クライアントと設計者の微妙な関係(2)

 1950年米国、イリノイ州に完成した外側4周ガラスでできている"ファンズワース邸"は20世紀モダンハウスの傑作といわれました。建築写真家のFさんは、何度足を運んでも興味が尽きない建物は数少ないが、この建物はそのうちの一つだと語っています。ところがこの建物こそ、クライアントと設計者の間で物議をかもし有名にもなったのです。クライアントであるファンズワース婦人は「住みにくい、依頼したものとは大きく違う」と訴え裁判ざたを起こしたのです。設計者のミース・ファン・デル・ローエはそうしたことが起こり得ることは覚悟の上で、自己のデザインの意志を貫徹したと考えられます。今でいう確信犯のようです。不幸なことにミースの名作だけが遺され、ファンズワースさんはその建物を放棄した後、2度と住むことはなかったとのこと。


ミースのデザインによる美しいファンズワース邸
("微妙"な関係を超えてしまった例)
(20世紀のモダン・ハウス:理想の実現U (株)エー・アンド・ユー 2000年10月)

 日本の高名な建築家で優れた建築を数多く遺された村野藤吾は「お施主さんの力が90%、わたしの貢献度は5%か10%程度です」と言っておられていたとのことでした。大家にして、クライアントに対する敬意はいつも並々ならぬ姿勢だったと思われます。

 設計者は一般に、村野藤吾のような実力も人間性も持ち合わせてはいません。私にしても然りです。現代ではクライアントと設計者の関係を最適、最高に持っていくためには、コミュニケーションを双方向的に行い、片方が納得しないことを一方側で強制押し付けする形にしないことだと思います。。(→次へ


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