二次創作小説

都合により文章内容を変更・改正する場合がございます。
2      風の強い国 ― windmill on around ―
丘があった。
その丘は辺り一面、草原だった。
 
雲のおかげで眩しすぎない太陽の光が草原全体を照らしていた。
春風が背の低い草達を優しく揺らしていた。
 
草原の丘の中に一本の道があった。
その道は車一台が普通に走れる程度の広さだった。
 
その道を一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す。)が走って
いた。
「キノ、行くの?」
キノと呼ばれた運転手はあきれたように答えた。
「今さら何を言ってるんだい、エルメス。せっかくここまで来たんだから、行かない
なんてもったいないよ」
エルメスと呼ばれたモトラドもあきれたようにまた聞いた。
「でもさぁ、わざわざ『風が強くて危険だよ』なんて忠告された場所に行かなくても
いいんじゃない?」
「エルメス、キミはあの旅人の話を全部聞いていたかい?
あの人は『花が綺麗だよ』とも言っていたじゃないか。ボクはその花を見に来たん
だよ」
「花だけのためにここまで来たの?でも、この草原には花一つ生えてないじゃない。その話、嘘だったりして」
「いや、きっと次の国のすぐ近くにある山に生えてるんだよ。きっと」
「そうかなぁ?それにキノはその花が目的じゃなくて」
「じゃなくて?」
「あの人が言っていた、『弾薬が安いよ』のためにここまで来たんじゃない?」
「それは――――、それだよ。別の話」
「どうなんだか」
 
しばらく行くと、春風が突風に変わり始めた。
 
「キノ、見えてきたよ」
エルメスの言葉にキノは息苦しそうに応えた。
「あぁ、あの国に間違いないね」
「キノ、大丈夫?」
「あぁ、なんとか」
 
キノとエルメスが見つめる先には国があった。
その国は丘の上にあり、すぐ後ろには山が見えた。城門の中にはとてつもなく大きな風車が見えた。
 
キノ達が城門に着くと、入国管理所の窓口から若い審査官が大声で言った。
「こちらですよ」
 
管理所でとても簡単な審査を受け終えたキノえおエルメスを審査官が城門の前
まで案内した。
「今開きます」
審査官が言ってすぐに城門が開き始めた。
そして、開き終えた“城門の中”を見て、キノとエルメスは絶句した。
 
その城壁の中は空洞になっていた。天井はとても高く、建物五階分ほどあった。
キノがスコープで見ると、内側の壁は一キロほど先に見え、その内側の壁はガラス張りだった。
 
キノは審査官に聞いた。
「あの、どうして城壁の中に空洞があるんですか?そして、何故こんなに広いんですか?」
「それはですねぇ、この土地の環境に関係があるんです」
そう言って審査官はこの国の歴史について話し始めた。
 
この国の先祖達は南の国で平凡に暮らしていた。
しかし、退屈な日々に飽きた若者達は、新天地を求めて旅に出た。
 
いろいろな場所を訪れたが、いいところは見つからずこの地にたどり着いた。
風が強く危険な地だったが、土地の質はよく、作物を育てるのに適していることが分かった。
さらに、湧き水が出る場所もあったため、若者達はこの地に住むことを決めた。
 
まず、強い風の中でも農作業などをして暮らしていけるように
とても厚い城壁をつくった。
 
その次に、城壁の中の空洞で暮らしていても明るいように内側の壁をガラス張りにした。
 
そして、この強い風を利用するために、風力発電のための
風車をつくった。
 
こうしてこの国ができた。
 
「へぇ、あの風車は風力発電のためのものだったの」
「はい、そうです。いくら内側の壁がガラス張りにしたとは言え、外側の方はやはり暗いですし、それにいつでも空が晴れている
わけがありません。だから先祖達は風車を創ったんです。
電力は暖房・調理などのことにも使えますしね。生きていくための
知恵ってもんですよ」
「なるほど」
「それでは国内を案内します。着いてきてください」
そう言って、審査官兼案内人は“城壁の中”を歩き始めた。
 
