+ 大雪09 小話6+
「さて、無事年賀状も配り終えたし、後は年越しそばを食べるだけだな」
『配ったのはあっしですがね』
オニシバの鋭いツッコミを聞き流し、タイザンはクローゼットに立ってコートを取り出しました。近所にある、なじみのそば屋に行くつもりです。
「……待てよ」
不意に思いついたことがあって、タイザンはしばし考えました。そしてコートをクローゼットに戻し、携帯電話を取り上げますと、
「もしもし、そばを二人前、出前を頼みたいのだが……え? あ、ああ、そうか。今日は出前はやっていないのか。いや、いい。忙しいときに悪かった」
少々がっかりしたように通話を終えました。
『ダンナ、店まで食べに行けばいいじゃありやせんか』
「いや……そうもいかぬ。いい、スーパーでそばを買って、うちでゆでよう」
『わざわざ買いに行かなくても、そばなら一食分くらいは残ってやしたぜ』
「一食分では足りぬ」
『はあ、そんなたくさん食べる気なんですかい。それに、なんで店で食べちゃァいけないんで?』
それに答えずまたコートを着たタイザンが玄関から出ようとしたそのとき、
「おっタイザン! 大晦日おめでとう! ハッピーチェーンの年越し牛丼セット、買ってきたぜ〜!」
袋をさげてご機嫌の雅臣さんと鉢合わせたのでした。
「……お前はまた無駄づかいか。年越しはそばと決まっているだろう。牛丼なぞ食べる気にならぬ」
「大丈夫大丈夫、ちゃーんとセットでミニかけそばがついてるから安心だよ。ん? どっか出かけるところだったのか?」
「……いや、もういい」
そう言いながらタイザンは、雅臣さんに押されるまま室内にとってかえします。オニシバはハハァとわけしり顔になって、
『なるほど、雅臣さんが来ることを見越してたんですかい。さすがうちのダンナ』
納得したのですが、タイザンは小さく、
「……店では降神できぬだろうが」
つぶやいた言葉は、雅臣さんが袋を開けるがさごそ音にまぎれて、誰の耳にも届かなかったのでした。
10.01.18