+ 6人目 +
4階の高さまで登り、タイザンは額の汗をぬぐった。
「やっとここまできたか……。さすがに疲れてきたな」
「また一休みにしやすかい」
「いや、あと少しだ」
このあたりまで来ると、幹から枝先までの距離も近く、下のほうよりはずいぶん楽に飾り付けられるようになってきた。
「それでも2人では効率が悪いな。雅臣の手が空いていれば手伝わせてやるものを」
「天流宗家捜索中なのが悔やまれやすねェ」
「まったくだ」
タイザンは重くなった右手首をぶらぶら振った。
「それにしても、休日はいつもとはまた違う賑わいだな」
正面入り口前の広場は、家族連れや若者グループなどで、結構な人手がある。タイザンは再度丸いオーナメントに手を伸ばしながら、
「平日は勤め人ばかりだが、日曜はいろんな人間が歩いているものだ」
「こんな高さから広場を眺めるってェのもあんまりありやせんしね」
「そうだな」
タイザンはふと手を止めた。オニシバがその視線を追うと、噴水のそばで高校生くらいの少年達の一団がにぎやかに歩いているのが見えた。
「雅臣さんと同じくれェですかね」
「かもしれぬな」
タイザンは短く言って、しばらく黙った。ガラスの外では相変わらず高校生たちがはしゃいでいる。
「……この時代では」
タイザンはオーナメントを手の中で転がした。
「ずいぶんと長く子どもでいられるのだな。ずいぶんと長く、ああして仲間同士ではしゃぎまわっていられる。……16、17くらいでも」
オニシバは小首を傾げた。
「平安の世じゃァ、もう立派な稼ぎ手だったんじゃありやせんかい」
「……そうだな。だが今はこの時代にいて……一方ではああして楽しげにしている者たちがいるというのに……どこにいるともわからぬ宗家を探すばかりで……」
オニシバはなおもオーナメントをもてあそぶタイザンをちらりと眺めた。
「……確かに、現代じゃァ17は気楽なご身分みてェですね」
そしてぴっとガラス窓の向こうをさした。つられたタイザンの視線の先には、公園を通り抜ける白ジャケットの人影。有名牛丼チェーン店の袋を大事に抱え、浮かれた足取りに縛った髪が揺れている……。
タイザンは腰を浮かした。浮かしかけ、一度戻した。そしてゆっくりと、しかし確かな足取りで、枝を降り始めた。
10分後。
「くそ……雅臣め……逃げ足の速い…………」
ぜえぜえと息を切らしたタイザンは、やや力ない足取りで再度ツリーへとよじ登った。
07.1.15
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