「まず、こちらが住居スペースです」
そこはホテルのように真ん中に通路があり、左右に各部屋のドアが
並んでいる。
そして、住居スペースが空洞の半分を占めていて、五階分あるとのこと。
 
「次は商店街です」
商店街は各お店が通路の左右に並んでいた。部屋の中の棚などに商品を並べて販売するところもあれば、屋台のように通路で直接販売しているお店もあった。個人経営の事務所なども商店街に
あるそうだ。
商店街は空洞の四分の一、四階分あるとのこと。
そこでキノは、商品の値段ばかり見ていた。
 
「商店街の上、ここ五階と残りの四分の一の空洞の上三階分は
政府地区になります」
ここには政府本部の他にも、お金を管理する部署や、教育に関する部署などが分かれて入っているとのこと。
 
「次は政府地区の下二階分にあたります、各種学校があります」
小中学校、高等校、大学など、全ての学校が入っているとのこと。
「これで、城壁の中の空洞内の案内を終わります。次は、我が国の
領土です。」
 
審査官兼案内人に着いていき、一階のガラスのドアから外に出た。
城壁の中なので、風は城壁の外よりは強くはなかった。
「我々はこの場所で農業を行っています」
そこにはいろいろなものが栽培されていた。
牛やニワトリなどを飼育している小屋もあった。
 
「次は風車内です。発電の他にも展望台として利用されています」
キノ達はエレベーターで展望台まで上った。
展望台からは下の発電システムのためのスペースが邪魔で
この国自体はまったく見ることができなかった。
見えるのは、花が全く生えていない草原と、高くそびえ立つ山々だけだった。
「ちなみに風車の回る部分の羽根にはソーラーパネルがついていて、太陽光発電も行っております」
「なるほど」
「あと、この部分の地下には食料貯蔵庫や発電管理局があります」
 
「これでご案内は全て終わりです。ホテルは住居スペースの五階にあります。無料ですので、どうぞご利用ください」
「分かりました。一つ、聞いてよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
「ここらへんにとても綺麗な花が咲いている場所があると聞いたんですが、何処にあるんですか?」
「綺麗な花、ですか?私の知る限りではこの国や国の周辺に花が咲いている場所はありませんが」
「そうですか」
 
そのあとキノは、無料のホテルに泊まった。
次の日は安い弾薬・ナイフ・携帯食料など買い、安くて豪華な食事を味わって食べたあと、熱いシャワーを浴びてぐっすりと寝た。
 
次の日。つまりキノが入国してから三日目。
エルメスが起きると、キノは出発の準備を終えて、部屋で朝食を
食べていた。
「おはよう、キノ。もう出発?」
「あぁ、やっておくべき事は昨日済ませたしね。この国に長くいても
しょうがないよ」
「了解」
 
そのあとキノ達は出国し、国のすぐ西にある山を登り、その日は尾根のあたりで野宿をすることにした。
 
尾根に止まってすぐ、エルメスが大声で言った。
「キノ!、花が見えるよ!あの国の城壁の上!きっとあの旅人が言っていたのはあの花のことだよ。」
さっきまでいた国の城壁の上に青い花が一面に咲き乱れていた。
ここからだと、風車を取り囲むようにして咲いているように見える。
「ホントだ。たぶん城壁が厚いからそのうえに鳥が巣を作ったんだ。そして、その鳥が種を運できたんだね。そのあと、花が繁殖しすぎたせいで鳥達は別の場所に移ってったんだろう」
「展望台からは国自体はまったく見えなかったから気づかなかったね、キノ」
「あぁ、そうだね。天井はガラス張りじゃなかったしね」
「ねぇ、キノ。綺麗?」
「あぁ、とても綺麗だ。来てよかったよ」
 
そして、キノ達はその綺麗な花を見ながら食事をとり、綺麗な花を
見ながらその場所で眠った。
更新日時:
2005/04/14
前のページ 目次 次のページ

[HOME]


Last updated: 2006/9/13

誤字・脱字などがありましたら、下記までお知らせください。
また、掲載している作品はメディアワークス様・時雨沢恵一様等とは一切関係ありません。