+ 小話8 +
また今年もこの季節が来たか……。タイザンはいまいましい思いで机の上のプリントを見やった。
『社内健康診断用 健康チェック表』
右肩に付箋が貼られ、『事前に記入してきてください』とある。
「X線だの血液検査だの……。寒気がする」
が、ぼやいていてもどうしようもない。仕方なく腹をくくって、項目を埋めることにした。
左手にペンを持ち、読み進める。
第1問。
『タバコは吸いますか? 吸う人は、一日に何本吸いますか?』
これは「いいえ」に丸をつけるだけで済む。
第2問。
『お酒は飲みますか? 飲む人は、一日もしくは一週間にどのくらい飲みますか?』
そういえば最近ヤケ酒が増えたな……。多少どきどきしつつ、「週1回、ビール一本程度」と書き込む。
『ダンナ、正直に書いたほうがいいんじゃありやせんかい。体のことですぜ』
「分かっている。正直には書くつもりだ。基本的にはな」
第3問。
『食事は規則正しく摂れていますか?
A.規則正しく摂れている B.たまに不規則になる C.不規則になりがち』
……日によってまちまちだ。下手をすれば昼食が食べられないことだってある。今日もそうだった。仕方なくCに丸をつけた。
第4問。
『家に仕事を持ち帰ることはありますか?
A.ほとんどない B.月に何度かある C.よくある』
理由のない敗北感を感じながら、やや乱暴にCに丸を打つ。
さらに第5問。
『スポーツや運動をどのくらいしていますか?
A.週に何回か B.月に何回か C.ほとんどしない』
第6問。
『一日の睡眠時間はどれくらいですか?
A.8時間以上 B.7〜5時間くらい C.4時間以下』
第7問。
『趣味・娯楽にどれくらい時間を使っていますか?
A.週5時間以上 B.週5時間以下 C.週1時間以下』
第8問。
『頭痛がすることはありますか?
A.ほとんどない B.月一度以下 C.月に何回も』
タイザンはペンを持ちなおすと、思い切りよく丸をつけることにした。質問文もろくに読まず、A、B、A、B、と。
『ダンナ、正直に……』
「うるさい。正直に書いたら確実に精密検査に回されるだろうが」
全く同じことを思ったか、オニシバはそれ以上何も言ってこなかった。
07.7.10