金峰(2010.10.30)


 朝、犬の散歩で歩く、白川河川敷。
ふと目を上げると、そこから金峰山が見える。
金峰山は、“きんぽうざん”ではなく、“きんぼうざん”と読むのだと誰かが言っていた。


【 白川河川敷から見る “金峰山”。 熊本市内では一番高い山だと言われている。】

私は長崎の高校を出て、長崎市万才町にあるDという会社に技術系の社員として就職した。
就職と同時に、熊本にある研修所に2ヶ月ほど技術的研修に行った。

研修所は全寮制であり、夕方までの研修が終わると、いったん寮へ帰り
それから、仲間で熊本の繁華街あたりに、よく飲みに行った。
研修所から繁華街までは、バスで15分ほどかかる。
街で一杯飲んで、バスかタクシーで研修所へ帰るのだが、
ちょっと飲み足りないなと思うと、研修所の裏門の前にある居酒屋で
飲み直すということがよくあった。

その居酒屋は、店の名前が “金峰食堂” という10人ほど入れば一杯の
小じんまりとした、いかにも食堂という感じであった。
おでんや、ホルモン、ヤキソバ等がおいしく、当時 流行っていた焼酎、
薩摩白波のお湯割りをあびるほど飲んだものだ。

夜になると、客のほぼ100%が研修所の研修生であり、大酒のみばかり。
おじさんだか、おばさんだかがやっていた店だが、若い女の子も一人居て、
この子がよく働き、酒や料理を運びながら、適当に酔っ払いの話し相手にもなってくれていた。
失礼な話しだが、美人というほどではなかったが、
働き者を絵に描いたような、20歳くらいの女の子だった。

時は流れて、それから25年ほど経って、私はその研修所の教官として赴任した。
当然、あたりの様相、景色もかなり変わってはいたが、
裏門前には、“金峰食堂”という看板がかかったままのお店がまだ存在していた。
残念ながら、空き家のようで営業はしていなかった。
25年も経つものなあぁ・・・と感慨深かった。

研修所の建物の中に、売店があった。
タバコや雑誌、飲み物、お菓子、日用品などを置いてあり、
今でいうミニコンビニのような売店である。
そこの店員さんに、昔話しがてら、
 「あそこの裏門の前に、“金峰食堂”というのがあったけど、
   いつ頃店を閉めたのかなあ・・・・毎晩のごと飲みに行きよったけどなぁ・・・」
そしたら、店員さんも懐かしそうに思い出し、お店の事もよく知っているという。
さらに聞いてみた。
 「“金峰食堂”に、よく働く若い女の子がいたよねぇ・・・」
店員さん曰く、
 『そらあ、私よ!』

 「えぇーーっ!!」

実に驚いた。
そう言われれば、何となく、昔の面影があるよなぁ・・・・・
頭に白い頭巾をかぶり、酔っ払いの相手をしながら、テキパキと働いていた女の子。
今じゃあちょっと太めで、肝っ玉かあさんのようだ。
実に懐かしかった。


 「えぇーーっ!!」 と、驚いた時から、さらに十数年が過ぎた今日、
朝の散歩の途中、金峰山を見上げ、ふとそんな事を思い出した。
あの頃は、よく勉強もし、よく酒も飲んだものだ。


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