四文字熟語行政書士物語 VOL.06

一攫千金

 「俺は今、2回目のビック来た処だけど、どうよ!調子は?」顧客宅へ訪問に際し,顧客の都合で1時間半程の時間のづれが生じ、石部金吉大器晩成はパチンコ屋(パ−ラ−一攫千金)に入り、6台程間を置き二人は同じ台(アントニオ猪木自身がパチスロ機)を打っていた。

「あっ、大先生、絶好調です!

120回転の台に座り138回転でビック、21回転目かもめの1,2,3が飛び27回転でビック、ビック中花吹雪が降り、ガフガフ、ガフガフ、ガフガフ(確定だ〜)で、このビック終了後すぐに闘魂チャンス発動です、どこまで来ますかね〜」

満面の笑みで話す
大器晩成を羨ましい顔で聞き、自分の席に戻った金吉の携帯に連絡が入った、急いで電話に出るため移動するも切れてしまった(日ごろ補助者には、自分の携帯電話は通話中でも呼び出すので7〜8回の呼び出しで切るよう指導していた)。

改めて事務所に電話すると「今向かっているお客様ですが、所用ができ更に1時間後にアポイントメントを変更してほしい旨の連絡が入りました」

「ウ−ン、そうか解った。(ニヤ、そうすると合計あと2時間の余裕か、ムフフ)」

その旨、
晩成に伝えて自分の席に戻った金吉は「ヨオシ、頑張るか」と!?花吹雪が・・・ガフガフ、ガフガフ、スカツ、あっちゃ〜惜しいな〜。ビック後176回転でレギラ−ボ−ナス、残り3回の1回目ゲット(オーー、いけてる〜)2回目スカ(カ−、ショック)3回目「注入だ〜」の声が発生し心臓から指先に電流が走った。慎重に、慎重に、1、2、3.。

ベット、「闘魂チャンス!」ここからの演出が凄かった、リポビタン123、かもめ123、ピンクイルカ、猪木新聞、5サメの3番目でダ−、波押し下げダ−、一息ついて
晩成の所へ行くと、晩成の方もその後、猪木ポスター、地蔵、女子アナインタビュー、茶色カメ、青携帯(BON-BYAA)、かもめV、かもめ卍、猪木欠伸、猪木消える、猪木眠る、猪木実写カットイン、ジャイアント馬場、ペラペラ猪木、と2人揃って大勝利。

意気揚々と客宅に入った。

前途洋洋、82才(紹介者には肺がんと聞いていた)、奥さんは、前途多難、入院中。子供は居なく、近くの親類に世話になるのも嫌だ、成年後見について何度か話を聞いたがピントこないのでゆっくり教えてほしいとの事。

仕組み、制度についてビビットに話す
金吉の横で晩成は、吸いたい煙草を控え金吉の仕草一言一言を注意深く見ていた(大先生も煙草吸いたくてウズウズしてるな、でも目の前の前途洋洋さんは吸わないだろうし・・・・)

此の時、
石部金吉大器晩成はよもや3ヶ月後に前途洋洋が安心して亡くなり、4ヶ月後に前途洋洋に呼ばれた、前途多難が永久の旅に出発し、さらに戸籍上に娘(前途有望)が残っており、真正の相続人が居ることを知るすべが無かった。

事務所への帰り道、車中で「委任成年後見人契約」「遺言書」の同時手続きの段取りで公証役場、事務所に連絡・報告をする合間、

「しかし先ほどの台は良く出たな〜」

「はぁい、猪木はずいぶん長く打ち込んでますけど今日初めて−砂浜演出でイルカとミニ猪木群-見ましたよ〜」

「そうか!俺も初めてアントニオ猪木を撮影するカメラクルー見たゾ」

アントニオ猪木自身がパチスロ機、談義に花満開であったが、事務所に戻ったとたん現在受任している案件でキビ機微と動くスタッフを尻目に、
金吉は所長室に籠った。

衆議一決金吉は内線でディレクターの曖昧模糊、マネージャーの白川夜船、案件担当の大器晩成を呼び、今回受任の案件(成年後見契約・遺言書)の打ち合わせをすることになった.

「依頼者は83歳、年金生活、奥さんは入院中、週3回ホームヘルパー訪問、
別にケアマネージャーが都度・・・」
顧客見込みカードを片手に説明する
晩成に、金吉が補足説明、曖昧模糊白川夜船は都度、

「それについての公証人は
頑固一徹先生にお願いしました。」
模糊につづき夜船は、

「全道では25人の公証人を予定してますが、現在2〜3人の欠員があると聞いてます、札幌には3箇所の公証役場と10人の公証人が居ます。」(オー、よく調べてるナ〜)

「前の案件では身内の娘さんに猛反対されましたが、今回はどうでしょう?」

「今回は大丈夫だ、身内といっても甥、姪が何人か居る程度で軽い」自信有り気な
金吉だが・・・。
小1時間も、いろいろな角度で検討し終盤に差し掛かったとき

「紹介者によると依頼者は肺癌とのことですが、本人は知ってるのですか?」
「はぁい、あの感じは知りませんね絶対、その辺の話は避けていましたけど、
おかげで自分たちも面談中は1本も吸ってませんし。」

「そうだよ、俺も一寸辛かったな〜、見渡しても灰皿無かったし、間違いない!」

「そう言う、先入観が一番の敵だ、と大先生いつも言ってますが?」

模糊の鋭い突っ込みに一瞬たじろぐ金吉晩成だった(ショボ)。

器用貧乏法令オフィスの案件ミーティングは、ざっとこんな感じで色々な意見を出し合い依頼者のニーズに沿うよう業務を遂行している、三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったもので、こう言う場面では金吉の脳裏に(開業仕立ての頃は1人でモンモンとしていた!)が交差していた。

石部金吉は物事を深く考えるタイプでは無いようだ、直感とそのスピーディーな行動力に任せるふしがある、顧客と面談するも初回に感じたことをずるずる引きずり業務をしている。「いずれにしても今回の案件は完全サポートの臨戦態勢でやってくれぃ!」(オー、決まった!)

