+ 大雪まつり10 6+


 クリスマスを目前に、街は華々しく飾りつけられていた。
「だが、平日の午前だけあって、人出はそれほどでもないな」
 タイザンはほっと息をつく。
『ダンナ、まだ人ごみは苦手ですかい。縁日の賑わいみてェで楽しいってのに』
「そんなもの、盆と正月くらいでよいのだ。毎日毎日飽きもせず、祭りのような人出など……」
 なんにせよ、タイザンにとっては歩きやすい街だった。
「この際だ、いるものをまとめて買ってしまわねばな」
 そう言ってデパートの文房具売り場やら、靴屋の手入れ用品売り場やら、年末大掃除用品の売り場やらをあちこち歩き回るタイザンが、時折ちらちらと目的のもの以外を見ているのにオニシバは気づいた。
『……ダンナ、今年も雅臣さんやショウカクさんにぷれぜんとをやろうかって考えてやすかい?』
「なっ……、そんなわけなかろう!」
 突然声を上げたお一人さまサラリーマンに、売り場じゅうの店員が視線を向けた。
『……図星だからってそんな叫ばなくてもいいじゃありやせんか』
 タイザンはこそこそとそのフロアから出ながら「黙れ、恥をかいたろう、人前で話し掛けるな」と小声でつぶやいた。
「別にあやつらに何かくれてやろうなどと思わぬ」
 タイザンはぼそぼそ答えつつ、店自体を後にして良く知った隣の店に入りなおした。ほかに客もない通路を歩きつつ、
「ただ、毎年何かよこせと言ってくるから、今年も面倒くさかろうと思っていただけだ」
『そうですかい? そういえば雅臣さんがゲンツキのカギのきいほるだを欲しがってたと、さっきのきいほるだ売り場であっしァ思ったんですがね』
「ふん、そんな話おぼえておらん。偶然だ」
 言い捨てたタイザンの足がふと止まった。そこは壁一面に透明なボックスがすえつけられて、愛らしい子犬や子猫たちが展示されている一角だった。その中の、タイザンの視線が今とまっているボックスが、空だ。
 予想もしなかった光景に戸惑い、そのあたりを見回していると、近くで商品を出していた店員が突然、
「ああ、あの柴犬の子、売れちゃったんですよ。すみません」
と声をかけてきた。
「子供のクリスマスプレゼントにって方がおとといに。いつも見に来てくださってましたよね。もしかしてクリスマスに買うおつもりでした? 申し訳ないです」
「あ、いや、別にそんなことはない」
 応答もそこそこに足早にその場を去り、小動物のエサ売り場まで遠ざかったところで、タイザンは戸惑った声を出した。
「あの店員、なぜ私がたまに犬を見に来ていたことを知っているのだ?」
『……そりゃダンナがちょくちょく見に来てたからでしょうよ』
「まさか、天流の関係者か? 式神をつれていることに気づかれたというのか」
『いや、これだけ頻繁に通ってきてりゃ、誰だって顔を覚えると思いやすがね』
 タイザンは犬用の服を見るふりをして先ほどの店員を観察し、式神の気配がしないことを確かめてから店を後にした。その途中の、
「これがLサイズ? どう見てもSSではないか」
とぼやいたり、
「いやしかし、腹巻だと思えばこんなものか。どうだオニシバ」
などと言った上、
「最近は犬用の和服まであるのだな」
と無料カタログを鞄に押し込むという契約者の行動が、オニシバには多少理解できなかったが。
「そうだ、雅臣にはこのあたりをくれてやるか。牛丼が好きなら肉も好きだろうと言って」
 犬用ジャーキーを手に、契約者は妙に楽しそうだ。
『雅臣さんが泣きますぜ、ダンナ』
「あいつがそんなかわいい性格をしているか。いつもいつも私に物をせびるばかりで、あいつから物をもらったことなどないぞ」
『まんしょんにくるたび牛丼を買ってくるじゃありやせんか』
「あれはあいつが食べたいだけだ。それを除けば一度とて……」
 不意にタイザンは思い出した。そういえば、あれは夢ではなく現実だったのだろうかと。
 ……そうだ、雅臣が………。

10.12.24



フレームなしメニュー     次




続きます。

拍手でいただいた、
「部長はペットショップの店員に顔を覚えられてそう」
というご意見に激しくうなずいてしまいまして。