+ 大雪まつり10 11 +


 しばらく走ると唐突に森が切れた。思わず足を止めると、そこは薄闇に沈む古い集落だった。
「ここは……?」
 見覚えがある気がして、タイザンは信じられない思いで手近な建物に寄った。コンクリートや鉄柱は一切使われていない、木と萱とで作られた、古い里の家だった。
『おや、こいつァ……。ずいぶん昔に見たことのあるような建物じゃありやせんか。こんなものが残っていたんですねェ』
 オニシバが興味深げにつぶやくのに、ますます確信と疑念を深くした。幻だろうか。そっと、不安を抑えながら差し出した手は、ざらついた木の感触を伝えてきた。
 ならば幻ではないのだろう。
 そうは思ったものの、目の前の光景はやはり信じられなかった。
『ダンナ、どうしたんですかい』
 いぶかしげなオニシバに返事をせず、タイザンはゆっくりと歩き始めた。集落の中を歩き、一つ一つの建物へと近寄ってみる。
「……隠れ里だ……」
『隠れ里。ってこたァ』
 オニシバはあごをかいた。
『ダンナがあっしと契約する前にいたって言う、あれですかい』
「いや、そんなはずはない。焼け落ちたのだ、あの村は」
 天地の襲撃によって。
「だが……これは確かにあの隠れ里だ。あの家もあの倉も、みんなそうだ。どういうことだ……?」
 ここは隠れ里だが、隠れ里であるはずがない。堂々巡りの思考に陥り、タイザンは混乱した。
『神流の兄さん方が再建したってェんじゃ』
「ここまでそのままに作れるはずがない」
 頭痛さえしてきた気がして、おもわず額を押さえた。
『大丈夫ですかい、ダンナ』
 手を伸ばしてきた霊体に返事をせず、
「時渡りをしたのか? 私たちは。オニシバ、そうなのか?」
『さて、時渡りをしたようにァ感じやせんでしたがね。それにダンナ、たとえ時渡りをしてたって、ダンナがここに来れるわけはありやせんぜ。自分に関わる過去には渡れねェって、知ってやすでしょう』
「知っている。知っているが……」
 タイザンは不意に手を挙げ、目の前の建物を支える柱に触れた。
「見ろ、この傷は雅臣がつけたものだ」
 暗い中でも、式神の目にははっきりと見える柱の表面には、確かに傷があった。
「ふざけて村の中で弓を射て、ウスベニにひどく叱られたときのものだ。……弓を教えていた私まで、並べて正座で叱られたな」
『そいつァ見物したかったもんだ』
「……何か言ったかオニシバ」
『その傷ァずいぶん新しく見えやすぜって言いやしたんでさァ』
 タイザンはちょっと考え、その前の発言について追求すべきか新たな議題に乗るべきか迷った。結局、柱の傷に顔を近づけ、薄闇の中で目を凝らした。
「……確かに、昨日今日ついた傷のように見えるな」
 ますます混乱して、タイザンは半ば頭を抱えた。
「だとしたら、ここは……私が暮らしていたころの隠れ里だということか?」
『その辺りに、小せェダンナがいるかも知れねェってことですかい。いっぺん拝みてェもんだ』
「何か言ったかオニシバ」
『時渡りなんざした覚えはないんですがねェ。それにしても』
 オニシバはあさっての方向を眺めている。
『ずいぶんと静かじゃありやせんか、この里は』
 タイザンも辺りを見渡し、耳をすました。薄闇の具合から言って夜中なのだろうから、人の声がしないのは道理だ。だが、それにしても静か過ぎる。家の中にいるであろう人の気配はおろか、飼っていたはずの鶏や犬の声もしない。それどころか、周りを囲む森からも、生き物の立てる音や、鳴き声一つ聞こえなかった。
 雅臣のつけた傷が、まだ数日もたたないようすで残っている、人の気配のない隠れ里。考えれば考えるほどわからなくなってくる状況に、タイザンは途方にくれた。
『そこいらの戸をそっと開けてみやすかい? 空き家か、そうでないか』
「馬鹿を言うな。もし人がいたらどうする」
『何か不都合がありやすかい? まさかダンナがダンナたァ思いやせんでしょう』
「だからと言って……」
 オニシバに反論しようとしたとき、
 からり。
 向こうの家の戸が、静かに開いた。

11.06.05



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自分にかかわる過去には飛べないというのは捏造です。
そうでなかったら、部長と雅臣さんが天地の襲撃に介入しないわけないし、
コミックスも、17歳の伝説様がとうさんvsマホロバ戦に乱入して終わりだと思うので。