中部産業遺産研究会
The Chubu Society for Industrial Heritage


■廃線問題への取り組み

橋本:例えば近鉄北勢線のような廃線問題を抱えた路線に対するお考えをお聞かせ下さい。

白井:今までずっとかなりたくさんの鉄道の廃線防止をお手伝いしてきたんですが、まあ全部が全部とは言えないんですけれども、今の国の政策で赤字のローカル線は全部やめるというのはやはり間違いなく良くないだろうという見解であります。ですから、何とか残るようにお手伝いをしていくということをやってまして、今日も京福の関係でちょっと活動したところなんですけど、もちろん市場主義でもって安いものが勝つということは大切だし、正しいけども、何が何でも全部をそういう市場主義でやるということは本当の大人の世界ではないと言うことでありまして、これは明らかに国の施策も全部じゃないけども、勉強が足りないなあと感じています。で、今まあ、京福も北勢も問題が進行の最中であって、上手く残るのか残らないのかどちらも五分五分といったところなんですけども、その中で一番言っているのは、原点を良く見つめてもらって、ただいま赤字だからやめますと、それは小学生の答えではないかと。そうすると別に交通部長さんもいらない訳であって、もう少し人間としての叡智を出してそれに基づいて、やめならやめと、反対するなと。で、その見る時点をやはり質的な視野からここんとこの5年、10年比較的短期的な赤字黒字と言うことだけで判断するのは明らかに思慮が足りないと。少なくとも半世紀とかのですね、そういったスタンスでもってあらゆる角度から眺めた上で無くなった方が良いのか残した方が良いのか、判定をすべきだと、こういう風に考えています。それからいくと、余程のところはやっぱり残した方が賢いと。例えば50年過ぎてから、やめてやっぱり残念、しまったなあということになるんじゃないかと、そういう視点からなんとか残らないかということで支援を続けておるんですけれど、なかなか難しいですね。

橋本:どこの家でも一家に2台車がある、また列車の本数が少ないから車に乗る、それによりさらに列車の本数が減るということがありますね。

白井:結局車の問題が欧米各国はモータリゼーションが車社会であれがモータリゼーションの進行は終了して卒業しているんですね。日本はまだそれが進行形なんですよ。それはやっぱり50年くらいずれている訳ですよ。今の時点で判断しては、それは間違っちゃうんですね。今の時点で判断してはそれは間違っちゃうんですね。欧米の場合はモータリゼーションの進行は終了しちゃって成熟した社会になっているから、明らかに今のライトレールを作るところの方向は、車を減らして行こうと。日本では全然そういうコンセンサスは無いですね。まだ車が増えていると言うことですから、そこに保存鉄道の問題と同じく、難しさがあると。後になればしまったなあとなるんだけど。今ではまだ分からないと言うことですね。

橋本:今のままの車両や運行の形態というものをもう少し見直して、北勢線でもライトレールの車両を入れるとか、編成を短くするとかの手はあるのかと思いますが。福井の実験がなかなか好評だったようですね。

白井:まあ、福井も本当に好評では無いんだよね。もう電車はやめてもらいたいという声が実際は過半なんですよね。そのへんを見落とすと。多分あれはいいとか言っているのはよそ者か何かの話だとかね。その辺は良く足元を見つめて、議論して行く必要がありますね。今のローカル線廃止の問題は非常に大きな問題ですから後で時間があればもう少し補足して申し上げたいんですけども。

橋本:改めてC11190の復元と保存に関して、何が難しいかと言うことをお話頂けますか。

白井:先ほど言ったように、ボイラーは全部作り替えればお金はかかりますけども、ノウハウ的にはかえって多分間違いなく修復できると思いますが、あと部品がものすごく沢山ありまして、それが1つでも無いと動かないと。これがどこかから持って来られる、あるいは新造できれば良いけども、どちらもできないというと、今言った1つでも無いと、復元は出来ないと。それだけ調達するのに相当部品の方は多分お金よりも手間ですね。時間がかかるであろうと、こういう風に見ておる訳ですね。もちろん費用的にも募金が5000万円の内のまだ500万円ですから、たった1割ですから、この後、まだ急速に進むのか最悪だったらこれでストップしちゃうのか、その都合によってはできない可能性も十分にある訳です。あと、物理的には部品の調達が、これはここにいろいろ問題だと。技術的、ノウハウ的には十分今までやってきたので、マンパワー、ノウハウ的には問題ないと思いますが、一つはお金、一つは部品の手配ですね。古いのを持ってこれば良いじゃないかと言えば、古いのでも無いものもあるし、作れば良いじゃないかと言っても作れないものもあるし、どうなるかは相当時間がかかるんじゃないかという風に見ています。

橋本:やはりある部分では妥協しなければならない部分があると思うのですが、できるだけ妥協せずに行きたいというところですか?

白井:まあ、この妥協と言っても部分的で、やる以上はよほどの8割か9割方は元の姿に戻さなきゃと思いますね。中には1割か2割は偽物になるかも知れません。

橋本:大井川鐵道で今後何を保存される予定ですか?

