+ 1人目 +


「仕方ない。とにかく片っ端からやるぞ、オニシバ」
「へい。上からやりますかい?それとも下から」
「下からのほうがよいだろうな。ここも、いつまでも立ち入り禁止にはしておけぬ」
 今日は地流と無関係の部署はほとんど休みの日で、降神していても一般人の目に触れる気遣いはあまりないのだが、一応受け付け前ロビーは作業中という名目で立ち入り禁止にしてあるのだ。
 ぐるりとガラス張りの正面玄関も、きちんとカーテンが引いてあるので、通行人に見られることもない。が、ずっとそのままにしておくのもあまりよくないような気はする。
 2人は10個の段ボール箱を開け、中身を確認する。山のようなわたや星、豆電球、オーナメントにリボン。金色銀色のベルも大小さまざまにある。
「じゃ、あっしはこの辺を」
 オニシバはサンタクロースやプレゼントの形をしたオーナメントをごっそり抱えあげようとしたが、
「待て」
とタイザンがとめた。
「飾りに統一性がないな。無計画につけてゆくとごちゃごちゃして、品の無い仕上がりになりそうだ。まずは配色から考えるか……」
 箱を覗き込み、あごに手を当ててぶつぶつつぶやきだした。
「ダンナ、そんなヒマあるんですかい」
「ヒマではない。これは必須事項だ。必殺技の前には印を切る、それくらい当然のことだ」
 またダンナの病気が出ちまった。と口に出すと厄介なのでオニシバはおとなしく待っていた。
 と、
「タイザン部長?! 一人で何を」
 駆け寄ってきた人影に、タイザンは驚いて顔をあげた。飛鳥ユーマだった。この寒空をものともしない軽装にサンダル履き。常人には及びもつかない強靭な身体か、もしくは鈍感な神経を持っているらしい彼は、目を丸くしてタイザンとツリーを見比べた。
「ツリーの飾り付けですか? 今年はうちだったのか。知らなかった……」
 十月ころ確かに連絡を回したはずなのだが、自分もすっかり忘れていた以上、部下の不明を責めるわけにもいかない。タイザンは「いいところに戻った。手伝え、ユーマ。人手が足りん」と引っ張り込みにかかった。ユーマは顔をしかめる。
「ツリーの飾り付けをですか。闘神士のやることではないでしょう」
「部の仕事だ、ごちゃごちゃ言うな。早く終われば夕飯くらいおごってやってもいいぞ」
 ユーマの耳がぴくりと動いた。
「おごり……。特盛りにしてもいいですか」
「牛丼屋はやめろ牛丼屋は! おまえまで誰かのようなことを言いおって……。そんなに金がないのか」
 その言葉は当たっていたようで、ユーマは渋っていたのがうそであるかのように、いそいそと脚立を持ち出し始めた。それからふと気づいたように、
「人手は多いほうがいいですよねタイザン部長。もう一人呼び出しましょう。ランゲツ! 式神降神!」
 勢いよく振り下ろした神操機は、むなしく空を切ったのみだった。
「ん? なぜだ? ……式神降神! 式神、降神!!」
 タイザンはかまわず長い長いモールを引っ張り出し、銀と金とどちらがよいか見比べる作業を続けた。
「ランゲツさんが手伝うわけありやせんぜ、ダンナ。止めてやらねェんで?」
「飽きるまでやらせておけ。それよりオニシバ、金のモールにするとして、これとこれ、どちらがより合うと思う」
 2人が意見を交換し、基本の色はやはり地流の赤だろうということで一致を見たころ、ユーマが首をかしげながら戻ってきた。
「おかしいな、ランゲツ風邪でもひいたか? タイザン部長、俺の神操機は調子が悪いようです」
「ああそうか大変だな」
「ですが、俺が2人分働くのでご安心ください」
 力強く言い切り、ユーマは5階まで伸びるツリーを見上げた。
「なんという大きな木……。
 まるでミカヅチ様の作り上げた地流の栄光を象徴しているかのようだ。
 日陰者だった俺たち地流が、今ではこんな繁栄を手中にしている……。
 俺たちの手で、それを守ってゆかねばならないのだ。そのためにも俺は負けん!
 この雄大なもみの木を見事に飾りつけ、地流の栄光を知らしめてみせる!
 見ていろランゲツ、うおおおおお―――――っ!!!」
「火を焚くな木が燃える!」
 タイザンが投げつけた巨大な星が頭にクリーンヒットし、炎を吹き上げていたユーマはそのままばったりと倒れた。
06.12.10




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