+ 小話10ノ肆 +


 飛鳥ソーマははっと意識を取り戻し、自分が倒れているのがまるで見覚えのない板張りの床の上だということに気づいて動揺した。
「目が覚めたか、飛鳥ソーマ」
「この声は……タイザン?!」
 驚いて跳ね起きると、数歩先に御簾が下がっているのが見えた。その後ろに、束帯をまとった人影がある。明かりに乏しい部屋の中、その顔には濃く影が下りて、表情を覆い隠していた。
 ソーマは唐突に思い出した。突然、街が石化したのだと。とにかくリクたちと合流せねばと天神町に向かってフサノシンとともに飛んでいる最中、いきなりどこからか攻撃が来て、目の前が真っ暗になって……。
 見回せばそこは薄暗い室内だった。平安時代の宮殿のような、重厚かつ壮麗な装飾が施された広い室内には、しかし背筋をうそ寒くするような冷気が漂っていて、ソーマは思わず身震いした。
「本来ならば、汚らわしい地流の闘神士など始末しているところだが……おまえにはやってもらわねばならぬことがある。われらがウツホさまのためにな」
「ふざけるな、だれが神流なんかに!」
 ソーマは激昂を装って叫んだ。
「ほう? 震えているくせに口だけは一人前だな。……だが、これはウツホさまのたっての望み    
 どうあってもやってもらうぞ」
 いきなり横手に光がともり、ソーマはびくっと体をすくめた。
「ミカヅチ社製携帯ゲーム機用ソフトウェア、『妖怪大戦記』の続編の開発を!」
 光っているのは、ミカヅチ社ブランドの最新型パソコンのディスプレイだった。
 そして、その横に携帯用ゲーム機が落ちている。液晶画面には、派手なタイトルロゴが踊っていた。
 ちゃーちゃーらららー。ちゃらららー。ちゃらららー。ちゃーちゃーらららー。
 無言の室内にやたら明るいテーマソングがしばし流れた。
「……続編?」
「タイトルは妖怪大戦記2でかまわん。とにかくゲームの中身を作れ。早急にだ。開発費と機器はこちらで調達してやる」
「…………ボクが?」
「……できそうな心当たりがおまえくらい……いや、なんでもない。とにかく今すぐ開発に取り掛かれ。
 ……いや、本当にたった一人で完成まで持ち込めとは言わぬから、とりあえずはウツホにただいま鋭意開発中ですと言えるようなポーズだけでも……いや、それもなんでもない。とにかく作れ」
 タイザンの言葉が聞こえないかのように、ソーマは呆然とゲーム画面を見ている。
「……あくまで嫌だと言うならこちらにも考えが……」
「作っていいんだ!!」
 脅し文句を持ち出そうとした瞬間、ソーマは目を輝かせてパソコンに飛びついた。
「ボクなら絶対にもっと売れるものが作れるって思ってたんだ! まずゲットできる妖怪の種類とタイプを倍に増やして、通信機能をもっと大胆に取り入れたシステムを導入して、ああ開発費は10億あれば余裕かな、グラフィックのシステムも1から構築しなおせるし、それから……」
 立て板に水と喋りながらものすごい勢いでキーボードを叩くソーマの姿に、

 ………………押すべきではないスイッチを押してしまったか……?

 御簾の向こうで、タイザンは静かに冷や汗を流した。

07.10.14



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ソーマ、2度目の登場。この子は、
「自分ならもっと面白いものが作れる!」
ではなく
「自分ならもっと売れるものが作れる!」
と考えるタイプだと思ってます。
その調子で世界に羽ばたけ新生ミカヅチ社。