長崎の父(2012.12.8)


 長崎に一人で住んでいる私の父は、今年97歳になる。

元気では居るのだが、かなり高齢であり、
私の兄や姉たちは心配して、老人ホームなどに入れば?と勧めているが、
まだまだ本人にその気は無いようである。

私を含めた子供一同、ひとり住まいの父が元気でいるか、
インターネットを通じて、居間に設置しているネットワークカメラにアクセスして、ときどき確認している。
このネットワークカメラは、NTT西日本の製品で、
今はもう販売が終了してしまったが、通称“クルリモ”というネットワークカメラである。
クルクルと、リモコンでカメラを動かすことができるので、そう名付けたのだろう。


【 インターネットで、長崎の父の家のネットワークカメラにアクセスした時のイメージ 】

インターネット経由で、パソコンに上のような映像が映れば、
 「 ああ、父は元気にしているな 」 と安心するのである。
私も二日に1回くらいアクセスしてみる。
いつも炬燵で、寝そべっている姿が映る。
 “ 退屈しとる ごたるなぁ・・・・・・ ”
最近、俺も帰っとらんなぁ・・・・たまにゃあ 長崎に帰らんといかんなぁ
いつだったか、女房と二人で帰省した折の夕食時、父が言ったよなぁ
 『 こげんして、大勢で飯くうと うまかねぇ・・・』 大勢と言っても、3人なんだが。

“親孝行したい時には 親はなし” を、
  “親孝行したくないのに 親がいる” と、高齢化社会をもじった落語家がいたっけ。

高齢だが、私の父はまだ元気だ。
先日の事である。
私がいつものように、インターネットで父をモニターしてみたら、
やはり炬燵に入ったまま、ゴロリと寝ころんでいる姿が映った。

たまらず、長崎に住む次兄に電話した。
 「 こんどの土曜日に、長崎に帰ろうと思うばってん、
   ひまなら、親父と一緒に夕飯でも食って、カラオケにでも行かんや 」と。
次兄いわく、
  『 おう! よかぞ。』

そんなわけで、土曜日の夕方長崎に着き、繁華街である “浜の町” で父と待ち合わせし、
次兄に連絡し、
 「 どこで晩飯くおうか 」と言ったら、
直接、“ともだち” という店名のカラオケ屋に行くことになった。
そのカラオケ屋は、いつも行くお店で、老夫婦がやっていて、
ご飯もおかずも出してくれるのである。
行ったら、夕方6時頃だが、もう老人の客が4、5人居て
演歌を中心にガンガン歌っていた。

父と、次兄と私は、3人ともカラオケ店に入るや、カウンターに座った。、
ご飯と、にゅうめんと、定食のような各種おかずが、3人分サッと出された。
それを肴に、兄と私は、ビールと焼酎を飲んだ。
父は相変わらず、ビールをコップ1杯飲んだら、後は熱燗である。
高齢であるが、ちびちびと2合ほど飲んで、元気に演歌など歌った。

飲んでは歌い、歌っては飲み、
私と次兄は、他の人が歌っているカラオケの歌を聞きながら、
いろいろと話しをした。

「俺がインターネットで、モニターすると親父はいつも、炬燵でゴロゴロしとるようで、
   寂しかろうと思うて、久し振りに来てみたとばってん・・・・ 」と、私が言うと、
兄は、
 『 そうでもなかぞ、結構 大村ボートとか、あっちこっち出てさるきよっとぞ。
   そして、先週の土曜日も俺と親父と二人で、ここで飲んだとぞ。』 と言った。

 「 へー、そうね! 元気ねぇ・・・・親父も 」 と、私は少しホッとした。

その夜は父と一緒に、もう2件ハシゴして帰り、
私は実家に泊まった。
明くる朝、父は、
 『3件目は、よう覚えとらん』 と言って、
3件目の小料理屋で、土産にもらった押し寿司を、
冷蔵庫から出して来て、
 『これは、どうしたとやろかね』 と言いながら、食っていた。


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