+ 大雪まつり10 10 +
最後にそれを見たのは、それからずいぶんたってからのことだった。
ただ、ずいぶんたってから、というのを理解したのは後からで、そのときはそうだとわからなかった。気がついたときには、持っていたものを全部手から取り落とし、夢中で萌黄の影を追っていたのだ。
突然に足元が崩れた。湿った土の上を滑り落ちるような感触があって、土の上に投げ出され、ようやく顔を上げると、そこは薄暗い森の中だった。
……なんだ? 私は、一体どうしていた。
自分の状態がわからず、タイザンは混乱する。とりあえず、落ち葉の積もる湿った土の上に倒れ伏していることはわかった。上体を起こすと、辺り一面いやに薄暗く、見上げれば頭上を覆う木の陰が濃かった。
風もない、しんとした静寂に、不安が群雲のように湧き上がるのを感じた。
「……オニシバ。オニシバ、どこだ」
『ここにいやすぜ』
すぐそばに式神の声を聞き、ひとまず安心する。少し離れた場所に、自分の闘神機が転がっていたので、立ち上がり拾いに行った。霊体のオニシバが出てくる。
『怪我はありやせんかい』
「なんともない。ここはどこだ?」
『さァ、あっしにもとんと』
オニシバは腕を組み、あちこち見渡している。
『見覚えのある場所じゃァありやせんね』
タイザンもまた、落着かず辺りを見渡した。どうやってここまできたのだろう。自分は何をしていたのだろう。思い出せなかった。
「とりあえず……。とりあえずだ、オニシバ。ここから抜け出すぞ。歩けばどこかにつくはずだ」
『へい。ですが、どっちに行きやす?』
問われてタイザンはまた辺りを見渡した。右を向いても左を向いても、薄暗い森が広がっている。目標になりそうなものは何もない。
「オニシバ、降神するから木に登って、森の周りの様子を見て来い。あと、太陽の位置だ」
そして闘神機を構えた瞬間――――。
何かが、木陰の向こうを走っていった。
人のようにも見えた。そうではないようにも見えた。ただ、タイザンから遠ざかる方へ、薄ぼんやりとした萌黄の輪郭が一心に走っていった。
タイザンははじかれたように駆け出した。
「待て!」
『どうしたんですかい、ダンナ』
オニシバが引き止めるように言ったが、タイザンの耳には届かなかった。
―――あれを追わなくては。追いつかなければ。
地を蹴り、タイザンは走った。辺りには風もなく、足跡はそのまま土の上に残った。
11.02.27