日本一の旅館(2008.1.3)


 2007年の年末から海に行けなかったアッシは、天候が快復した正月の2日、一人で海へ行った。
釣りの話はどうでもいいが(ボウズ)、港まで行く途中、天草五橋の四号橋を渡ってすぐ左側に「ろまん館」という旅館がある。
立地条件、ビューとも素晴らしく、とてもいい旅館らしい。

四号橋を渡ろうとする車の中から、旅館の全貌が見える。
部屋の窓から天草の海を眺めている宿泊客が見える。
腕時計を見ると朝の7時前、3割くらいの部屋に明かりが点いて宿泊客が海を眺めたりしている。
駐車場を見ると、宿泊客の車で満杯である。
ふえーー、正月から温泉旅館に泊まる人がこんなにいるんだあ!うらやましかねーー!と思った。

最近読んだ本を思い出した。
「加賀屋の流儀」(著者:細井 勝氏)という本である。
加賀屋とは、石川県 能登半島の東側の付け根にある七尾市の旅館で、
プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選で、26年続けて1位に輝く旅館である。


【 加賀屋・・・・・日本一の旅館   】

最愛の妻あるいは、会員から慕われていた親睦会の会長、そんな最愛な大切な人の、
「もう一度、加賀屋に泊まりたかった・・・・」という夢をかなえるために宿泊した人たちに、
さりげなく「陰膳(かげぜん)」を用意してくれる客室係のおもてなし。
一例をひいてみる。
K氏は、私の勤める会社のOBでもある。また、郷里も私と同じ長崎の人だ。

 ” 平成13年、夫婦でツアーに参加し加賀屋に宿泊したK氏。
大きく豪華で、よく考えられた客室の造りと心にしみる接客、料理や温泉のすばらしさに
旅なれていた奥さんも 「こんな居心地のいい旅館は初めて」 と手放しの喜びよう。
その時は大勢のツアーだったため、ゆっくりくつろげないのが残念だった。
「今度は二人だけで加賀屋へ行こうね」
その楽しみも果たせず、わずか3年後、奥さんは癌で急逝された。

K氏は、ぽっかり空いた心の穴をうめようと、奥さんが楽しみにしていた北陸、加賀屋への一人旅をされた。

最初、なぜお一人でお越しになられたのかと、ふと思わないでもなかった客室係りの花代さんは、
詮索がましいことは控えようと黙ってお世話をしていた。
お部屋食の支度をしている最中に、カバンの中から写真立てに入った四つ切りぐらいの
奥様の写真を取り出したK氏が、自分のテーブルの左手にそっと置かれたのに気付き、
ぁぁ、なるほど、だからお一人なんだと合点がいった。
すぐに陰膳の準備を思い立った花代さんは、部屋を出ると調理場に料理を手配して、花も用意した。
部屋に戻り、陰膳をしつらえると、奥さんの杯もきちんと、整えてK氏と乾杯した。
それから花代さんずっと、話し相手にもなってくれ、お酌もしてくれた。
まるで横に妻か娘がいるような安堵感を覚え、そんな和んだ空気の中で少しアルコールが入った
K氏は、ぽつりぽつり奥さんの思い出話しを始めた。・・・・・”



【 陰膳(かげぜん)・・・ お盆、高坏(一品料理)、グラス(ビール)、お手許、花瓶(花一輪)、写真 】

後日、K氏からの、加賀屋の女将さん宛ての手紙の中で・・・・
”  ・・・・・・・・・・・・・
 また、帰りには花代さんには和倉温泉駅まで見送りいただき、のみならず、
荷物は部屋からずっと持ってもらい、列車の中までも荷物を持たせてしまい、ありがとうございました。
途中バスの中では立っておられたので、「座ったら」と勧めたら 「座ってはいけない」とか、さすがです。
列車が発車するまでホームから見送りを受け、発車直前には手を振られお辞儀をされました。
そのときには感激のあまり涙があふれて、次の駅に着くまで止まりませんでした・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  ”

上記は、読んだ本の一例だけを記したが、私はこのような話しが好きである。
客室係りの声は ”お客様の声” とばかりに、旅館に従事する全てのスタッフが協力して、本物の接客にあたる。
仕事とは、プロとはこう有るべきではないかと思いながら、目に涙を感じ、この本を読み終えた。

私なりに、加賀屋の特筆すべき事項を箇条書きに挙げてみる。
@極上の本物の、おもてなしとは何なのかを、全ての従業員が心得ている。
Aお客様データのコンピュータ管理のすごさ。
 ・初めてのお客様(電話、電子メール予約など):可能な限りの情報をお聞きしてインプット。
                              ex 還暦祝い、結婚記念日等の宿泊目的、食べ物の好き嫌い等々
 ・リピータ客:前回泊でのアンケート内容(住所、年齢、食事の好み、部屋の暑さ寒さ加減など)、さらに、
        これまでどの客室係りが接客し、喜ばれたか等々、全てのデータがインプットされている。
B上記、お客さまデータを把握した上で、客室係ひとりひとりの個性、得意分野を照らし合わせ、最適な客室係りの部屋割りをする。 
C接客マニュアルらしきものはあるが、ひとりひとりが自分で考え、臨機応変に対応できるすごさ。
D例えば、浴衣は、身長でいうと5センチ刻みのサイズを揃えてあり、しかも、肥満、超肥満といったタイプも含め
  4種類のサイズがあり、部屋へ案内するまでの間に目測して最適な浴衣をお出しする。 
E「ありません」、「できません」は言わない。四方八方、探し回り可能な限り手を尽くしてみる。
F連泊のお客様へは、料理長自ら 「二日目のお料理で、何かご希望はございますか」と注文伺いに行く。
  (似たような料理を、続けてお出しするわけにはいきませんからね)
Gピーク時で、一晩に1千食を調理する調理部門でも、「たった一部屋の、たったお一人のお客様のためだけに
  われわれは料理をつくる」という戒めにも似た鉄則がある。
H料理搬送システムの導入(厨房から配膳室まで、料理の配送にロボットを利用)
I幼子を抱えて働く全ての客室係のために、保育園併設の母子寮設置に象徴される、社員の働く気を起こさせる心配り。
 (先代の女将からの流れで、従業員ひとりひとりの悩みなどを、トップが驚くほどよく把握して、積極的に相談に乗る)


もう、これくらいにしておこう。
これ以上書くと、まるまる本のコピーとなってしまう。

さて、結論です。
上記@〜Iまでの中で、どれか一つでもいいからその精神を、応用できないものか。
私どもの日々の仕事に。


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