二次創作小説

都合により文章内容を変更・改正する場合がございます。
3      壊れてしまった話 ― existence ―
草原があった。
 
優しい太陽の光が黄緑色の草達を照らしていた。
草原の所々には綺麗な花が見える。
 
見渡す限り草や花以外のものが何もない草原の中に一本の道があった。
 
土を固めただけの道で、車一台がやっと通れる程の狭い道だった。
 
平坦なその道に一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す。)が
止まっていた。
運転手はモトラドに寄り掛かりながら青く澄みきった空を見上げていた。
 
「キノ、次の国の情報は?」
モトラドが聞いた。
「それが―――何もないんだ、エルメス」
キノと呼ばれた運転手がエルメスと呼ぶモトラドの質問に答えた。
「はい?そんな危険かも知れない国に行くの?」
「人という生き物は噂や情報がないと余計知りたく、そして調べたくなる生き物
なんだよ、エルメス」
「そんなもんかねぇ」
「まぁ、それも人によりけりだけどね。さぁ、そろそろ出発しよう。もうすぐだと思う
から」
「りょーかい」
キノはモトラドに跨り、方向転換して走り出した。
エルメスが走り出したとき、春風で小さくて綺麗な蒼い花が散っていった。
そしてそれを誰も見ていなかった。
 
「キノ、もしかしてあの国?」
「そうだね、きっと」
「そんなに大きい国ではなさそうだね」
「国というより村か町に近いかな」
キノとエルメスが見つめる先には城門があった。大きさは城門の端が見えるくらいだった。
 
目的の国に着いたキノとエルメスは、入国手続きを済ませ、案内されたホテルへと向かった。
「なかなかいい国じゃん」
「そうだね。情報がまったくなかったからどんな国かと思ったけど、特に変わったところのない、普通の国だね」
「ところでキノ、この国のことをどうやって知ったの?情報はなかったんでしょ?」
「あぁ、情報はなかったよ。ただ、地図にだけは載っていたから」
「地図に載ってるって事は誰かが来たことあるんだろうね」
「いや、ホヴァーに乗って近くに来たところこの国が見えたそうだ。だから国の中には入ったことはないらしい」
「まぁ、旅人が困らない国でよかったね、キノ」
「あぁ、食糧難だったりしたら、大変だ」
そのあとキノは、食事をとり、シャワーに入ってからすぐに、ぐっすりと眠った。
 
次の日。
着替え終わったキノが部屋で凄いことになっていた髪を梳かしていた。
「あっ、キノ。その鏡はちょっと前に寄った国でもらった鏡?」
いつのまにか起きていたエルメスが言った。
窓の方を向き、手鏡を持ちながら髪を梳かしていたキノが答えた。
「そうだよ、エルメス」
「キノのポカミスで、こういう“握手ベッド”が発生したときには
役立つよね、その鏡」
「アクシデント?」
「そうそれ」
そう言ってエルメスは少し黙った。
「そうだね、確かに便利だ」
キノがそう言い終えたとき、部屋のドアがノックされた。
「おはようございます、キノ様。昨夜はゆっくりとお眠り頂けましたでしょうか?」
「えぇ、とっても」
「それはありがとうございます。只今、お食事をお持ちいたしました。
どうなさいますか?」
「部屋の中に入れてください」
「かしこまりました。では、失礼いたします」
そう言って、ホテルの従業員が入ってきた。
その従業員の姿が、キノの手鏡に――――――――映らなかった。
従業員が入ってきた音が聞こえた。キノは驚いて振り向いた。
確かに従業員はそこにいた。
「どうかなさいましたか?」
「い、いえ。何も」
「そうですか。それではごゆっくり」
そう言って従業員が礼をして部屋を出ていった。
「エルメス、どう思う?」
「何が?」
「今の従業員、この手鏡に映らなかった」
「ということはその従業員は本当は存在しないって事じゃない?」
エルメスは平然と、そしてあっさりとそう言った。
 
そのあと、気になったキノは街に出てみた。農業をしている平凡な
風景や、住宅街などの整った区域など、ごく普通の国だった。
そして、街で見かけた人たちをこっそりと鏡に映そうとしたが、
誰一人映らなかった。
「……………」
「キノ、とにかくこの国の歴史が分かるところに言ったら?」
「そうしよう」
 
