+  清明 (青錫族) +

註:時系列むちゃくちゃです。
  あと、現在DVD1巻が留守にしているので、多少の間違いはお見逃しください。


「そういえば」
とリクが言う。高速のサービスエリアは標高が高いせいか、リクの座るベンチのすぐ横では、まだ桜が開ききっていなかった。
「コゲンタに会ったの、ちょうどこのくらいの時期だったね」
「あー、そうだな。ちょうど清明……青錫の節季だ。最初に戦ったのも青錫のツクモだったっけな」
「懐かしいね……」
 リクは遠い目になって、両手でくるんでいた缶ジュースに口をつけ、一口飲んだ。
「ツクモ使いのヤマセくん……。
 初めて会ったとき、僕、友達になれるような気がしてたんだ。
 それなのにいきなり敵味方になって、戦わなくちゃいけなくなって。
  なんとか勝ったら、記憶喪失になってどこかに帰っちゃうし、あのとき、本当は悲しかったよ」
「リク、闘神士ってのは、……いや……ごめんな、オレには人間のそういう機微には立ち入れないんだ」
「うん、大丈夫だよ。別に闘神士になったことを後悔してるわけじゃないから。
 ナズナちゃんにソーマくんにテルさん、マサオミさんやヤクモさんと知り合えたのは、
 闘神士になったおかげだしね。それに……」
 横手から聞こえた足音に、リクはぱっと顔を上げた。
 きょろきょろと左右を見渡しながら走ってきた少年が、リクの姿を認めて大きく手を振る。
「太刀花くん! もうバスに集合する時間だよ」
「あ、ゴメン! すぐ行くよ」
 空になった缶をゴミ箱に放り込み、リクは荷物を抱えて立ち上がった。
 前方で待っている少年の所へと足早に駆け寄る。
 少年は眼鏡のズレを直しながら、追いついたリクに歩調をあわせて駆け出した。
 ちらっとリクをみて笑いかける。
「バスの中、少し乾燥してるよね。僕ものどが渇いちゃったよ」
「うん、僕も。
 ……ヤマセくんの中学のボート部、ほんとすごいね。
 専用の合宿所を持ってたり、こんな風にバスを借り切って他校と合同合宿する学校があるなんて、
 考えたこともなかったよ」
 ヤマセは笑って、背の荷物をゆすりあげた。
「私立だからお金だけはあるんだよ。あ、ほら、急ごう!」
「うん」
 笑顔を返し、リクも足を速めた。
 ――それに、
と、神操機の中のコゲンタに小さく語りかける。
 ―――敵味方になっても、また出会いなおして友達になることもできるしね。





+  穀雨 (消雪族)  +

「見つけたぞ、天流のヤクモ!」
 伏魔殿でリクと遭遇した覆面の男は、そう叫ぶなり式神を降神した。
「待ってください、僕はヤクモって人じゃ……わあっ!」
 リクの言葉も耳に入っている様子がない。現れたのはサメの姿をした式神である。
「消雪のマガホシ、見参!」
「今日こそ逃がさぬぞ、天流のヤクモ!」
「だ……だから僕は……」
 マガホシが一歩一歩近付いてくるのを呆然と見つめながら、リクは血の気が引いてゆくのを感じていた。
 コゲンタは神操機野の中で深い眠りに落ちている。
 自分にある攻撃手段―――あるいは自衛手段は、ポケットの数枚の符だけ。
 絶望を感じた時、頭の中を懐かしい記憶が走馬灯のように走り抜けた。

『イテテ……』
『おじいちゃん、大丈夫?』
『おお、大丈夫じゃリク。この年になるとどうしても関節が痛んでなあ。
 向かいのトメさんが関節痛にはサメの軟骨が効くと言ってたが、
 そんなもの天神町には売っとらんしな……』

「どうした天流のヤクモ。神操機を抜かぬのか?」
 タイシンがいぶかしげに問うたが、リクはその言葉に応えず、ゆっくりと符を取り出した。
「ははははは! 符だけでこの神流闘神士タイシンに敵うと思うてか!」
 高笑いをあげる。その彼を見つめるリクの目は、何かが取り付いたようなうつろな色をしていた。
「ならば遠慮なくゆくぞ、天流のヤクモ、覚悟!」
 マガホシが地を蹴った。迎え撃つリクにはもう怯える様子はない。
「……サメの……軟骨……」
 つぶやいたリクの声はひどく小さくて、タイシンの耳には届かなかった。






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