四文字熟語行政書士物語 VOL.04

開業秘話

 閉戸先生、行政書士閉戸真治は、百戦錬磨法令センターの所長である。 石部金吉は行政書
士が何をして良いのか?右も左も解からない時、たまたま持っていた名刺の中からピックアップ
した「一枚の名刺」から今の行政書士、石部金吉が造られた。

 金吉は不動産会社を15年ほど勤務し、最後の勤務先()波瀾万丈不動産―専務取締役を退任
、退職したのが平成
4年の年末の事であった。

 年明けの1月4日まだ松の内に「一枚の名刺」に電話を入れた(まだ始業していないだろうな
ァ)

「はい、百戦錬磨法令センターでございます!」

明るくハキハキとした声に金吉は圧倒されながらも名刺の名前を口にしたが、電話の先では何か
(居ないよ、移ったよ、みたいなことが聞こえていた)

「すいません、その先生は事務所移られて今ここには居ないのですが…・」

「そうですか?…・・」言葉に詰まっている金吉に、大きな声の浜弁が飛び込んできた。

「どんなことサ?」頼り甲斐の有る言葉にホットするまもなく、行政書士の内情、周辺事情等色々
口にする金吉を遮り、閉戸先生は言った。

「それなら色々教えてあげるので日曜日にでもお出で。」

 よかったァ〜、何ほどか安心した石部金吉第2の人生のスタートであった。

 アポイントメント当日、行政書士事情を熱くビビットに語られる閉戸先生に時間を追う後とに傾
斜していく金吉

「今、この事務所では1つ席が空いてますが、そこに何とか居れて戴けないか?また、仕事のやり
方を教えてもらえないか?(まったくズウズーシイお願いをしていた)」

「いいよ!、明日からお出で。」そう言う閉戸先生の手に事務所の鍵が親指と人差し指に摘まれ
に差し出していた。

 百戦錬磨法令センターには閉戸夫人を含め4名の補助者が居た。閉戸真治は開業して7年が過ぎ
ていた。この百戦錬磨法令センターを造ったのが当時生り立ての行政書士7人で、その創設メンバー
の一人である。

 個々に手狭になると他に事務所を設立しセンターを後にしている(はたして金吉が独立開業する
まで
3年余りの年月が掛かることをこの時は知るすべも無い)。

「おはよう御座いますゥ」7時半に事務所に着いたときには既に閉戸先生は机に向かい仕事に没頭
している、自宅が近いとは言え6時には事務所に出ているようだ、電話の無い朝が仕事が進み、頭
の回転もクリアーであるところが持論である。

 そのような貴重な時間に次々と質問する金吉に、明確な回答する閉戸先生は勉強家でもあるが大
変な努力家である。殆どの事は一通り出来る、この多岐に渡る行政書士業務をこなして行く真摯な
姿勢は多くのファンを持っていて、行政書士、社会保険労務士の中での信望も厚く色々な役員に就
任している。

 その為なのか、情報の収集力が多く、なりたての行政書士石部金吉には本当に深い影響を与えて
いる。それは今現在もなお健在である。

 閉戸先生を見て、本当に僅か7年でこの様に成れるのか羨望と不安が入り混じった眼差しの金吉
が居た。

 9時10分「行ってきますう」閉戸先生は外出すると夕方まで戻らない。(行く所沢山有って良
いな〜)

 なり立ての行政書士石部金吉は訪問するアテの無いまま過ぎ去る時間に不安を隠せなかった百戦
錬磨
法令センターの補助者閉戸妙子閉戸先生の奥さんであるが顧客からは専ら「女先生、女先生」
と呼ばれていた。

 その通り、何でもよく知っている。閉戸先生に聞くほども無い事は閉戸妙子にしょっちゅう聞く
金吉
を、噛んで含める言い方は心憎からず思う妙子の心の表れであった。(記帳代行等毎月の安定
収入を増やす努力をしなさい云々)

 3ヶ月も過ぎた頃、月の記帳も2件・自分のを含め3件になった時、金吉は迷わず補助者とパソ
コンを入れた、収入4万円―パソコンリース代2万円、補助者月6万円(午後から一日置き)。こ
の補助者が白川夜船である。

 一人目の補助者を持った金吉は(補助者の分も収入を増やさなければならないプレッシャーを自
らに課した)これにより今まで以上に電話営業をする事に成った。

暴虎馮河

 当初不動産業の経験から「管理組合の法人化」を考えた金吉だが、何を根幹とした業務をすれば
いいのか大きな不安は隠せなかった。

 イソベン(居候弁護士)が有るのだから、当然の如く居候行政書士がいても…・との手前勝手な
考えで、合同事務所
百戦錬磨法令センターに入り込んでしまったが、必要最低備品も仕事も無い日
々が続く…。

 手始めに試みたのは備品の入手であった、簡易タイプライター(言葉もこの時まで知らなかった)
の取得である。まったくの受け売りだが北海道新聞夕刊譲ってください欄である、幸先良く2台手
に入れるのに成功した、この経費一台に付きビール券4000円程度。

 この簡易タイプライターは4年間大活躍した、元々字の汚い金吉にはワープロで記入できないカ
ラム内に記入する場合たいへんに重宝したものであった。

 合同事務所の利点は色々有るが、金吉が一番助かった事は顧客宅、出先等其の場から電話できる
事であった。処理期間、難易度、報酬額などが当面の課題であったのだが、すぐ聞けると言うこと
が本当に有り難かった。

 同時期に登録開業した行政書士に会う都度、必ず報酬額の話題になるのだがその疑問に答えうる
有利な立場にあることが痛切に感じられた。

 また、集金方法であるが、概ね2回に分けて集金する(着手金と提出時残金)ことにしている不
動産業界の手付金制度じゃないが、例え千円でも受け取ってしまうと自分にプレッシャーが掛かる。
依頼者自身も前向きに行動を起こす為(いつ迄に書類を作成する、いつ迄に必要書類を収集する等)
時間の短縮にもなることが永い営業経験より良く解かっていた、時間が延びて好転することは殆ど無
く「揃ったら電話する」「なるべく早く集めます」の返事は時間の経過とともに
どのような不測の事態を引き起こすか解からない。

 このように石部金吉が無謀な開業をしたのは、目標となる閉戸先生と知り合い、すぐさま弟子入り
したのがきっかけである。

 平成5年3月1日−登録番号93010204 石部金吉 登録済。

 

閉戸先生(へいこせんせい)       もっぱら学問や読書にふける人。勤勉な人。

暴虎馮河(ぼうこひょうが)       無謀な危険を冒すことのたとえ。命知らずな事。

百戦錬磨(ひゃくせんれんま)    波瀾万丈(はらんばんじょう)