ショパンの前奏曲から着想を得て

 ショパンの前奏曲を聞きながら速攻でツイッターに打っていったもの。

1番。これは一つの壮大な愛の物語。湖畔で紡がれた愛の物語。
2番。物陰から見張る男。ちらちらと建物の角から黒いハットが見えている。不穏なメッセージの使者はいまだその言葉を伝えようか迷っていた。携えた手紙を握りしめて様子をうかがう。渡そうか、渡すまいか。
3番。何も知らない彼らは風に揺れる水面の上を滑る光のように軽やかに湖畔で愛を交わし続ける。
4番。言わなきゃならないことがあるんです。貴方にずっと言いたくても言えなかったことが。隠し続けてきたのかと言われればその通りなのだけど、言ったらきっと、こんな毎日はもう来ないと思って。だから、ずっと言わなきゃって思ってたけど言えなかったの。お願い、許して。嫌いにならないで。お願い、何があってもずっと私のそばにいて。怒らないで、お願い。私にはあなただけなのよ。
5番。めまぐるしく変わっていく日常。ああ、ほんとに忙しくて目が回りそう。都会の人は良くやるわね。
6番。振り回された後は疲れてしまう。どうして彼女はあんなことを言ったのだろう。どうしてそれでも側にいたいなどと言えるのだろう。放したくなどないけれど捕まえておく自信はない。
7番。気を取り直して久しぶりにデートをしましょ。互いにお辞儀をしあって、さあ、優雅にステップを踏んでいくの。きっと元のように仲良くできるわ。
8番。わかってる、君が心変わりしてないってことなど。でも、僕のこのちぢに乱れる心はどうしたらいいんだ?どうしたって君は 僕の敵だったんだ。スパイだったんだ。手を取り合ってお辞儀をしてさあ踊りましょう?できるわけがないだろう。そんな仮面夫婦のようなこと。
9番。懐かしきわが日々。思い出せば堂々と道を歩き、青空を仰げていた頃が懐かしい。もう一度そんな日々を取り戻すことができるなら、――どんなにかよかっただろうに。
10番。時は嵐のように吹きすさびながら社会情勢を悪くしていく。木枯らしが吹いていく。僕の心にも君の心にも。
11番。迷いながらもあなたへの愛を誓った。
12番。なのにどうして受け入れてくれないの?わかってくれないの?ねぇ、私は貴方を殺すしかないの?こんなに愛しているというのに。寝息を立てる貴方の寝顔が恨めしい。今ならあなたをやってしまえるのに。
13番。夢を見ている。すごく最近のことだったはずなのに、もう手の届かないほど昔になってしまった頃の夢。ずっと目など覚めなければいい。幸せなこの世界から抜け出す時が来るなんて考えたくないんだ。君は優しく、僕は幸せだった。永遠に続けばいいと思っていたんだ。君さえ何も言わなければ、壊れることなどなかったのに。
14番。だからほら、言わんこっちゃない。君と僕は引き離される運命だったんだ。僕がどんなに望もうと、君がどんなに望もうと、世界はそんなに僕らに優しくはない。ほら、引き離そうとしている奴らの足音が聞こえるだろう?
15番。軒から伝い落ちる雨粒がはじけるのを見るのが好きだと君は言ったっけ。優しい気分になれるからって。断頭台へと連れて行かれる気分はどうだい?その重い足を引きずってそれでも自分で歩けと急かされるんだ。背に負う十字架は目に見えなくても重いだろう?君は僕を騙したんだから。愛していたなんて信じない。愛してしまったも信じない。僕も君を殺すために近づいたのだから。君を警察に突き出し、これで晴れやかな気分になれると思っていたのに、どうしてだろうね、こんなに憂鬱なのは。雨が降ってるせいかな。君を警察に突き出し、これで晴れやかな気分になれると思っていたのに、どうしてだろうね、こんなに憂鬱なのは。雨が降ってるせいかな。
