+ 合間 +

「さっさと片付けるぞオニシバ。またあんな危険な邪魔が入る前にな」
「へい」
 ユーマが医務室に運ばれた後、焦げた枝を刈り取ってなんとかごまかしたタイザンとオニシバは、段ボール箱から飾りをどんどん取り出していた。
「では、下のほうはこのあたりのものを飾り付けるぞ」
「へい」
 2人は手分けして木を飾り始めた。タイザンは時折ツリーから離れて、
「オニシバ、そのサンタ、もう少し左だ」などと指示を出す。飾り一つ一つがかなり大きいこともあって、脚立で手が届く範囲は瞬く間に出来上がった。
「もうあっしでも手が届かねェや。どうしやすダンナ、2階にあがりやすかい?」
「いや」
 タイザンは悪巧みを思いついたかのように笑った。
「登る」
 そして軽く枝の具合を確かめると、勢いをつけて枝に上がり、するすると2階の高さまで登っていった。
「こりゃ驚いた。ダンナ木に登れたんですかい」
「里にいたころも、散々登ったからな。オニシバ、そっちの箱を持って来い」
 箱を抱え、オニシバは床をけって一息に枝まで上がってきた。箱を太い枝の根元に置き、一つ二つオーナメントを抱えては枝の先につけてゆく。最初は慎重に枝の太さを見定めていたタイザンも、すぐそんなことはやめてしまって多少細い枝にも平気で足をかけるようになった。
 右手にオーナメントをいくつも抱え、上の枝に軽く左手をかけながら、すたすたと枝を伝う。と思えばもう一段高い枝によじ登り、また下り、タイザンはオーナメントの位置をさまざまに試しているようだった。
「なんだか楽しそうですねェ、ダンナ」
「何が楽しいものか。闘神士のやることではなかろう。こういうことはその道のプロに依頼すべきだろうに、妙なところで経費削減をはかりおって、ミカヅチめが」
 両手に持った、大きさの違うオーナメントを見比べ、かざしてまた見比べ、やっと小さいほうを枝につるす。その斜め下に大きいほうをつるそうとしたタイザンだったが、微妙な位置が気に入らないらしく、何度もつるし直している。
「やっぱり、楽しいんじゃありやせんかい」
「楽しくなどない。……オニシバ、そのサンタ、もう少し右だ」
「へい。こんなもんですかい」
「違う。もう少し左」
「こんなもんで?」
「違う。ちょっと貸せ」
「……へい」
 おとなしく差し出したオニシバの手からオーナメントを受け取ると、タイザンはふと他の飾りがつまった箱を振り向いた。
「待てよ……。あっちにあの飾りがあるから、ここにはこれよりあれのほうがよいか。そしてこれはあのあたりにつるせばよいバランスになる……」
 あごに手を添えてぶつぶつつぶやき、箱からもうひとつ引っ張り出して慎重に枝につるしていった。
「よし、これでよい。完璧な出来だ」
 角度を変えて何度か眺めた後、うなずいて枝に腰を下ろしたタイザンは、長い息を吐いて天を仰ぐ。
「自分で言うのもなんだが、この絶妙のバランスは、天地神三流派でも私にしかできぬ技だろうな」
 かすかに微笑んで額の汗をぬぐった。
「ダンナ、やっぱり」
「しつこいぞオニシバ」
「…………へい」
06.12.13




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