+  服を買うとして  +


 そういえばボーナスでブランド服を買いまくるという部下がいたな、と思い出したのはタイザンでした。現代の服にはあまり頓着がないのですが、一応見に行ってみるか、と街に出ると、通りは休日を楽しむ人々でにぎわっているのです。
『しかしこの時代は色んな服がありやすねェ。さっきすれちがった嬢ちゃんなんざ、西洋のお人形みてェな格好でしたぜ。ずいぶんとふりふりで』
 霊体のオニシバが、後ろを振り返りながらそんなことを言います。タイザンも軽く振り返り、オニシバの視線の先を確認しました。
「あれはゴシックロリータというやつだな。若い娘が着てはいるが、実はかなり値がはるらしいぞ。全身そろえるなどとなれば、うちの部下どもの一ヶ月の給料が軽く飛ぶというからな」
『へェ、そいつァ太っ腹だ。あれだけ色んな飾りがついてりゃ、納得もいくってもんですぜ』
 そうだな、とつぶやき、タイザンは何かを思い出したかのようにうなずきました。
「まあ、値が張るといっても所詮部下どもの月給だ。私ならそれほど痛い金額でもなかろう。ボーナスも出たし」
『ハハ、ダンナ、あのお人形さんの服を着るんですかい? よしてくだせェよ、あっしの腹がよじれちまいまさァ』
 オニシバは高らかに笑いましたが、タイザンはそれには返事をせず、
「……話は変わるが。
 オニシバ、犬コスプレというのを知っているか」
『へい? いきなり何の話ですかい?』
 オニシバはサングラスの奥で瞬きをします。タイザンは実にまじめな顔で続けました。
「文字通り飼い犬にコスプレをさせるのだ。
 この間ネットで柴犬にプ○キュアの格好をさせているのを見たが、そのかわいいことといったらなくてな……」
『あの……ダンナ、どうしてあっしを見るんで? 話は本当に変わってるんですかい?』
 まじめな顔のままのタイザンは、ひるむオニシバを上から下までゆっくり眺め、再び何かにうなずいたのでした。

08.10.01



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犬コスプレは本当にかわいいですが、嫌がる犬にやるのは虐待です。