+ 小話1 +


「……タイザン」
 御簾の向こうから、ウツホが低く呼んだ。
「は」
 右手に控えていたタイザンは、姿勢を正し、そちらへ向き直ると板張りの床に手をついて低頭する。
「一つ、尋ねたい」
「は。何なりと」
 恭しく応えた。別に警戒する必要もない。ウツホが自分を疑わぬよう、あらゆる問答への準備はすでに行ってある。
 ガシンもウツホも、私の掌の上で踊ればよい。そう思うタイザンの内心を知るはずもなく、ウツホは感情の欠落した声を発した。
「……ドラ○もんの声優交代について、どう思う?」
 タイザンは思わず顔を上げ、奥に立つウツホを見上げた。その顔は御簾に隠されて見えない。
「…………おそれながら、なんと仰せられましたか」
「ドラ○もんの声優陣が交代したことについて、そちはどう思うかと問うたのだ」
 はるか遠く、庭園から望む山野で雉が鳴いた。その長い声が静かに消えるまでの間があってから、
「古くからのファンより厳しい声があがっているとは聞いておりますが……個人的には、以前の部下の関係者なので応援してやりたく存じます」
「そうか」
 ウツホはあっさり言い、一旦口を閉じたかに見せてまたすぐ開いた。
「タイザン。スラ○ダンク第2部がいつか始まると……まだ信じていてもよいと思うか?」
「……ウツホ様がお望みになるのでしたら、必ずや」
「そうか。ドラクエシリーズの最高傑作は1から8のどれだと思う」
「申し訳ございません。そのゲームの名前は存じておりますが、内容までは……」
「……役立たずめが」
 ウツホは一言吐き出した。千二百年分のヒマ人めが!と言い返したいのはやまやまだったが、ありったけの自制心でそれは抑えた。

06.01.30



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