ハボックのハッピー(?)とどのようなシチュエーションにハボックは報われるのかを追求する小話全9本です。ネタは以前メモにこっそり設置させていただいてましたハッピーハボック計画のアンケート結果からになっています。日頃、考えることの少ない(?)ハボックの幸せを考えてくださったみなさま、本当にありがとうございました!これからも参考にさせていただきます!
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06.(FABULOUS! に続きます)
春の気配を感じるようになってきた天気のいい日の午後、オレは街を巡回していた。
公園の片隅、噴水近くのベンチから華やかな空気が漂ってきて、思わず目を奪われる。
双子の可愛らしい少女2人が手をつないで、その噴水近くのベンチに座る男の前に立っていた。その男は自分の隣に、それはそれは一際目を引く大きなバラの花束を置いていた。
その花束は包装などされてなく、花束と言うにはあまりに無造作で飾り気がなかった。
その男はその中から、数本のバラを手折りトゲを落として小さなブーケを2つ作っていた。
少女たちはそれをじっと目を輝かせて見つめている。
男はふと思いついたようにズボンのポケットから、誰かのプレゼントなのだろう小さな包みを取り出し、そのリボンを解いた。そして、そのリボンで自分の作ったブーケを飾る。少女の手には少し大きめなブーケが1つ完成だ。しかし花束はもう1つある。その男は首を傾げた。少女たちもつられるように首を傾げる。
その3人の前に巻き毛のグラマラスな美女が立った。待ち合わせだったのかもしれない。男はその美女と一言二言となにやら言葉を交わしたが、美女は首を横に振るだけだった。男は困惑し、公園内を見回す。
「ハボック少尉、あれってマスタング大佐ですよね?」
そう。アレは本日休みの我らがマスタング大佐だ。
興奮を滲ませた声色に、共に巡回をしていたまだ若い新人にちらりと視線を落とすと、大佐にまだ夢を見ているのだろう、顔を紅潮させていた。
「ああ、そうだな」
そこだけ、世界が鮮やかに見える。そういう人だ。軍服を脱いでもそういう雰囲気は変わらない。
「――なんかドラマチックな人ですね」
そう言われても否定できないけれど、オレはなんだか積極的に肯定したくなくて、言葉に詰まっていたら、―――あっと、思ったときにはもう遅かった。
大佐は公園の隅のオレを見つけるとにこやかに手招きをする。
――いつもの、飼い犬に対するような気軽さで…。
「ハボック少尉?」
そこだけ別世界のように鮮やかな空間にいたたまれなさを感じつつも、オレは足を踏み入れた。まだ、顔の赤い新人をそこに残して。
肩を指差され、何を要求されているのかわかってため息混じりにそれを渡してやった。それは肩から外してしまえばただの黄色い紐だ。
大佐は地面に円を描き、その真ん中にそれを置いて手をついた。光があふれた後に残ったものは、ただの黄色いリボン。
女の子たちが一際大きな歓声を上げた。
大佐はそのリボンでもう一つのブーケを飾り、少女たちに1つずつ手渡す。少女たちは、それを受け取るとうれしそうに同じ顔を見合わせてから走って行った。途中で何回も何回も振り返りながら。
「ハボック、ちょうどいい。送っていけ。バラが枯れてしまいそうだ」
その言葉に巻き毛の美女が勢いよく大佐を振り返った。私より、そんな花を優先するの?!と今にも声が聞こえてきそうだった。
「では、また。マダム」
大佐はさっさと別れの挨拶をすると両手いっぱいのバラをオレに持たせて歩き出した。
「いいんスか?」
背中にまだ睨みつけている美女の視線を感じて。
「別に。ナンパされただけさ。――それに、こんなに天気が好いんだ。たまにはお前と散歩するのも悪くないだろう?」
「オレは仕事中なんスけど…」
ぶつぶつ言いながらも、オレは大人しく大佐の後ろを付いていった。
置いて行かれまいとばかりに、さらにオレの後ろを付いてくる新人が邪魔極まりなかった…。
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07.
