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不定期連載小説

「たんぽぽ荘」



−33.部長会議−  

遂に文化部の部長会議の日がやってきた。
村止さんと僕は緊張しつつ会議室となる教室へ向かった。
教室の入り口で黒川さんと広瀬君にばったり出会った。
漫研の時期部長と副部長だ。
黒川さんと村止さんは無言で教室に入る。
続く僕と広瀬君は目を合わせた。

 「立場上反対するからな」
「うん」

何とも言えない気まずい雰囲気で二人は教室に入った。

 「では、ただいまより文化部の部長会議を始めます」

十三のクラブからなる文化部の部長会議が議長の挨拶によってが始まった。
まずそれぞれの部の本年度の活動内容と会計状況が報告される。
その後議題は次年度の内容に移行した。

 「えー、では来年度の各部の予算についてですが・・」
「いよいよか」と僕は思った。


実はクラブ活動には毎年学校から一定額の活動資金が準備されていて、各部の次年度希望予算額と過去の実績を照らし合わせて決定、各部に分配される事になっていた。
こういった事情から新規立ち上げ希望のクラブがあればそれについての話し合いをし、続いて予算の話となる。

「ではまず今回提出されています創作同人誌研究会の同好会発足につきまして話し合いたいと思います」

議長は続ける。

 「企画発起人である経営工学科3年生の村止さん、企画内容をお願いします」
「はい」

村止さんが立ち上がる。

「今回私の立案しました創作同人誌研究会はその名の通り小説漫画などの紙媒体を用いた創作作品を作る事を活動内容とし、かつその作品を掲載した同人誌を都市部でのコミケットなどで紹介するとともに、将来世で通用するプロ作家を養成していく活動を行って行きたいと思っております」

”大見得を切った”僕はそう思った。
でもこれぐらい言わなければ立案は通らないだろう。
なんせ予算の分配が少なくなるおそれがあるのだ。新しいクラブができることはどの部にとってもあまり嬉しいことではない。
議長が述べる。

 「意義のある部。ありますか?」
「はいっ」

当然の事ながら漫研の広瀬君が立った。

 「どうして漫画研究会がすでにあるのに同種のクラブが必要なんでしょうか」
もっともな意見だ。

「村止さん、ご意見ありますか」
村止さんが立ち上がる。これまでになく勇ましく見える。

 「はい。これまで私は漫研に所属しておりましたが漫研の目指すところは既存のアニメ、漫画、特撮といったプロの作品について議論する事であって、今回私の目指すところの純粋の創作活動とは全く趣が異なっております。 また、プロの作家を目指すという目的においても異質のものでであると思います」
村止さんは心に秘めていた事を面と向かって言った。
広瀬君が手を挙げる。

 「これまでも漫研は評論に加えて創作文等を機関誌上で発表してきました。
全くの批評活動のみを行ってきたわけではありません。
現に今もオリジナルの8ミリ映画のアニメーションを作成中であり、村止さんのおっしゃるような限定された活動のみを行っているわけではありません。
創作活動を行いたいのであれば一緒に行えばいいのではないでしょうか」

僕は目を伏せた。自分の物とはいえ8ミリカメラを取り返して創作活動の妨害をしているのは僕だと思ったからだ。
また広瀬君の言うことも正しいと思った。
本当の問題は村止さんと田城さんの確執であり、新しいクラブを立ち上げる動機は実は好きな作品の嗜好が違うからだ。
もっとはっきり言えば、『ミーハー好みの奴らは嫌いなんだよ。そんな奴らと一緒にはやれないよ』とは言えないだろう。
僕が一人で困っていると、村止さんが手を挙げた。

 「そうはいっても既存の作品をモチーフにしたものであることには変わりはないでしょう。私はもっと独創的な物をやりたいのです」
それもまた真実だ。

率直に言えば田城さんは弓月作品の影響から脱却できていない感がある。
黒川さんはザブングル。
その他の部員はそんなに絵は描かない。
どんな物ができるかはまだ未知数であるとはいえプロの作品の影響の全くない物になると言う可能性は少ないだろう。
これ以上の論議は無駄だと思ったのか広瀬君は反論しなかった。
黒川さん黙ったままだ。

「他に意見がなければ可否をとります。 創作同人誌研究会の新規立ち上げに反対のクラブは一人が代表で手を挙げてください」
僕と村止さんは息を止めた。
勿論広瀬君は手を挙げた。

 「一、二・・」
議長が数を数える。
「・・五・・・」

十三クラブだから七クラブ反対されたら終わりだ。怖くてまともに見ていられない。

「・・・では念のため賛成の部は?」

やった。カウントは五で終わった。

「賛成八。では可決と言うことでよろしいですね」

残りがみんな賛成に回ってれたので助かった。
会議が終わった後対面に座っている漫研の二人との間にどうしようもない空気が流れている。
何か声をかけようかとも思ったが、あちらも目を合わせようとしないのでそのまま村止さんと一緒に教室を出た。

 
僕は廊下を歩きながらクラブ立ち上げが可決になった理由について考えてみた。
正直言って他のクラブにとって企画の理由などどうでも良かったに違いない。
やはり顧問についてくれた須賀先生の力が大きかったのだろう。
実を言えばこの先生は面倒見が良くて他の幾つかのクラブでも顧問をしている。
それで同じ先生が顧問ではむげに反対できない部もあったのではないだろうか。

「やっぱり須賀先生だな」

背中でつぶやいた村止さんも同じ事を考えていたようだ。
この日は須賀先生の都合もあって挨拶は後日にし、そのまま村止さんの下宿へ行ってジュースとお菓子でささやかな祝杯をあげた。


−34.食費問題2−

タンポポ荘の食費問題は電卓片手に毎月計算している藤多さんと大家さんの攻防が相変わらず続いていた。
というのも個人の都合で外泊などすると一回分の食事をとらない事になる訳だが、あらかじめこれを大家さんに知らせると大家さん側ではその人のその日の分の一食分を抜いて請求しなければならない事になる。
こういったのが数人でもあると、これまで19人に一律に請求していた食費の計算が恐ろしく複雑化してしまう。
光熱費や食材費等との兼ね合いもあるので大家さん側からすればこれはとんでもない負担であったろう。
特に運動部に所属している先輩方や夜遅く帰る寮生は外食してくることや留守にすることが多い。
そういったのが大家さんにとっかえひっかえ報告されると計算の間違いも起きてくる。
でも貧乏学生にしてみれば一食の食事代でも節約したい。
この行き違いから寮内の雰囲気も結構悪くなっていた。
4年生の先輩方は長年お世話になっている関係から大家さんを気遣って細かいことは言わなかったが2年生の先輩方と僕たち1年生が集まると、この話がよく出た。

「俺、言うわ」

藤多さんの偉いところは、間違いを発見しても延々と陰口を言うだけで何も行動を起こさないと言うような卑怯な事は絶対しないという事だ。
必ず大家さんに申し入れに行った。
その都度大家さんも計算をし直して訂正してくれたのでこの問題もひとまずは落ち着いたのだが、この騒動はこの寮に気持ちの良くない空気を残してしまった。
こういった事もあって春になると藤多さんや紀村さん、山口さんといった2年生は当然のごとく他のアパートを借りて出ていくことになる。
お金の問題と言うものはこじれるととんでもないことになるものだ。


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