上りになっているというのだ。
値崩れない程度に出荷量は抑えているが、在庫は十年は遊んで暮らせるほどあるという。そんな報告をしてきたのは、当然トロプアの町長ではなく、メルーチェを探すために派遣した御使からだった。それも、リドニア鉱山には御使でさえも立ち入りを遠慮してほしいと懇願され、近づくことさえ毎日の歓待でままならない状況という。
さすがに俺様が行けばそんなこと言えなくなるだろうと踏んで、トロプアの町には立ち寄らず、直接空からリドニア鉱山に向かったのだが、聞こえてきたのはキルヒース鉱山でメルを見つけた時と同じ体中に響く重低音、見えたのは黙々と坑道の中から立ち上る灰色の煙だった。
そしてきな臭さ。
穴の前に集まった抗夫たちは一人を囲んでわぁっと喜びの歓声を上げる。
その真ん中の一人が、煤けた男もんの成りはしているが間違いない、メルーチェだった。
「メルのおかげでこんなにすんなり捗るなんてな」
「文明の利器ってやつはすげぇや」
「メル様様だぜ」
抗夫たちに口々に讃えられ、メルはまんざらでもない表情で鷹揚に頷く――というより、あんなに嬉しそうな顔は初めて見た。
「ダイナマイトの作り方はこの間教えたとおりです。これからは魔法が使えなくても、わたくしがいなくても、自分たちで己の生活を豊かにしていけるのです。存分にこの技を活用してください」
高らかに宣言したメルは煙が出なくなった坑道に殺到していく抗夫たちを見送って満足そうに踵を返す。
「迷ってるのか?」
シャルゼスが低い声で尋ねる。
「このまま見過ごそうなんて、思ってないな?」
もう一度、俺様の心を確かめる。
「メルにはこの世界は狭すぎるのかもしれない。メルは」
生まれてきた世界を間違えたんだ。
思っても見ない言葉が頭の中に浮かんで、こびりついた。
なんてことを、俺様は。
首を振る。
こびりついた考えをはがそうと頭を振り、かきむしり。
その時間を惜しむべきだった。
どちらにしたって見つけたんだ。一度連れ帰り、せめてサヨリに無事な姿は見せて、それからどうするかを考えたってよかったんだ。
「おい、鉱、あれ」
シャルゼスに肩を揺すられて下を見ると、メルの行く先に数多の兵を引き連れた藍鐘和が、メルの前に立ちはだかっていた。
「鉱土法王の娘、メルーチェ様ですね。私は東方将軍藍鐘和と申します。統仲王の命を受けて、貴女を天宮にお連れしに参りました」
鉱土の国の日差しにそぐわない透き通るような白い肌と繊細に仕上げられた眉目秀麗な顔を持つ藍鐘和が、今日は本ではなく剣を携えて立っていた。
メルは置くすことなく藍鐘和と対峙する。
「待て! どうしてお前がここにいる、藍鐘和! お前の守護範囲は東だろう! いくら統仲王の命とはいえ……」
秀稟から飛び降りた俺様は二人の間に割り込んだ。
「父上……いらしてたのですか。ならば見てくださいましたか? わたくしのダイナマイトが抗夫たちの暮らしを豊かにする様を!」
言葉もなかった。
大人っぽいとばかり思っていたメルーチェが、こんなに誇らしげに明るく目を輝かせて俺様に懐いてくるなんて。
俺様はメルを力いっぱい抱きしめた。
悪いことだなど、欠片も思っていないのだ。バルドの歴史を知らないでもないだろうに、それでもこの子は、自分の力で誰かの役に立ちたかっただけなんだ。
バルドとは違う。
殴ることなどできなかった。
メルは、まだ子供だったんだ。本当にまだ、純真な心を持ったままだっただけなんだ。
「済まない。俺様が悪かった。俺様が……」
メルのことを見誤っていた。
いつの間に自分は子供の心もわからないほど大人になってしまったんだろう。大人の都合ばかりを優先し、押し付けることに何の不都合も感じなくなってしまっていたんだろう。
メルだけじゃない。自分のことすら俺様は見誤っていたんだ。
「鉱土法王、メルーチェ殿をお渡しください」
なのに藍鐘和の言葉はあくまで機械的だった。
「渡さない。帰れ、藍鐘和。お前がここにいるのは場違いだ」
「統仲王が私をお使いになったのは、西方将軍のヴェルド・アミル殿では情を優先し、匿う方に動くだろうから、と。もし鉱土法王が来たとしても、貴方の言葉には従わなくてもよいと命じられてきております。何よりも、神界に闇獄界の技術を持ち込んだメルーチェ様の捕縛を優先するように、と」
「捕縛!? 人の娘を罪人扱いするのか!?」
「まだ罪人と決まったわけではありません。ですが、神界の根幹を揺るがすことをなさったのは確かです」
「なぜ? なぜいけないの? みんなが便利に暮らせる世の中を作ろうとして、何が悪いの? わたくしは何も悪いことなどしていないわ。神界の根幹を揺るがすなんてとんでもない。わたくしは――」
抱きしめている俺様にかまわず、藍鐘和はメルの腕を引っ張って俺様から引き離した。
「お連れいたします」
「待て! ――大地よ、割れろ――〈地わ……」
無我夢中で藍鐘和のとその軍を地の中に落とそうとした時だった。
「やめんか、バカ息子が」
藍鐘和の軍が二つに分かれていく。その間をゆっくりと歩いてきたのは、ちょっとその辺を散歩に来たかのような格好の統仲王だった。
「ここで地割れなど起こしてみろ。リドニア鉱山だってただじゃすまないぞ」
「クソ親父……はじめっから後ろに居やがったな」
「そんなことはどうでもよかろう。私もこの目ではっきりとその娘が闇獄界の技術を神界に広めようとしたところを目撃した。一度目は見逃しても、二度目は見逃すわけにはいくまい。たとえ初孫だとしてもな」
そんな……そんな……!!
