+ 小話10ノ壱 +


「……タイザン」
 御簾の向こうから、ウツホが低く呼んだ。
「は」
 そちらに向き直ってかしこまり、ついでに内心で『ヒマ人が、何の用だ』とつぶやいておいた。
「ニンテンドーDSの品薄状態が改善されたようだな」
「……は、そのようで」
 知るかそんなこと。と思ったが適当に調子をあわせた。「だが……」とウツホは中空を見上げる。
「うつしよはまこと、苦しみに満ちている。
 ……いま買いに行ったとて、人々はみな石化して店が開いていないのだ。
 せっかくのDSを手に入れることもできず、指をくわえて見ているのが人のさだめというものか……」
 底冷えのする声で淡々と述べたウツホは、不意にタイザンに視線をくれた。
「そういえば、ミカヅチ社でも携帯用ゲーム機を出していたな……」
「は、当社も2年前に携帯用ゲーム機の開発に成功し、全国玩具店等で販売しております。」
 思わず会社員モードに入って当社などと口走ったタイザンを虫けらのように眺め、
「持って参れ」
「は?」
「それが欲しい。持って参れ、タイザン。今すぐにだ」
「おそれながらウツホさま、今、現世は石化しておりますし、」
「知らぬ」
「さっきご自分で……」
 ウツホの目が不気味に光った。
「そなたは重役であろう。自社の商品ひとつ調達できぬのか」
「……承知いたしました。少々お待ちくださいませ」
 こんちくしょうという思いでタイザンは腰をあげた。


「本体を2台と、通信用ケーブルと、108種類の妖怪を集めるあのソフトもだぞ、タイザン」
「…………その、ゲームソフトの名前は……」
「そのようなつまらぬこと、覚えてはおらぬ」
「……………………」

07.9.26



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