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それでもバレンタインですから +
※一連のバレンタイン+ホワイトデーシリーズを先に読んだほうがわかりやすいかもです。
ある日のことです。
「……ああそうだ、今日は仕事は休む。だからチョコのおこぼれ目当てでマンションに来たりするなよ、わかったな」
いかめしい口調で言って、タイザンは雅臣さんへの電話を切りました。
「これでよし。下準備はすべて滞りないな」
『ダンナ、本当に今日、仮病で休んぢまってよかったんですかい?』
オニシバが心配そうに聞いてきました。ちらちらと、壁のカレンダーの今日の日付を見ています。――――つまり、2月14日のところをです。
「ああ。これでわずらわしいこともなくなる」
『知りやせんぜ、明日カイシャに行ったら机の上にギリちょこが山積みになっちまってて、オカエシをどっと背負い込むってェ羽目になっても』
「それは計算済みだ」
タイザンは腕組みをし、ため息をつきました。
「背に腹は代えられん。そういうことだ」
『へい。どういうことですかい?』
尋ねたオニシバに返事をせず、タイザンは淹れたばかりのコーヒーのカップを手に、今日休むために持ち帰っていた仕事を片付けようと、デスクに向かったのでした。
そして夜のことです。夕食を食べ終わったタイザンは時計を見上げ、
「よし、出るぞ、オニシバ」
神操機を手にしたのでした。
『今からですかい? どこに行こうってんで?』
「職場だ」
タイザンは黒いロングコートを着込むとそのポケットに神操機を押し込み、ついで数日前に買ったばかりの真っ黒な帽子まで目深にかぶりました。
そして緑色に光る符をかざしますと、次の瞬間そこはもうミカヅチ社下層階の廊下なのです。
タイザンは素早く左右に視線を走らせ、胸ポケットから手帳を取り出し、乏しい月明かりの下で目を凝らしました。
「ここから右……2つ目の角に防犯カメラがあるから注意して、階段を上がる、と。踊り場のカメラはどうしても映るから、その前に符で無力化しなくてはな」
『……ダンナ、言いたかァありやせんが』
「なら黙っていろ」
『や、言いやす。こいつァさすがに、いつも違ってシャレじゃ済まねェと思いやすぜ』
「いつもと違ってだと?! シャレで済むようなバレンタインがいつあった!」
『ダンナ、ちょいと声が高ェや』
巡回しているはずの警備員の耳を気にしたオニシバでしたが、
「この時間はやつらは1階のフロアだ」
前もって警備員の巡回スケジュールまで調べていたらしいタイザンはあっさりと言いました。契約者のやたらな用意周到さに、オニシバはあきれを通り越して感嘆にまで至ったのでした。
自分の勤め先に忍び込むため、ここまでするか、と。
12.2.16