+ 燃える瞳のパソコン教室 前編 +


「タイザン部長! 大変です!」
「なんだユーマ。出勤してたのか」
「天流討伐部室が空です! 闘神士が誰もいません! まさか天流に……うおおおおおお!」
「落ち着け、ユーマ。……今日は祝日だ。おまえが間違えて出勤してきただけだ」
 冷たい声に背後の炎まで消されたか、ユーマはきょとんとしてタイザンを見た。
 連休真っ盛りの5月3日、天流討伐部室でのことだった。

「道理で、本部の様子がいつもと違うと思った……」
 ユーマは納得したらしく深くうなずいている。その時点で気づけ、と思いつつ、タイザンは部室に来た本来の目的を果たすため手近な共用パソコンを立ち上げた。
「では、自分はこれで失礼します。部長は、今日もお仕事ですか。お疲れ様です」
 由緒ある社に生まれた闘神士らしく、ユーマはきっちりと頭を下げてきた。お疲れ様と思うなら手伝ってゆけ。と言う代わりに、
「待てユーマ、せっかく出てきたなら社内報のメールくらい見て行ったらどうだ。おまえ、ずっと天流を探し回っていて、出社してくるのは一週間ぶりだろう」
「あ……はあ……」
 扉のところで振り返ったユーマは、戸惑ったように頬を掻いた。
「どうした」
「あの……実は、どうやったらメールが読めるのか知りません」
 タイザンは愕然として顔を上げた。
「毎日のように社内連絡が来てるだろう! 出社のたびに読めと   
「そのあたりは、すべてソーマがやってくれますので」
 そういえばこやつの弟は天才児だったな。いや、今時天才児でなくてもメールくらい読める。平安のころにはメールなどなかったが私は本当に努力して……との内省を経て、
「そのパソコンの前に座れ。いいか、一度だけだぞ。一度だけ教えてやるから覚悟して覚えろ」
 タイザンは1200年分の気迫とともに通告した。ユーマは一瞬逃げ腰になったが、おとなしくパソコンに向かった。


「まずは……だ。電源をいれろ」
「…………電源…………」
「そこからか? 貴様、そこからなのか?」
 タイザンが机を叩くと同時に、ふっと霊体が現れる。
『ユーマ、これだ』
 ランゲツが正しく電源ボタンを指したので、タイザンは驚いた。
「白虎のランゲツ、貴様パソコンの使い方がわかるのか」
『わかるというほどではない。他のものが使っているのをなんとなく見ていただけだ』
 どこかばつが悪そうだ。タイザンは「ふむ」と腕組みし、
「さすがは最強の式神と言ったところか……。ユーマ、ランゲツを降神しろ」
「え? はい。式神、降神!」
 実体を伴って現れたランゲツは、元気な名乗りもなく、仏頂面でタイザンを見た。
「ワシに何用だ」
「そっちのパソコンの前に座れ。おまえにも使い方を教えてやる。今後ユーマが使い方に迷ったらおまえが教えてやれ」
「ワシは式神だ。戦うことしか出来ぬ」
 最強の式神はそっぽを向いたが、
「ほう? 契約者が困難に立ち向かっているのに助ける気もなしか。たいした信頼の式神だな。おまえとユーマの絆はその程度か」
「ぐぬぬぬぬ……!」
 この展開を予想していたのか(そして仕方ないという気がしていたのか)ランゲツは苦虫を噛み潰したような顔でパソコンデスクに向かった。
「よし。……そういえばオニシバ、おまえも少しは使えるか?」
 自分の式神だって、仕事しているのを見ているはずだ。と思ったのだが、オニシバは飄々と言い放った。
『いや、ぱそこんにァ、ちいとも興味ありやせんからね』
「…………式神降神。オニシバ、そっちのパソコンの前に座れ」
「何でですかいダンナ。どうしてあっしが」
「なんとなくかちんと来たからだ。文句があるのか?」
 こうして、一番左にユーマ、中央にランゲツ、右端にオニシバの1人と2体がパソコンに向かうという異様な風景が出来上がった。

07.4.27



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