+ 大雪09 小話14+
『ダンナ、ダンナ寝ちまわねェでくだせェよ』
オニシバが、神操機の中から言ってきます。タイザンはコタツの天板に伏せそうになっていた顔を上げ、重たいまぶたを苦労して上げたのでした。
「……いや、寝てはいないぞ」
『昼寝はかまいやせんが、布団に行ってくだせェよ。コタツじゃ風邪を引きやすぜ』
「寝てないと言っている……」
タイザンは思い切り伸びをします。うつらうつらしていた眠気を、どうにか飛ばしたように思えました。
「どうも長い休暇は退屈でならんな。家族でもいれば別だろうが、あいにく独り身だし」
『……さっき家族を一人、さっさと帰るようにしむけやせんでしたか』
オニシバの言葉を、タイザンは聞こえないふりで受け流し、テレビのチャンネルを変えます。
「正月の特番しかやってないか」
退屈そうに言ってリモコンを置き、「しかし、せっかくの休みを寝正月というのももったいない気がするな」とつぶやきます。
『正月だし、童心に返って、カルタ取りでもしやすかい』
オニシバは冗談半分に言ったのですが、タイザンは真顔で「ふむ」とあごに手を当てたのでした。
「カルタ取りか。雅臣が小さいころにはよくやったな。犬も歩けば棒に、…………」
『……ダンナ、あっしァ犬である前に式神なんで、“しまった無神経なことを言ってしまった”みてェな顔しなくていいんですぜ』
「あ、ああ、そうか。私の気の回しすぎだったな」
咳払いをし、
「いや、しかし、大の大人がいまさらカルタ取りでもあるまい」
そういってつまらなさそうに頬杖をつく契約者に、オニシバは異を唱えたい気になりました。
『そうですかい? なんだって、真剣にやれば面白ェもんですぜ』
「真剣に? おまえと私で、カルタ取りを真剣になどできるものか」
タイザンは決め付けるように言うのです。
『できやすぜ。やってみやすかい?』
少しばかり挑戦的に言ったオニシバに、
「ダメに決まっているだろう!」
タイザンは怒りに眦をあげたのでした。
「この場所で真剣になどやってみろ、床に穴が開いて階下の住人に大迷惑だ。床は無事でも、新年早々壁に穴でも開けたら、寒くてかなわんだろうが。
必殺技禁止、符も禁止のお遊びレベルでなくては、カルタ取りなどできぬ」
断固とした口調で述べるタイザンに、
『…………や、そこまで真剣にたァ考えてやせんでしたがね……』
オニシバは小さく言うしかできなかったのでした。
10.08.29