+ 小話2 +


 その日もタイザンは嫌がらせのような量の書類を片付けるため、休日だというのに自宅マンションで朝からパソコンと格闘しておりました。
『ダンナ、もう1時ですぜ。昼を食べて一休みしたほうが良いんじゃありませんかい』
 オニシバが気遣っても、返事はけんもほろろです。
「用意するのが面倒だ。近所には美味い出前もないし、食べに出る時間も惜しい。……式神は戦うことしか出来ぬとは不便なものだな。せめて料理の一つくらいできんのか」
『できますぜ」
 ごく簡単にそう答えたオニシバに、タイザンもついパソコンから顔をあげます。
「……できるのか?』
『焼きそばとか綿菓子くれェなら。……なんですかいダンナ、その、冗談がほんとになってしかもあんまりそのまんますぎてむしろ意外ってなオチがついた、みてェな顔は」
「本当に、できるのか」
『作りやしょうか?』
「……式神、降神。作ってみろ」
「へい」
 返事をするとオニシバはキッチンのほうに行き、しばらくしてどこから取り出したのか古式ゆかしい買い物かごを左手に下げて、とことこと出かけてゆきました。タイザンが仕事もせずに待つこと、10分。「たでェま戻りやした」と帰ってきたオニシバは買い物かごから焼きそばの麺と豚コマとキャベツとその他もろもろを取り出し、トントンジュージューと軽快な音を立てて料理を開始したのでした。タイザンがキッチンのほうを見たまま微動だにせず待つこと、さらに10分。契約式神はほかほかと湯気を上げる皿を手にタイザンのデスクへ現れました。
「お口に合うかわかりやせんが、ま、ひとつ食べてみておくんなせェ」
 皿からはソースの焦げたいい匂いがしています。タイザンは黙って皿を受け取ると添えられていた割り箸を割って焼きそばを食べはじめました。
「どうですかい、ダンナ」
「………………」
「自画自賛もなんだが、結構いい出来だと思いますぜ」
 まったく無言のまま焼きそばを食べ終わったタイザンは、空になった皿をオニシバにおしつけ、パソコンに向き直ると仕事を再開しました。
「……なんですかいダンナ、その、ひっくり返るほどまずいわけでも仰天するほど美味いわけでもなくまあごく普通の美味さだからコメントに困る、みてェな顔は」
 言ってみてもタイザンは振り向きません。しかたなくオニシバはキッチンに戻って皿を洗い、少し考え、そして3時のおやつにたこ焼きを作るため、買い物かごからタコを取り出したのでした。

06.01.30



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