激動の時は過ぎ、この国は漸く平凡な平穏を手に入れた。その功労者はすでにこの世界にいない。激動の時の中でしか生きられないと言うかのように一段落が付いた時、あまりに呆気なく死んでしまった。
あの人が苦労して苦労して勝ち取った平和をつぶさに見る間もなく死んでしまったから、うかつにも死に難いと思っちまったんだと思う。おかげで予定外にもこんなに長生きして、あの人が好きだった金髪がすっかり色あせて白くなってしまった。
老いてまでまだあの人への恋情が薄れることはなかった。それは面影に残るあの人の姿が若いままだったからかもしれない。結局ずっとあの人は年齢不詳で、年齢相応という言葉に無縁だった。あの人が鏡に向かう時、ちっとも貫禄の付かない自分の顔によく眉を顰めていたことを今でも覚えている。
人より遅く退役を迎えて、故郷から更に奥深い土地に小さな一軒家を建てた。家の前には地平線まで続く草原が広がり、朝、それはまるで大海原のように煌き、夕はまるで燃えているかのように揺らいだ。
草の立てるざわめきは懐かしい思い出を呼び起こす。オレはそこでまどろみながら過ごすために、家の前の、草原の淵に親父の遺品でもある安楽椅子を置いた。もう死ぬことは怖くなかった。むしろ死は夢から永遠に覚めないことを意味し、甘美な憧れすら抱く。
地の果てから草原を撫でてきた風がオレを吹き抜けて、安楽椅子を揺らした。
出合った時のこと、初めてキスをした時のこと、恋に落ちた時のこと、愛を告白した時のこと、リタイアを覚悟した時のこと。たくさん言葉を交わした。ケンカもしたし、あの白い顔を殴ってしまったことも、全身ぼっこぼこに殴られたこともあった。
『――恋は盲目と言うだろう?ハボック、それではダメなんだ』
漸く近づいてくる死期の気配の中で、やっとあの人が言っていたことが分かった気がした。
アンタはオレを愛してくれていたのに、オレはアンタの愛を理解しようともしていなかった。自分の愛を押し付けて、自虐的に満足していた。アンタを愛してると言った口で、アンタの気持ちを否定していた。
今なら分かる気がする。
アンタは確かにオレを愛してくれていた。
ヒューズ准将と同じように、無限の愛をオレに注いでくれていたのに。
その苦さは、同時にどうしようもなく甘いものだった。オレだけが傲慢にアンタの気持ちを踏みつけることを許されていたのだ。
後悔はない。あの時はあれで精一杯だったのだから。
今、思いがやっと恋愛ではなく愛となり、今日という日を迎えるために全て必要な時間だったと思える。
いつか分かるだろうとその黒い目がいつも笑っていたように思えた。
時間がかかったけれど、俺はちゃんとアンタの望んだ通りのものを手に入れられたと思う。
この世は美しい。
アンタが何のために戦い、何を望んだのか。その根底にある思いをやっと理解できた。
この美しさを共に分かち合おうとしてくれていたのだ、あの人は。
今、この世にアンタはいないけどこの世はアンタのように美しく、オレを幸せに包む。
アンタに会えてよかった。
アンタに恋をしてよかった。
だから、もういいでしょう…?
「――おじいちゃん?」
昔話をねだりに来ていた姪っ子に呼ばれる声を遠くに聞いた…。
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アンケートにご協力くださって、ありがとうございました!
06.■12/06//『はあ、やっぱり、大佐の危機一髪に助けに入り、「よくやったな」とにっこし笑って撫でてもらうことでしょうか。ああ、不規則正しい食生活の大佐にちゃんと用意してあげてフツーに「美味いな」と思いがけなく目を見張って言ってもらうとか。お、美女と大佐が歩いていて、ジェラッて見ているハボさんを天然に大佐が見つけ、何の気負いも無く美女と別れハボさんを優先させる大佐にほっとするのと同時にちょっと美女に優越感感じちゃうとか。あああ。全部みたいです。』とアンケートに答えて下さった方へ!
アンケートにご協力下さってありがとうございました!2番目のハッピーハボックは01〜03で、1番目のハッピーハボックは08で。ということで3番目のハッピーハボックを小話にさせていただきました!この後、大佐は司令部に行き、至るところにこのバラを配り歩くと思います。ハボさんにバラを持たせて!
07.■12/07//『ハボックが報われないのは、大佐の日常の稀少な平穏を保つ事が出来るのは殆ど全て自分のみの成し得れる行為なのだいう真理に、実の所は慎み深いこの金髪碧眼青年には思い当たることが甚だ困難極まれる事態なのだという理に寄っているものだと思われます。ロイが素直に、事有る毎に笑顔付き御礼((「有難うハボ(二コリv」))等を振り撒いていなければ極鈍なハボックは己の幸福度がいかなものか気付く事が出来ず、けれど此方も実の所照れ屋な大佐がそんな可愛気を自分に許す事は稀なので、二人は何時まで経っても世間一般が云うところの両思いCPになれずに居るのだと思います。 …詰まる所この二方は仕事人としては申し分無い程有能なのですが、己の幸を鑑みるという才能というか生物として必要不可欠な本能に措いてはてんで無能であり、そんな余りにも欠陥塗れなのだという事+上記の諸々から導き出される結論は… 『もう一遍人生赤子からやり直せ』 ……です!! 〜(略)』とアンケートに答えて下さった方へ!
アンケートにご協力して下さってありがとうございました!老ハボック、大往生です。死を迎えて漸く真理に到達です。記憶に残るロイの笑顔を繰り返し繰り返し思い出して、己の幸を理解するに至りました。そして、もう一遍人生赤子からやり直しです。ハボック、頑張って!