SPIRIT 7  所長との初対面


「いいか、係長。ここの所長はな、すべてにおいてお山の大将だ。はいと返事さえしていればいいんだ。わかったか!」

「はあ・・・?」

「いずれ俺の言っていることがわかるはずだ。いいか、絶対逆らうなよ。」

 俺には課長の言うことが理解できなかった。俺はこれでも本庁に5年間所属し、部局長や助役にさえ、ひたむきな熱意と

真摯な姿勢で取り組めば、意思は通じてきたという自負があった。

 そして、所長とあいまみえる日がついにやってきた。他課と連携事業を始めるため、所長に事業説明を行うことになったの

である。

「所長、ご相談があるのですが、よろしいですか。今度の私ども庶務係のプロジェクトについてですが・・・。」

「あゝ。」

「先月所長連絡会議で決定したプロジェクトを受けて、本課では早速来月より、NPO法人と連携して進めてまいりたいと考

えております。」

「山川係長、君は今日何しにきたんだ?」

「はっ?はい、私どもがこれから始めようとしているNPO法人との連携についてですが。」

何聞いているんだ?こいつは?

「山川係長、そのプロジェクトやらは誰が承認したんだ?」

「はい、先月所長会で承認されたと聞いておりますが。」

所長はいきなり机をドンと叩いた。

「おい、貴様!俺はそんな話は聞いていない!」

「・・・ですから。」

「うるせえ、てめえ!こっちが黙ってきてりゃ、偉そうなことべらべら

しゃべりやがって!」


なんだ?俺が何かしたというのか?

「てめえ、本庁にいたんだとな。本庁で一体何してきたんだよ!」

「はい、開発関係の・・・。」

「何言ってやがる!貴様の経歴なんか聞きたくもないよ。俺はな、貴様が本庁に5年もいて、決裁に至る意思決定過程を覚

えてきたのかと聞いているんだよ!」

「はい、一応は・・・!」

「一応だとこの野郎!上司に向かって、一応っていう口の聞き方は何だ!俺の聞きたいのは今日俺に持ってきた話は、相談

なのか報告なのかと聞いているんだ!報告だったら俺に話持ってくるな!」

「いえ、相談です。」

「おい、てめえな、さっき相談っていっただろう。なに、本庁では上司に相談するのは一応なのか?
てめえ、一体

何様だ!てめえが何でも決めるのか!


「いえ、そんな!そんなことはありません。申し訳ございません!」

「うるせえ!相談したいんだったら、しっかりと自分の意見を持って来てからにしろ!俺は承知していないからな!わかった

か、山川先生さまよお!」

「申し訳ありませんでした!」

 俺は役所生活22年にして初めて、世の中には決して相容れない人間がいることを知った・・・。


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