クライアントと設計者の微妙な関係(4)

 住宅設計でさえも「設計は闘いだ」と宣言しファイト満々でやる人がいるかと思うと"微妙な関係"は端的に言って「相性の問題だ」といってのける設計者が数多くいます。確かに世の中の多くの出来事は人間関係に負っていて、それが良いか悪いかで物事の成功度に多くの違いが生じます。彼らのいうその通りだとしても、それはどこからくるのでしょうか?相性が悪かったらどうするのでしょうか?その時設計者はビジネスとして、コラムの「プロとアマ」についてでのべた「プロ」として努力するのかも知れません。ある条件の中で合理的な「最適解」は望めば達成できるでしょうが、何かメカニックな匂いがしませんか?私生活における趣味趣向、仕事のことからお金、夫婦関係や家族の関係 ― そのようにプライバシーに関わるほぼ全てのことを話しながら進める家づくり。価値観や命のやりとりをしながら進める家づくり。良い家づくりとは、クライアントの家族の人たちが求める幸せが、空間の中に見つかるものでなければなりません。ある建築雑誌の編集者の取材にふと洩らされたある夫人の言葉「嫌いな人には話したくありません」とのことで、とても考えさせられる言葉ですが、そのような人間関係の状態では良い家が出来るとは思えません。

 出来得るならば、私たちはこのページの表題のようでありたいと望みます。そして家づくりの計画を通して、両者の間には揺ぎない安定した「信頼関係」が築きあがり、主従の関係にならず、陽気に、オープンに、自由にものがいえる雰囲気づくりに成功し、意見交換できる範囲を広げられるといいでしょう。家の話ばかりでなくていいではありませんか!

 クライアントの家族の人たちが新しい家に住まわれた後、しばらくは「元気かしら、どうしているかしら、家をつくっていた時のように、またお茶でも飲みながら陽気なおしゃべりがしたい」とお互いの頭にふっと浮かぶようであれば、それは良い"微妙な関係"といえるのではないでしょうか。気苦労が無いとはいえない人生の中で、家づくりをすることによって得た「信頼」を伴った人間関係で、私たちは貴重な財産を増やすことができるかも知れません。それは私たちの心のあり方次第のようです。

 さて冒頭でこの文を書くきっかけになった、保育園の男の子のように"微妙"の言葉を上手に使いこなせたでしょうか。


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