+ ミカヅチ秘書編 +
12月のある朝のことです。ミカヅチビルに出勤し、今日の仕事を始めたばかりの天流討伐部長タイザンのところに、ミカヅチ社長の秘書がやってきました。秘書を見ると反射的にまた新しい事務仕事かと思って身構えてしまうタイザンでしたが、予想に反して秘書はリボンのかかった包みを差し出したのです。
「タイザン部長、お誕生日おめでとうございます。これはわたくしからの、お祝いの気持ちです」
タイザンはびっくりしてしまいました。ミカヅチ社長の秘書は、仕事上の付き合いしかない人間に個人的なプレゼントなどするような人には見えていなかったからです。というのも彼女は常にたいへんクールでビジネスライクな、有能秘書を体現したかのような態度を貫いていたからでした。だからこそ、
「わたくしの主観で選んでしまいましたので、少々確認をさせていただきます。部長、式神降神をお願いします」
などといわれて思わず素直に神操機を取り出してしまったのでした。むすびとこころをかけに〜かけりゃ〜と歌いながらオニシバが出てきます。「霜花のオニシバ、見参!」という名乗りまでを無事こなし、
「何ですかいダンナ。闘いじゃあねェようですが」
首をかしげたオニシバに、秘書はちょっとおそるおそる近づくとリボンのかかった包みを開けました。中からは何やら服っぽい布が出てきます。秘書は筒状になっていたそれをオニシバの前に広げ、腹巻の上に当ててみたのでした。見れば可愛らしいワンちゃん模様がプリントされています。
「……なんだ、それは」
「レインコートです。これからの季節、雪の中を散歩するには必要不可欠かと思われます。……申し訳ありませんタイザン部長、わたくしの手違いで、標準的な柴犬用ではかなり小さかったようです。改めて手配いたしますので、採寸を許可いただけますか?」
と言いつつ、タイザンの返事も待たずにポケットからメジャーを出して、オニシバの背丈やら胸囲やら頭周りやらをを計り始めたのでした。なぜか耳の高さやほっぺの毛の長さまで計り、その合間にオニシバの頭をもふもふします。
その真剣な空気に押され何も言えないタイザンを後目に5分少々もかけたでしょうか、
「ありがとうございました。無事採寸が終了いたしましたので、このサイズで改めて手配いたします」」
一礼を残して秘書が出て行ったあとの天流討伐部長室には、屋内なのに北風が吹いておりました。やがてオニシバが「ハハハ」と明るい笑い声を上げます。
「なかなか面白い嬢ちゃんでしたねえ、ダンナ。わざわざ祝いの品を持ってくるなんざ、意外と義理堅ェお人じゃありやせんか」
「違う! あの小娘、理由をつけておまえにさわりたかっただけだっ!!」
あ、気付いちまってら。オニシバは思いましたが、口に出すのは我慢しました。
17.12.02
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