+ 小話10ノ伍 +


「……タイザン」
 いつもにまして感情の窺えぬ声で、ウツホが御簾の向こうから呼びかけた。
「は」
 何の用だ。ようやく手に入れた『メダマジジイ』は絶対渡さぬぞ。そう思いつつも、とりあえずゲームには一時停止をかけてかしこまる。
 ウツホはしばらく沈黙し、そして言葉を発した。
「伝説、というものはあまたあるが……それらの中にどれほど真実をついたものがあると思う」
「おそれながら、何のお話か……」
「答えてみよ」
「は」
 少し考え、
「伝説というからには、伝え聞きの脚色もございましょう。しかし、それなりの真実を伝えているからこそ、伝説となりうるのではないかと存じます」
「そうか」
 ウツホは、すっと視線を床に落とした。つられてタイザンも床を見る。
 御簾ごしに、ウツホの足元に何か四角いものが落ちているのが見えた。
「ならば、任○堂の携帯用ゲーム機は、本社ビル社長室の窓から放り投げても壊れぬよう作られているという伝説も本当なのであろうな」
 四角いものは、さっきまでウツホが持っていたはずのミカヅチ社製携帯ゲーム機だった。ディスプレイにひびが入り、ノイズが走っている。そういえばさっき、
 がちゃん。
「あ」
という音がしたような気もする。
「これが……一流企業と三流企業の違いというものか? タイザン」
 三流企業だと天下のミカヅチ社にケンカ売ってるのか手を滑らせる方が悪いのだろうが!とタイザンは胸中で叫んだ。

07.11.11



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携帯ゲーシリーズ、とりあえず完。たぶん。