キノ達は誰かに歴史が分かるところを聞くと、IT研究所に行くように言われた。
 
「旅人さんですね。この国の歴史を調べ来られたそうで。私が案内役を務めさせていただきます」
「さっそくですが、この国の歴史について教えていただけますか?」
「はい、もちろんです。そこにお座りください」
そこはとても豪華な建物の中で、いろいろな部屋があった。
キノ達はそのうちの一つ、入ってすぐ、目の前の壁がスクリーンに
なっている部屋に案内され、その部屋のイスに座った。
エルメスは横にスタンドで立てた。
その研究員の説明によると、
 
この国はいつからあったのかわからない。
当然始まって、今まで平和に暮らしてきた。
そして、この国では機械技術がとても発達している。しかし、仕事がなくては困るので、ほとんど人間がやっている。
 
ということだった。
 
「お分かり頂けましたでしょうか?」
「えぇ、まぁ。ところで、機械技術というのは今は何に利用されているんですか?」
キノがで聞くと、今まで普通に話していた研究員がいきなり笑顔になった。
「よくぞ聞いてくれました!それが、つい先日、とても画期的なものが開発されたんです。それがこの
プログラムです」
そう言って、研究員は持っていた画面の付いた機械を見せた。
「一体それでどんなことができるのさぁ?」
「実はこれは――――――シュミレーション用のプログラムなんです」
「シュミレーション、ですか」
「そうです。このプログラムに調べたいことと今までのデータを入力すれば、すぐにそのシュミレーションがこのスクリーンに映し出されるんです」
研修員がそう言った瞬間、奥の壁一面にかかっていたスクリーンが明るくなった。
「今からお見せするのはこの国の未来の姿です」
そう言った研究員は機械のボタンを押した。
 
スクリーンに映し出されたこの国の様子は、平和で、人々が幸せに暮らしている様子だった。
 
「どうです。この国はいつまでも平和なんですよ、キノさん。キノさんもこの国で、平和に暮らしてみませんか?」
「いえ、結構です。ボクは旅を続けたいと思いますので」
「そうですか。でも、住みたくなったら、いつでも言ってくださいね。歓迎いたします」
「お気持ちだけ、頂いておきます」
 
そのあと、キノ達は研究所の中を見学した。
 
そして、ある部屋を見学しているときにキノが研究員に聞いた。
「あの、あれは何ですか?」
キノが指さしていたのは機械だった。
周りに新しい機械がある中、とてもボロボロな機械がポツンとあった。
「あぁ、それは何かの機械ですよ」
見れば分かることを言った。
「うわぁ、錆だらけだね。それで、何の機械なの?」
「それがよく分からないんですよ」
「はい?この研究所にあるのに分からないの?」
「それはこの国が誕生したときからいつのまにかありまして、
町はずれに住む老人が撤去してはいけないと強く言ってくるんです。だから、一応保管しているんですよ」
「へぇ、一応ねぇ。で、その老人は何の機械って言っていたの?」
「それが、何も教えてくれないんです。撤去するなとだけ言ってくるん
です」
「そうなんですか」
 
そうして研究所の見学は終わり、その日は終わった。
 
次の日。つまりキノが入国してから三日目の朝。
 
いつものように夜明けと同時に起きたキノはパースエイダーの整備と訓練をして、朝食を取ってからエルメスを起こした。
「ほら、行くよエルメス」
「了解ってどこに?」
「老人の家さ」
 
ホテルをチェックアウトしたキノは、道を歩いていた誰かに老人の家がある場所を教えてもらった。
 
「ここだね、キノ」
「あぁ、そうだね」
「ところでどうして来たのさ?」
「あの機械が何なのか知りたいだけだよ、エルメス」
「“知りたいだけ”なんでしょ。だけなら別に知らなくてもいいじゃん」
「あのボロボロな機械をどうしてそこまで守るのか、ちょっと興味があるからだよ、エルメス。それに時間はまだあるさ」
「はぁ〜。面白い話だといいんだけどね」
 
「すいません」
そう言いながらキノは、ドアの近くにあるボタンを押した。
「なんじゃ、誰じゃ」
「ボクは旅人のキノと申します。こちらは相棒のエルメス」
「どうもね〜」
「して、旅人さんが何のようじゃ?」
「実は―――――――――」
普通に出迎えた老人に、キノは普通にあの機械のことが知りたくて来たことを説明した。
「あぁ、そうじゃったんか。よかろう。はいりなさい」
「失礼します」
老人の家に入ったキノはエルメスをスタンドで立て、自分は進められたイスに座った。
「さて、あの機械のことを話すならまず、この国の歴史について話さねばならぬな。
しかし、旅人さん。その前に質問しておきたいことは他にないかい」
「あります。実はホテルで髪をとかしていたときに鏡を使っていたんですが、その鏡にはこの国の人が映らなかったんです」
「ほぉ、その鏡は旅人さんが持ってきたもんなんじゃな?」
「はい、そうです」
「なら、当たり前じゃ。なぜならこの国の人間は皆――――――――――存在せんからじゃ」
「存在しない、ですか」
「そうじゃ。それではこの国の歴史を説明しよう」
 