16番。違う。俺はやってない。俺はスパイじゃない。どうしてだ?彼女を突きだせば俺の罪は問わないといったくせに。どうして俺まで捕まえられるんだ?やめろ!俺はやってない!
17番。間違っていたんだろうか。そんなことはわかってる。でもこうやって牢屋の隅で膝を抱えていると、やっぱり君のことばかり思い出してしまうんだ。君の笑顔、君の声、君の肌のぬくもり、君の匂い。もう二度と触れることはできなくしてしまったけれど、それでも僕は君のことが好きだった。好きだったから、許せなかったんだ。僕も、君も。目裏で君は微笑む。両手を広げ、さあおいでなさいと呼びかける。でも僕は、もう君の腕に飛び込む資格はないんだ。
18番。信じてくれたと思っていた。なのにあの人は私を警察に引き渡した。私は信じてほしくて打ち明けたのに。どうして?どうして?彼も愛してくれていたんじゃなかったの?ああ、終わりよ。みんな終わりよ。終わりにしてやるわ。
19番。思い出すのはパーティーで二人手を取り合って踊った日々。くるくると回るたびに目を合わせて私たちは微笑みあった。たくさんの人たちにどんなに翻弄されても、手は離さないって言ってくれたのに。ねぇどうしてこんなことになっちゃったのかな。もう一度やり直したいよ。
20番。処刑台に連れて行かれる彼女は凛と顔をあげて前を向いていた。だけどその目は泣き腫らして真っ赤で、今にもまた涙がこぼれ落ちそうに見えた。今更すまなかったなど伝えることはできない。愛しているということもできない。ああ、俺はここだ。気づいてくれ。気づいてくれ。さげすみの目でいい、一度でも君の目を見ることができたなら――ああ、処刑の穴に落ちる一瞬、目があった。驚いた顔をしていた。ごめん。すぐ、君に会いに行くよ。
21番。落ちた穴の中から君の亡骸を見つける。月明かりはとうに消え失せて、君を背負って穴からはい出した。ようやく抱けた君の身体は冷たくて、それでも僕は君の血の付いた頬に口づけた。
22番。見つかった!容赦なく飛んでくる銃弾。逃げろ。逃げるんだ。一歩でも先へ。
23番。撃たれて気を失い見る夢は蕩けるように甘やかで、二度と目が覚めないんじゃないかと思った。それでもいいと思った。
24番。でも現実はまだ続いていて。足はいまだもつれながらも走り続けていて。ああ、いっそあの湖畔まで逃げようか。そして二人で暮らそう、今度こそ。逃げろ、逃げろ。あの地の果てまで。せめて、この命の続く限り、君と見ることのできなかった夢を見ていたい。25番。さあ、見えてきたよ。追ってくる奴らももういない。もう少し。あの丘まで登れれば、僕らの出逢った湖が見える。せめてそこまで、一緒に行こう。
25番。許してくれなくていい。これは僕のエゴだから。よろける足どり。ふらつく意識に言い聞かせながら一歩一歩歩を進めていく。苦しくなると君の笑顔が見える。君との日々が見えてくる。何物にも代えがたい光の季節。鼓動が死の影を帯びて迫ってくるほどに、心は光に照らされていく。あと少し、もう少し。早く、早くいかないと間に合わなくなってしまう。もう少し。もう少しだからもってくれ、僕の心臓、僕の足、僕の身体。この身の全てをかけて君に懺悔を捧げよう。届くことはなくとも、僕はずっとこの地の果てから君のことを想っている。

