+  将来に使うとして  +


「ボーナスの使い道とは難しいものだな。世間の者たちはいったい何に使っているのだ」
 考えあぐねたタイザンは、自宅のソファでコーヒー片手にそんなことをぼやくのです。
『明日カイシャで聞いてみたらどうですかい』
「……いや、あの連中のは参考にならぬ」
 パソコンを立ち上げ、ネットで「ボーナスの使い道」を検索しました。そして、
「『社会人に聞いたボーナスの使い道 1位:貯蓄』」
『溜め込むんですかい。こいつァつまらねェや。宵越しの金は持たねェのが粋ってもんですぜ』
 オニシバはそんなことを言いましたが、タイザンは真剣な顔で腕を組みました。
「いや、この不況の世の中、貯蓄して将来に備えるのは当たり前だ。1人の人間の老後にいくらかかるか知っているか? ミカヅチ社が永遠に安泰だという保証などないし、年金とて、ちゃんともらえるとは限らぬ」
 税もどんどん上がるかもしれないし、逆に福祉は、などと一席ぶったあと、
「私も、ボーナスを使うことばかり考えぬほうがよいかもしれぬな。老後に年金が廃止され、介護や施設入所が必要になっても困らない金は取っておかねば」
『……ダンナ、たしか近いうちにこの社会をぶっ壊して神流の世を作る予定だったような……』
 オニシバの遠慮がちなツッコミも耳に入らない様子で、タイザンは検索窓に『介護施設 入所費用』と打ち込み始めました。
 と、急にパソコンの画面が動かなくなったのです。
「うん? なんだ? フリーズか?」
 マウスやらキーボードやらかちかちやっても、画面は一向に変化しません。
「フリーズか。近頃やたら重いし、固まるのも頻繁だな。もう寿命か?」
 何をやっても反応しないので仕方なく無理やりシャットダウンし、もう一度立ち上げました。エラーチェックが始まるのを見ながら考えていたタイザンは、
「決めたぞオニシバ。ボーナスの使い道は、新しいパソコンだ」
『ぱそこんですかい。こいつも買って何年も経ってない気がしやすがね。修理に出してやっちゃァどうですかい?』
「いや、これはあまり性能がよくないのだ」
 タイザンはちょっと思い出しました。
「あのころはパソコンのことがよくわからずに、そのへんの安いものを買ってしまったからな。こんどは金に糸目をつけず、いいものを買うことにする。壊れにくく、容量がたくさんあって、作業がスムーズに行くものを探そう」
と言ううちにエラーチェックが終わったので、評判のよいパソコンを探すためにインターネットで情報を得ようとしたのですが、そのウインドウがなかなか開かないのです。
「やはり重いな」
『今てェへんな思いして支度してるんでさァ。見ててやりやしょうぜ』
「……オニシバ、お前もしかしてパソコンに同情していないか。ああ開いた。ん?」
 開いた大手検索エンジンホームページには、『パソコンが重い!必見対策特集』の文字が躍っていました。
『ダンナ、先にこいつをやってみたらどうですかい。荷物が重くて仕事が辛ェなら、軽くしてやれば元気も沸いてくるってもんでさァ』
「だからなぜ同情気味なのだ。
 まあしかし、軽くなるならそのほうが探しやすかろうしな……。なになに、容量を圧迫する画像ファイルや、使わないアプリケーションの削除? まずパソコン内に何があるか調べるのか、やり方は……」

 数十分後。
「雅臣! 私のパソコンに大量の牛丼画像を保存したろう! 音楽とともにひたすら牛丼画像が流れ続ける動画なぞ、なぜいくつも保存する必要がある! あとなんだ、この『24時間牛丼検索』というアプリケーション! 裏で勝手にネットに接続して牛丼のセール情報を検索し、お前の携帯にメールする機能が常時動いていたではないか! 他にもダウンロードした覚えのないものがごろごろと……重くて当たり前だ!」
 携帯電話に向かって怒り狂う契約者を見ながら、
『ダンナ、ふぉーまっととやらをして、また使ってやりやしょうぜ』
 妙にパソコンに同情的なオニシバが、初期化CDを用意しておりました。
12.12.12

フレームなしメニュー     続き




雅臣さんは「牛丼」でイメージ検索とか普通にやりそう。
牛丼動画とか作ってそう。