「今から50年程前、ある遠くの国で当時の王が画期的な機械を開発させたんじゃ。その機械は、
電線などが一切不要でしかも、空気中に映像を立体的に写すことができる“ゲーム機”じゃった」
「ゲーム機、ですか」
「そうじゃ。当時の王はそれを使って遊ぼうとしてな。しかし、王が考えていることはとんでもない遊び方で、広い場所を必要とした。そして、その“ゲーム”の舞台としてこの場所が選ばれた」
そう言って老人は腕を伸ばし、大きく手を広げた。
「当時の王はこの場所に特別な磁石の粉が入ったものを設置し、ゲームをスタートさせたんじゃ」
「その“ゲーム”に出てくる登場人物がこの国の人たちなんだね?」
「あぁ、その通りじゃ。王が創らせたのは実物大の立体ゲームで、この国の人たちを操って遊んでいた。しかしある時、王は『もう飽きた。つまらない。』と言い出したんじゃ。そして開発者達に、『ゲームに登場
する奴らに人工頭脳でも入れて、放っておけ。どうせそのうち壊れるんだから。それまで奴らをたっぷり観察して楽しんでやるから』とな」
「つまり、この国の人たちは空間に映し出された映像で、あの研究所にあった機械によって動いている、ということですか?」
「あぁ、そうじゃよ、旅人さん。この国の人が誰一人鏡に映らなかったのは、誰一人存在せんからじゃ」
「と言うことは皆さんにボクは触れることはできないんですか?」
「そうじゃよ。この国にあるものにはさっきも説明したとおり、特別な磁石の粉が入っていてなぁ、普通の人もわしらも触れるようになっているんじゃ。しかし、わしらは映像じゃから、決して触れることはできん」
キノが老人の手に触れようとしたが、通り抜けてしまった。
「そして旅人さん。見れば分かるようにあの機械は古い。だから、…もう少しで、いや、あと何分かで壊れてしまう。この国の人は全員消えてなくなってしまう。そこでお願いじゃ。その王が住む国は遙か西に
あると言う。どうかあの機械を、この国を創った国に行き、王を殺してほしい。頼む!あの元気に遊ぶ子供達のために、敵をとってくれ!」
窓の外からは、元気に遊ぶ子供達の声が聞こえてきた。
「キノ、どうする?」
「今のボクには決められません。考えておきます」
「そうか、そうじゃな。よい結果を願うよ」
「そころでさぁ、どうしてじいちゃんだけはそんな詳しいことを知ってるのさ?他の人たちは知らないのに」
「それは、わしがあの機械じゃからじゃよ。あの機械の意志であり、そのものなんじゃ。だから、この国のことも、もうすぐ壊れてしまうことも全て分かる。さぁ、そろそろお別れじゃ。旅の安全とわしらの敵を
討ってくれることを祈っているよ。―――さよなら」
そう言い終えた老人の体がやわらかな光に包まれ、静かに消えていった。
同時に窓の外の子供達も遊びながら消えていくのが見えた。
静かになったその場所で、キノは少し俯いていた。
その後キノは、静かに『カノン』を抜き、そして撃った。
弾丸は老人の家の天井の隅にあるカメラに当たり、カメラを粉々に破壊した。
「キノ、行こう」
「そうだね、エルメス」
前を向いたキノはエルメスの方は向かずにそう言った。
老人の家を出たキノはエルメスに跨り、そして、走り出した。
「静かだねぇ」
「あぁ、とても静かだ」
「あのカメラには、磁石の粉は入ってなかったんだろうね。入っていなかったから、老人達はカメラを壊せなかったんだ」
「…………エルメス。ボクにはあのカメラの向こうから不気味な笑い声が聞こえた気がするんだ」
「ホントにそうかもね」
 
誰もいない静かな国の中にエルメスのエンジン音だけが響き渡っていた。
更新日時:
2005/04/29
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Last updated: 2006/9/13

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