2016020070200


 ファーストインプレッション・ショートストーリー版。
ソナタ2−1、ままならぬ人生を歩んでいくのです。嵐の時も、光溢れる輝きの季節も。迷い悩み、時に足をとめることもあるでしょう。それでもいつか、苦悩と喜びに満ちた世界から解放されるときは来るのです。

3番目の曲なんて中欧の外壁ベージュ系煉瓦の街並みが見えたぞ。
1番はまさに前奏曲の前奏曲。始まるよ、始まるよ。2番目はほうほう。3番目はブタペストの街並み、4番目は鬱々とした苦悩。でも、だってさ、と一人で問答。答えは結局自分じゃなきゃ出せない。
ショパンの前奏曲は掌・短編集だったのか。聞いたことあるようなフレーズがいくつも出てくるけどちょっと蝶が違ったり持って生き方流し方が違ったり。2番は調が珍しい気がしたやつか?5番はさっきの苦悩を風がふふふっと笑って席巻していく感じ。でもやっぱり悩みはありそう
6番は練習曲っぽいような?
7番はいつもラジオで聞くやつだ。軽やかでお誘いされてお辞儀してってやつ。お昼のあととか眠くなる奴。と思ったら、なんだこの中間部の胸熱展開は。口説き中?あ、違った、中間部じゃなくて8番だ。
9番は堂々と人生を振り返る感じ。
10番好きな曲だ。練習曲にも同じようにうねるような下降音階から始まるのが10番あたりにあったような。あっという間に11番。10番の続きで展開したのかと思いきや。さらに12番が転の苦悩と負の感情の発露を担当。慰める天使が夢に舞い降りる13番。ここから2巻。
14番、複雑な社会情勢。
15番雨だれ。軒から伝い落ちる雨粒はなぜだか優しい気持ちにさせてくれる。時に灰色の空と相俟って過去を思い出して憂鬱にさせるけど、窓枠に当たって弾けるさまを見ているとなぜか、優しい気持ちになれるんだ。そして少し大胆な気分にもさせてくれる。今ならきっと、みんな雨戸を閉めてしまっているだろうからね。これは秘密だよ。僕と君だけの。
16番。私のこの想いをわからないというの?許さない。許さないわ。あなたなんて、こうしてやる。そしてあなたは永遠に私のもの。
17番天国の原っぱを歩いていく。穏やかな毎日。穏やかであることの幸せ。私はこの幸せを守りたい。どんなにか渇望したことだろう。どんなにか渇望したことだろう、何もない穏やかな毎日を心静かに過ごしていけたらと。そのためには今を乗り切るしかないと心に言い聞かせて。そう、だから今この日々があるの。この穏やかな午後の日差しを浴びることのできる毎日が。
18番。脅かすものは誰?私の背後から迫りくるものは誰?振り向いても、振り向いても、その姿は見えない。姿を現して。貴方は誰?誰?誰なの?いや、攫っていかないで。
19番。目が覚めるとめまぐるしくドレスの裾が舞う上流階級のパーティーにいた。螺旋を描く階段を上って私は貴方の視界から離れようと人にぶつかりながら小走りに会場を駆け抜ける。ああ、ようやっと会場から出られた。
20番。見上げるほどの扉が開く、荘厳な音。この向こうには何が待っているのか。胸にはかすかに湧き出す小さな不安。どうしよう。進んでいいのかしら。それとも、ここでずっとうずくまっている?きっと誰も手を差し伸べてはくれない。扉は開かれたのだから、自分で踏み出さなくては。
21番。ここもまた夢の世界。頭上と足元と別な世界が斜めに平行に過ぎていく。時の中を駆け抜けて、探しているのは貴方。いくつもの階段を駆け下りて、駆け上がって、マジックミラーのようにすぐそこに貴方は見えているのにその腕は遠い。ああ、目が覚めてしまった。
22番。目が覚めたら戦火の中にいた。そう、これが現実。逃げなければ殺されてしまう、これが現実。
23番。清らかな清流の小川のほとりでくるくると回りながら流されていく草の葉を見ていた。時々つつくと少し動きが大きくなってまた流れに乗って手の届かないところに過ぎていく。
24番。激動の中で出会った二人の愛は燃え上がるように互いを掻き立て、憲兵たちの目を盗んで口づけを交し合う。これが最後だと互いに言い聞かせながらそれでも離れがたいと唇は言う。ならば引き離されるまで共にいようか。ええ、それもいいわね。二人一緒に堕ちてしまうのも。
25番。取りが重いのは背に負うたものが重く濡れているから。引きずるように丘へのこの道を歩む。辛さと苦痛を紛らわすように目裏には君の姿が見えるけど丘の上に君はいない。時折よろけそうになる足取り。それでも君をあの丘に眠らせるまでは、まだ倒れるわけにはいかない。それでも意識は君が先に旅立った天国の夢を見る。君は今幸せかい?苦痛から解放されて、一足早く旅立ってしまったけれど、よかったんだ、それで。君の死に目に会うことができて、僕は幸せだったんだ。君を悲しませないで済んだのだから。ああ、それにしても重い。生きているときの君は軽やかにパーティー会場でくるくると舞うように回ってまるで蝶のようだった。それなのに今はただの濡れそぼつ肉塊と成り果ててしまった。ああなんて冷たく重いのだろう。だけどさあ、丘の上が見えてきたよ。カイン、ここで一緒に眠ろう。永遠に。
〈了〉
(201602070200)