+ ごちそうを食べるとして +
「うわーっ、なんだよこれ、すごいご馳走じゃないか!」
珍しくタイザンのマンションに呼ばれた雅臣さんは、ダイニングテーブルの上に並べられた料理を見て歓声を上げました。
「ミカヅチ社が懇意にしている有名料亭の料理だ。特別に出前をしてもらえるという話になってな。……まあ、なんだ。2人分からだというから、余らせるのもどうかと思ってな」
わざわざ2人分を届けてもらったことを知っているオニシバは、低く含み笑いをしましたが、もちろん口に出したりはしませんでした。見ればキバチヨもすこしにやりとしたようです。付き合いの長いこの青龍も、うすうす感づいているのでしょう。
雅臣さんのほうは気づいていないのか、はたまたわざと気づかないでいるのか、
「いっただっきま〜す!」
さっそく箸を取ってご馳走にかぶりついたのでした。
「おっ、これうまい! うん、うん、この食感が……。これもいけるぜ! こっちはなんだろうな……魚かな? なんだかわからないけどうまい! タイザンも食べろよ!」
「……うまいか?」
「うまいうまい! ほら、タイザンも食べろって!」
そうか。タイザンは声に出さずつぶやきました。
隠れ里にいたころのことを思えばくだらぬ浪費だとも思ったが、このような金の使い方も、悪くなかったかも知れぬ。
やがて雅臣さんはごちそうをきれいに平らげました。満足そうにため息をつき、膨れたおなかをさすります。
「あーっうまかった! ま、牛丼ほどじゃないけどな」
その2秒後、ちゃぶ台返しの憂き目にあったテーブルが宙を舞ったそうです。
08.08.05
わざとか天然かは不明です。