+ 大雪まつり10 8+


 いるべきものを買い、それ以外のものは横目で眺めるだけにとどめたタイザンは、軽く腕時計に目を落とした。
「さて。……帰るか」
『まだ買ってないモンがありやせんかい』
「ああ、そうだったな」
 タイザンは目的を持った確たる足取りで、一度あとにした店へと入り、一直線に『ワンちゃんウェアコーナー』へと向かった。Lサイズのものをいくつか手に取って見比べ、
「まあこのあたりのサイズが腹巻としては妥当だろう。どれがいいオニシバ。今と同じ赤というのも芸がないか? 何色にするかな」
『ダンナ、なぜそんな話になるんですかい』
 タイザンは予想外の質問を受けたという様子で霊体のオニシバを見つめた。
「……クリスマスプレゼントの催促ではなかったのか?」
『本気の顔で聞かねェでくだせェ。あと、そうだとしてもそいつを腹巻にはしやせん』
 タイザンはやたらがっかりした顔で店を出た。
『あっしが言ったのは、雅臣さんやショウカクさんの分のことでさァ』
「しつこいぞ。雅臣にもショウカクにも、クリスマスプレゼントなぞやらぬ。特に雅臣だ。いつも小遣いをやっているというのに、これ以上何の必要もあるまい」
 通行人と行き会いかけ、タイザンは一度口をつぐみ、やり過ごしてから小声で続けた。
「そんなにあやつらにものをやりたいなら、お前が自分でやればよかろう」
 オニシバは笑い声を上げた。
『そうしてェのはやまやまでも、あっしら式神にはなかなか難しいことなんでね。一度やってみてェとは思いやすが』
 通行人が増えてきたので、タイザンは返事をしなかったのだが、オニシバはかまわず、
『あっしァね、ぷれぜんととやらをやりたいときにやれる人間が、ちょいとうらやましくなるときもあるんですぜ』
「………………………」
 黙っていたタイザンは、突然くしゃみをした。
『ダンナ、のどを押さえてやすね』
「……そういえばのどが痛む。いがらっぽい」
『風邪でも拾いましたかい』
「そこまでではないと思うが……」
 希望的観測を口にしつつも、早く帰ったほうがよさそうだと、タイザンは足を速めた。

10.12.31



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