「返せ! メルを返せ!」
「ついでにあの馬鹿者も捕えろ。大丈夫。魔法は使えないようにさせておいた」
魔法が、使えない?
「〈土壁〉! 〈地割〉! 〈地震〉!」
何を唱えても何の反応も起こらなかった。
上空を仰ぎ見る。
シャルゼスと秀稟も、飛龍に乗った一部隊にすでに捕えられていた。
シャルゼスは黙って首を振る。
「なんの魔法を使ったぁっ、クソ親父ぃっ!!!」
「魔法? 魔法など使っていないよ、私は。ただ、古の契約に従ってもらっただけだ」
「古の、契約?」
なんだよ、それは。
俺様とシャルゼスと秀稟の魔法石での繋がりよりも強いっていうのかよ。
「なんなんだよっ、それはっ!」
「〈転送〉」
統仲王が一言告げただけで、メルーチェが閉じ込められた木箱が先に目の前から消えてなくなった。
「メルーっ!!!」
叫び暴れる俺様に、統仲王の命を受けた藍鐘和は淡々と縄をかけ、馬一頭入るくらいの木箱の中にこの俺様を押し込んだ。
「藍鐘和! 貴様、覚えていろよっ」
藍鐘和は眉一本動かさない。かわりに木箱の中の俺様を覗き込んだ統仲王が言った。
「鉱。私はこの娘は闇獄界に送ってやるのが一番だと思っている。娘を救いたくば、天宮に来て礼儀と言葉を尽くせ」
俺様の声を遮るように統仲王は自ら箱に蓋をかぶせた。
暗闇だったのはほんのちょっとの間で、俺様はすぐにサヨリと錬によって助け出された。
「ちっきしょう、ちっきしょう、ちっきしょう、ちっきしょうっっっっっ」
冷えない頭を無理やり冷やし、俺様はサヨリと錬を伴って天宮を訪れた。
裁きを司る炎姉貴に頭を下げ、懇願し、ようやく統仲王との間に入ってとりなしてもらい、それでようやくメルを返してもらった。
メルーチェは統仲王の許可が降りるまで鉱土宮に蟄居を命じられた。
それでも、闇獄界に堕とされなかっただけ、近くに取り戻すことができただけ、まだましだと思えた。
だが、メルーチェはもう、昔のようにサヨリ譲りの翠の瞳を煌めかせることもなく、型通りの深窓の令嬢教育を淡々とこなすだけの人形のようになってしまっていた。
統仲王は再びメルと藍鐘和の見合い話を持ち出してくる。
理由?
そんなことは決まってる。
統仲王に忠義の厚い生真面目な藍鐘和に、四六時中メルのことを監視させるためだ。
「断っじて藍鐘和なんかにやるもんかっ」
天宮の使者を追い帰し、俺様は肩で息をする。
サヨリと同じ歩幅で時を重ねてきた身体は中年の域に入り、次第に思うままに動かなくなってきている。
人なんて、脆い。
俺様も人と同じだ。
止まった時を解放しちまえば、法王だってただの人だ。
魔法を使えなくされたあの時の俺様は、泣いて生きていることを主張する赤ん坊よりも何もできない存在だった。
「父上、母上と一緒にケーキを焼きましたの」
メルーチェが見よう見まねで身に着けた深窓の令嬢スマイルで、形のいいホットケーキを差し出してくる。
お前は、そんな笑顔覚えなくてよかったんだよ。
「ごめんな、メル」
今更抱きしめても、あの時守れなかったことには変わりない。
「もう二度とあんなことが起こらないように、今度こそ絶対守ってやるからな」
俺様にもっと力があったなら。
統仲王を倒そうなんて物騒な考えが浮かばなかったわけじゃない。
ただ、実行する勇気が俺様にはなかった。
統仲王を倒せても、まだ俺様と同じ法王の名を冠する兄弟たちが七人もいるのだ。それに四楔将軍も。
サヨリにも諭された。
闇獄界からの脅威が頻繁になってきている昨今、俺様が家族守りたさに反旗を翻したとしても先は見えている。
「いけませんよ、父上。父上は目の上のたんこぶがいなくなればそれでいいとしか思っていない。そのあとの世界の構想が全くできてはいないではありませんか」
一瞬、正気に返ったメルがそう耳打ちをして俺様の腕を離れていった。
周方に闇獄軍が侵軍してきたのは、それからしばらく経った後のことだった。
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