+ 3人目 +

 本社を出たはいいが、このあたりの店はミカヅチ社の休みに合わせてのきなみ休業日だ。しかたなく手近なコンビニに入りコーヒーを物色していたタイザンの横に、見覚えのある人影が立った。
「これは天流討伐部のタイザン部長。珍しいところで」
 どこか鼻で笑うような物言いは、いつもタイザンの神経をゆるく逆撫でするのだった。伏魔殿内捜索部のモズだ。
「休日出勤、ご苦労だな」
 そちらを見もせずに言い返した……つもりだったが、タイザンの目はモズが抱えた巨大な荷物に思わず吸い寄せられた。小柄な彼の身体より大きいほどの、クラフト紙に包まれた何かを、モズは両手で抱えている。
「……なんだ、それは」
「ああ、これですか」
 モズはふさがった両手で何とか冷蔵庫の扉を開けようとする努力を中断した。
「毛糸です。迫るクリスマスに向け、トウベエがすっぽり入るほどの靴下を編んでやろうと思いまする」
「……トウベエが、すっぽり入る?」
 怪訝な顔をしたタイザンに、モズはふっと笑った。
「部長はご存じありませぬか。クリスマスの夜、靴下にすっぽりくるまって寝ると、楓族の式神がやってきてプレゼントをくれるのですよ。まあ、わたしも今朝カンナから聞いたところですが」
 タイザンの手から缶コーヒーが滑り落ち、床にはねた。
「きさま現代人の分際でクリスマスを知らぬのか?」
「知っておりまする。12月25日」
「いや、日付ではなくてだ」
 タイザンの言葉にかまわず、モズは巨大な荷物をとうとう床に置くと、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出し、
「トウベエが入る大きさの靴下を編むのは難儀でしょう。わたしはまっすぐ帰らねばなりませぬ。失礼いたします、タイザン部長」
 つかつかとレジへ去っていった。
「…………どいつもこいつも常識と言うものを知らぬのか」
 タイザンはげんなりしてつぶやき、自分も選び出したコーヒーをレジに持ってゆこうとして……ふと思いついて、2つ3つ違うものを買い足すとコンビニを後にした。 06.12.26




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