成年後見人

 近年の傾向的事例だが子供や配偶者に知的障害などがあり自分がいなくなった後が心配なときは成年後見の申立てをして成年後見人に任せる。あるいは子が未成年の場合は親が子を代理して任意後見契約を結ぶ。最近心身の衰えが目立ってきたが、身寄りは高齢であり一人暮らしのため介護保険の利用の仕方もわからない。本人の意識がはっきりしていて判断能力が有るなら任意後見契約を利用して任意後見人に必要な代理権を貰う。すでに判断能力に問題があると考えられる場合は法定後見制度の申立てを行う。

ミーティング時の
金吉の話に頷いていた大器晩成だが

「でも、大先生、ある程度の費用はどうしようもないですね」
「そうだな、どうしても必要な経費はかかるし・・・、国の援助でもあるといいのだが、今のところ地方自治体なんかが限定された中で補助もあるそうだがまだまだだな〜、今回の
前途洋洋さんも貯金があるから依頼できるよね。」

「????」
「こんにちは!」
金吉は前月契約になった前途洋洋の自宅を訪ねていた、3回目の訪問だが器用貧乏法令オフィスの方針であるが、毎回訪問するときその都度何か新しいことを把握して帰ることを目的にしている。

 概ね2、3の親戚の名前、関係、隣近隣との付き合い度合い、過去の経歴、仕事内容、趣味、好きな食べ物その他、いろいろな質問をさり気なく会話に織り込む
金吉の横で大器晩成は、ノートにビッシリメモを取る(相変わらず、質問話法、切り替えし話法、ブーメラン話法など取り混ぜ話すのを聞きながら、行政書士になる前の大先生は大手不動産会社の専務取締役をしていたので、交渉ごとは切れ味がいいな〜僕も見習わないと)。一言一言が身体に染みていった。

 急展開の出来事に
石部金吉は自分のデスクで一人天井を見上げていた。
 いよいよ相続が開始か。本日の告別式が終わると忙しくなるな、昨日の通夜は凄いことになっていた。喪主である
石部金吉を20人の親類が取り囲み、気色ばんでいる

「どうしてもっと早くに連絡をくれないのか!」

「行政書士かなんか知らないけど、何であんたが喪主なの?」

洋洋さんが亡くなった今、奥さんの前途多難さんはどうなるわけ?」

「今の財産はどうなるのだ?」

「遺品一切、
石部さんが管理するの?」

 人間の浅ましい私利私欲がむき出しにされたとき、静かに
金吉は口を開いた。

 普段からの付き合いは?私は、遺言執行人、委任成年後見人としての立場でこの場にいること等、かなりトーンを落として説明し、

「誰か代表の方を決めてこれを読み上げていただけますか?」

鞄から公正証書遺言書を出した。

 親類代表の読み上げた内容に、納得のいかない者数人が
「この様な公正証書だって偽造できるのでは?」と捨て台詞で席を立った。

 数日後、難しい顔の
金吉が、デスクに広げられた書類を見ながらこの案件を精査していた。
何かのためにと郵便物、年賀状を預かったとき、
前途洋洋さん曰く

「今後のことは全部あんたに任せたのであるから、何か(自分の死期)あっても親類など一切呼ばないで欲しい、
前途多難をたのむ。」

気骨ある笑顔で話す声が頭の中心から囁いていた。

ただ、どうしても寂しい葬儀にはしたくなかった
金吉の反省であった。4日前か、寝入りはなに携帯電話が鳴った。

他力本願病院ですが・・・・」会合で飲んだ酒もほとんど醒めていたが、気持ちが高揚しているのと各方面に連絡をしなければならないとでタクシーにて病院に向かった。


 車中では数日前から連絡を取り合っていた葬儀社の社長に連絡をし
石部金吉が病院に着くのと程なく合流、移動のさなか、脳裏には、前途洋洋の「この人にすべて任しているから」「全部石部さんに頼んだから」「すっかり頼んだから俺は安心なんだ」と事ある毎に、付き添い看護士、ヘルパー、派遣付添婦、に言っていた言葉が頭の中を交差していた。

 いよいよ
前途洋洋さんの相続開始か、奥さんの前途多難さんは入院中で、ほとんど理解できないし・・・。戸籍を収集していた曖昧模糊(アシスタントディレクター)が所長室に飛び込んできた。

前途洋洋前途多難の娘、前途有望が残ってました!」
「ん?残ってた?どうゆうこと?」
金吉に悪寒が走った。

 実は二人の間に実子は無く、養子を二回迎えていたのだが、離縁しないままの子、

前途有望
が戸籍に残っていたのだ。

 二ヵ月後、
前途有望の家を後にした金吉大器晩成は、車中。

「いや〜、今回の案件は苦労したな〜、
晩成も疲れたろ。」

「大先生の指示通りに行動しただけですから、悔いが残るといえば、
前途洋洋さんと一緒に一服したかったですね、食事や入浴も出来ませんでしたし。」

 色々な課題を残しながらも一件落着。

 

  衆議一決(しゅうぎいっけつ)
  多くの人の議論で、意見が一致し、物事が決まること。

  一攫千金(いっかくせんきん)  成年後見(せいねんこうけん)

  前途洋洋(ぜんとようよう)    前途多難(ぜんとたなん)

  前途有望(ぜんとゆうぼう)    頑固一徹(がんこいってつ)

  臨戦態勢(りんせんたいせい)  他力本願(たりきほんがん