白井:それよりも、大井川鐵道を廃止しないようにするにはどうしたら良いかというのは当面の一番重大な課題だと思いますね。廃止しても何か保存しても良いのかもしれませんが、できれば大井川鐵道を残るようにしたいと思うんですが、まあこれもかなり至難の業だと。いうふうに今後5年、10年、いまは良いけど。と思いますね。ですから、何を保存という次元ではなくて、大井川鐵道を保存することができるかできないかということが難しい問題で、かつこれはちょっとまだ全然答えが出ていないと、これからという問題ですね。だから各鉄道の存続問題を私が手伝っているのも、それの予習みたいなもんですね。京福が無くなり、北勢線も無くなれば大井川鐵道も当然無くなると。そっちが残れば何かそこにノウハウなり哲学なり出てくるんじゃないかと。普通で言うと北勢や京福よりも大井川鐵道が残っておること自体が全く間違いと言うか奇跡ですね。残るはずが無い沿線人口とかね。このあとも普通でやっとれば保存とかしゃらくさい考えではなくて、どうやって継続するか、あるいはもっと言えば、いつまで持つかという辺が一番鍵になってくるわけですね。

橋本:そのお話と関連するかも知れませんが、奥大井テーマパークのお話はその後どうなりましたか?

白井:それは全然だめでね、県が中心だったんですが、まあ、世の中の不況の進行によって、県は全くやる気はないと。やる気はあるかも知れないが財源が無いと。やることはやってますが、まあ、実質的には何も進行しないと。試合放棄といったような感じです。何も期待できません。

橋本:そうすると大井川鐵道さんとしては今後は接阻峡温泉を活性化させるという程度の話になるのでしょうか?

白井:それはそんな単純な問題じゃなくて、もっともっと多くの課題に分かれて、地域も各地域に分かれて地道にどうしてゆくかという対策を積み上げなきゃしょうがないですね。接阻峡温泉もそのうちの一つではありますが、結局ダムっていうのは地域を滅ぼすんですね。ダムができたために80戸あった家が今30戸、それもどんどん減りつつあると。地域集合体としての力を失うんですね。存立が難しいんです。あの部落そのものが。大井川鐵道と同様に。ですから、そこへ期待していろいろやるのが全く無理だというような状態で、例えば旅館は今20人くらい泊まれるところが4軒あるかな。まあ、それはそれで秘境の秘湯でいいんだけど、それでもって鉄道を支えるとか、あるいは特別の企画をするとか言っても、全然やりようがないんですね。ですから何もやってません。まあ、せめてまだ寸又峡は20軒あるんですね。

橋本:ということは目先、すぐに手を打つことは難しい訳ですね。

白井:そうね、有効な対策はあるんだけどね、まあ、お金が無いのとそれから地域が日本と同じような何でも変化に抵抗するというような傾向があってね、実現できないですね。まあ、一番必要なのは千頭に温泉が出ているもんですから、それで千頭駅の近所に温泉を作って温泉列車をどんどん走らせれば、交通の便は良いし、知名度はあるもんだから、これはひょっとすると鉄道を救うことが出来るかも知れないんですね。ですけどそれじゃあそれを誰がやるかというと、2〜3億円あればできるから、白井さん、金をかけてやりなさいと。いうことになると、なかなかすぐにお金を回収できる訳じゃないから、投資する人も無いと。無きゃ、まあできないと、まあそのうち鉄道と共につぶれちゃうという可能性が大きいですね。

橋本:目先2〜3億の金がなんとかなればということですね。

■井川線の土本駅の裏話と井川線の抱えている問題

(注:駅前に土本さんという家が4軒あるから土本駅です。日本一乗降客数が少ない駅です。)
白井:これもおそらく乗降ゼロ、見とって下さい。絶対に無い。盆とか正月でね、ここの家の息子が東京から帰ってくる、もちろん車で。帰ってくると懐かしいからいっぺんこれ(井川線)に乗りたいと。で、乗っていっぺん井川まで行って来ると。いうと乗降2人だね。乗って降りるもん。記録更新。
一番問題はこの線が危ないってことだね。やめるとなったらまあ、抵抗する理由が、いかに私がいろいろやると言っても、ちょっと原資が無い。縦から見ても横から見ても残す理由は無い。

白井:この鉄道も危ないんだよね。ちょっと風向きが変われば廃止だよね。毎年毎年赤字だもんね。

橋本:中部電力さんは毎年どの程度お金を出されているんですか?

白井:特に土木施設を含め、相当の負担をして地域に貢献しています。しかし目先、発電コスト低減のためにはやめよということになる。ただ、ここは地元とか県がなかなか強硬なのです。前も井川線をやめると言ったら、「結構です。その代わりこの辺のダムは全部壊して元の大井川に戻してください。それならやめてもいいです」と。水力発電は変動負荷に対応できますが原子力だとそうは行かないなど、さらに広い目で考える必要があるのではないでしょうか。

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