+ 小話3 +


「……タイザン」
 御簾の向こうから、ウツホが低く呼んだ。
「は」
 右手に控えていたタイザンは、姿勢を正し、そちらへ向き直ると板張りの床に手をついて低頭する。
「一つ、尋ねたい」
「は。何なりと」
 またか。と内心思いながらも恭しく応える。しかたあるまい、相手は子どもだ。子ども向けテレビ番組から流行りのゲームの話題まで、何でも付き合ってやろうではないか。
 そんなタイザンの内心を見透かすような冷たい視線で、ウツホは低く続けた。
「……今、この都は日本茶ばかりで飽きてきた、外に出てコーヒーが飲みたいと思っていたであろう?」
「………………」
「正直に申せ」
「…………ちらりと、ではございますが」
「やはりな」
 しかしだからどうとも思わないような、無表情の声でウツホは言った。そして、
「ガシンはどこか」
「おそらくは自室か、庭園に」
「そうか。すぐに行って、なんとか牛丼が手に入らぬかと考え続けるのをやめろと命じて参れ」
「は。ウツホ様の意のままに」
 深々と頭を下げ、タイザンは主殿をあとにした。
「ガシンめが……見つけ次第殴りとばしてくれる」
『ダンナ、そういうのをやつあたりっていうんですぜ』
「うるさい! ……ウツホめ、いずれ覚えておけ」
『ダンナ、もしかしてこーひーが飲めないことでもイラついてるんじゃァありやせんかい』
「……コーヒーの話はもういい!」

06.04.08



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