クライアントと設計者の微妙な関係(3)

 現在住宅をつくりたいクライアントと設計者の間には、どのような関係があり得るのでしょうか?リフォームする、増築する、新しい家を建てる―クライアントとその家族の人たちは、個々の事情によって家づくりを決断されます。その計画に設計者が加わる場合、その都度クライアントと設計者は一般的には初対面から始まり、その組合せはいつも個別といっていいでしょう。両者は家族の問題、ライフスタイル、人生観、価値観の優先順位(家族個人でも違う)についても話し合います。また計画に伴う資金計画、大きな財産の投資(工事費)やその個々の配分とバランス、全体の管理にまで程度の差はあれ関わる関係となり、両者は今ある条件の中でベストなものをつくろうと努めます。

そのような状態でスタートはお互いに、遠慮がちに、期待と慎重さを持って始まりますが、両者の関係が「雨上がりの生命を生み出す春の暖かい大地」のように創造的な関係になることを願うばかりです。しかも出発は良し終わりまで良いようにと。

 両者の関係が良かったのではないかという私の実例について書いてみます。子育てもとうに終わっていたMさんご夫婦。Mさんの奥さんは設計者に自分たちが住みたいと考えている家のイメージを伝えるためラフな平面図を書かれ、何冊かの住宅雑誌から切り抜いたスクラップ帳をつくられ用意されていました。その資料はデザインを押し付けるという意味でなく、参考例であり、お互いのコミュニケーションに大変役立ちました。何故なら、それをもとにして設計者は自分の側から提案を繰り返し、クライアントの側は柔軟に対応され、一方が自分のイメージを一方的に押し付けるという「悪い原則」を排することができました。

 家が完成した時、Mさん家族は奥さんがつくられたスクラップ帳の写真で考えられていたより、オリジナルな自分たちに気に入る家に出来上がって満足していただきました。そのようなケースに限って、ご夫人が謙虚に「随分と無理や我儘をお願いして申し訳ありませんでした」と言ってくださるのです―ということは、いつもそううまくいかない場合もあるということです。

 Mさんの家はworksの中に入っていますが、その他worksに入っている住宅で奥さんが打ち合わせに活躍されて良くいった例が多くあります(予算についてはご主人がリードされる場合が多いのですが)。家に居ることが多く、沢山の家事をこなしたり、老人の介護や子供の成長に伴い起こる家族構成の住み分けの解決など、ご夫人の方がご主人よりも家の中の多くの問題に直面するからでしょう。。(→次へ


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